ACME Buying Diary #3

家具ブランドACME Furnitureの買い付け日記

Contributed by Kenichiro Tanaka

Trip / 2020.04.16

インテリアブランドACME Furnitureの海外買い付けの模様をレポート。どこで、どんな風に、なにを見つけて日本へ商品がやってくるのか。ディレクターの田中健一郎さんがリアルなバイヤー視点で紹介していきます。

#3

ロサンゼルス買付け出張二日目の今日は、早朝にローカルマーケットで少々の買付けと朝食を済ませた後、ORANGE(オレンジ)という名の古い町並みの土地に移動した。
町の中心にはラウンドアバウト(信号の無い円形交差点)があり、その周辺には多くのアンティークモールが集まっている。



この町は、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のモデルとなった場所であると言われている。
毎回ここに来ると、思い出深い映画の中のワンシーンが蘇る。
主題歌の「The Power of Love」の熱く爽快なメロディーと共に物語が始まり、抜けるような青空の下で、マイケル・J・フォックスが演じるマーティ・マクフライがスケートボードで軽トラックの後に捕まって移動する疾走感あふれるシーンに、当時小学生であった私は映画館のスクリーンに釘付けになった。
そして、デロリアンに乗って1950年台にタイムスリップした先で見た、古い町並みや人々の装いなどの光景に大きなカルチャーショックを受けて、終始ワクワクが止まらなかったことを今でも鮮明に覚えている。
このORANGEの町並みを当時の心境と重ねながら見渡すと、少年の頃の懐かしい好奇心を思い出す。











街の周辺には20件ほどのアンティークモールが立ち並ぶ。
アンティークモールとは、店内の区画分けされたスペースに、アンティークコレクターが所有するモノが委託販売されているお店のことを指す。
区画ごとに所有者が異なるため、各スペースの品揃えや個性は様々。
買付けするしないに関わらず、見回しているだけで興味深いプロダクトが目に入ってくる。















出来ることなら全ての店を片っ端から回り、商品をひとつひとつ吟味したい。
しかし時間に余裕が無い。なぜなら、お昼すぎにはここを出て、夕方6時に閉まってしまう倉庫会社に行き、トラックに乗せた買付け品を全て下ろさなければならない。
今日中にトラックの荷台を空けておかないと、明日の早朝から買付けを行うことが出来ないからだ。
予め目星を付けている店に的を絞って効率的に買い付けを行っていく。
商品を判断したらレジカウンターまで持って行き取り置きさせてもらう。
商品探し → レジまで運ぶ → 商品探し → レジまで運ぶ。何十回もこの作業の繰り返し。
会計を済ませたら次の店に移動する。そしてまた商品探しの繰り返し。
地道な作業だけれども、好きなモノに触れ合うことに幸せを感じる。


マリリンモンローの唇を髣髴させる椅子。
真面目なモノばかりではなく、たまにはこんなギャグも取り入れたい。


アルミやレザーのカバーが付いたスキットル。
ウイスキーなどのお酒を携帯するためのモノだが、スティックタイプのディフューザーを入れても良さそう。

とあるアンティークモール内の区画で商品探しをしていると、たまたま居合わせたその区画のオーナーである初老の女性と立ち話をすることが出来た。
「長年自宅で大事にしていたモノが海を渡って、日本のどこかで使い続けられるのね。新しいオーナーの手に渡ってくれることを嬉しく思う」と話してくれた。
昨今、「サスティナブル」という言葉が流行して、多くの企業が乗り出して取組みを強化している。サスティナブルなのかリサイクルなのか区別が付かない時もたまにある。
アンティークやヴィンテージ家具、雑貨も、何世代にも渡り、修復されながら使い続けられることを考えると、モノへの愛着心こそが本当の意味でのサスティナブルなのではないかと考えさせられる。

まだまだ近隣のお店を見て回りたいが、時間の目処を付けて買付けを終わらせなければならない。
買い付けが終わった後は、トラックで全ての店に回り、買い付けた商品をピックアップして回らなければならないのだ。
今回の買い付けの相棒である15フィート・トラックは、荷台に大量の荷物を乗せることが出来るので収納力に関してはとても心強いが、でかい図体なゆえに狭い路地裏を通り抜けたり、駐停車する時はストレスでしかない。



予め考えていた手順で店を回りながら商品のピックアップを行い、全て完了したのは午後4時過ぎ。
想定していたよりも30分以上時間をオーバーしてしまった。
この町を出て、フリーウェイに乗った時には既に渋滞が始まっていた。



ロサンゼルスでは、朝夕の時間帯での大渋滞が深刻な社会問題になっている。
特にピーク時は、「パーキングロット」と呼ばれるほどで、上下線合わせて10車線にもなる広大なフリーウェイが車に埋め尽くされて微動だにしない時間が続くほどである。
年々加速する人口増加に対して、インフラ対策が全く追いついていない車社会(車に頼りすぎている社会)の現状である。
周囲の車を見渡すと、車内には一人しか乗っていない。渋滞するのは当然だ。
買付け業務を効率的にこなさなければならない我々にとって、この渋滞にはいつもうんざりする。
映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー・パート2」では、舞台から30年後の未来である2015年にタイムスリップをした。
そこでは車が空中に浮いて空を飛び交い、快適な交通状況が映し出されていた。

2020年の現実は、未だ先の見えない交通渋滞問題の解決策に頭を悩ませている。


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