The Route #5「anna magazine編集長の取材日記」
「コンチネンタルブレックファースト」
anna magazine vol.11 "Back to Beach" editor's note
Contributed by Ryo Sudo
Trip / 2018.05.14
「コンチネンタルブレックファースト」
3/22。
せっかくのオールドホテルなので、ルームサービスを頼んでみることにした。もちろんコンチネンタルブレックファスト。何がコンチネンタル知らないけれど、響きがいいのでたいていコレを頼む。2人のメイドさんが運んできた朝食をベランダで食べる。恥ずかしがるメイドさんをカメラマンが撮影。
彼は、あっという間に人との距離をつめるコミュニケーションの天才だと思う。
まずはホテルの隣にある、アラモの砦へ。
「テキサスへ行ったんだ」と言うと、たいていのアメリカ人は「アラモには行ったか?」と聞くらしい。やっぱりアメリカは実際のところ、コンサバティブな人が多い。
リバーウォークと呼ばれる人工の川のほとりを歩く。水害が多かったこの地区に川を作って、ついでに観光名所にしたらしい。アメリカのヴェニスと呼ばれている。
「〜の〜」って表現は、本当はとてもネガティブな表現だなと思う。本物にはかなわないよねって意味だから。
有名なサンフェルナンド大聖堂へ。
1800年代前半からある古い建物という話だけど、意外に綺麗にされている。観光地は、すべてがそんな感じでいろんなことがモダンに微調整されてしまうから、「あたりまえの暮らし」を感じたいという旅には向いていない。こういう場所を楽しむ時は、できる限り無邪気な気持で向き合うのが大切だ。
anna magazineの定番企画「でかいもの」シリーズを撮影しに行く。テキサスらしく、数メートルもあるウェスタンブーツのオブジェだ。ワニ革の微妙な凹凸まで細かく表現されていて楽しい。ただ、設置されているのがモールの入り口なので、雰囲気は妙に安っぽい。
いよいよBig Bend National Parkまでロングドライブ。
いつも思うのだけど、日々のルーティンになっている考え方というのはとても強力なもので、旅モードに頭が切り替わるまで最低でも3日くらいはかかる。それまではどうしても「いつもの」行動に支配されがちだ。例えば携帯をチェックしたり、別の仕事のこと考えたり。3日目を過ぎる頃から、ようやくその旅特有の時間の進み方にだんだんと自分が同化してくる。不思議なことに考え方やふるまいも変わっていく。
それにしても砂漠の風景というのは印象的だ。どこまでも広大でかさかさと乾いた大地を走っていると、「あ、今自分はロードトリップしているんだ」という実感が湧いてくる。余計なものが何もないというのがポイントなんだろうと思う。生きるために必要なものが足りない場所。水だとか。だから自分が生きているって感じがするんだ。
ロードトリップ中のクルマの中では、なんとなく全員が「今は静かにしていよう」という雰囲気になるエアポケットみたいな時間帯がある。40分とか1時間くらい。その間は、全員がただ、ぼうっと変わりゆく景色を見ている。他のみんなは今どんなこと考えているのかな、と思うけど、きっとみんなも僕と同じようなことを考えているんだろう。
アメリカならどこでも見かけるファーストフードチェーン、デイリークイーンには”ベテランのアメリカ人”がたくさんいた。日本で言うなら、スーパーマーケットのフードコートにあるたこ焼き屋という感じ。ほとんどが茶色で構成されたメニューで、それ以外の色の選択肢はない。看板メニューのチョコがけソフトクリームを頼む。さらに隣のソニックでも注文する。グリルチキンをチョイスして、カロリーを少しでも抑えようと頑張ってみる。
途中給油したガソリンスタンドで、真っ白な髪が印象的なおばあちゃんが、6畳ほどしかなさそうなせまいストアの窓辺でのんびり新聞を読んでいた。街から遠く離れたこの小さな砂漠のスタンドで、どうして彼女は新聞を読んでいるんだろう。
アルパインという街を過ぎてすぐにある、ビッグベンドブルワリーへ立ち寄る。日本のカメラマンから教えてもらったこの店のオーナーは、元は有名なパンクのミュージシャンらしい。そうしたストーリーをみじんも感じさせないようなオールドアメリカンな客層だけど、すごい混雑。4種類のクラフトビールを試せるタップセットを注文。やはり、エールビールが一番美味しかった。なぜか犬を連れている人が多い。
アルバインの街へ戻ると、街の小さな競技場でジュニアハイスクールの陸上大会が開催されていた。ちょうどサマータイムなったばかりで、19時半でも夕方のように明るい。マーファとアルパインの中学生たちの対抗戦。
かわいらしいスタンド席は地元の観客たちでごったがえしていて、まるで映画のような光景だった。カメラマンが撮影するものの、怪しまれないようにするのは至難のワザだ。よく考えたら当たり前のことだ。日本の地方の中学生の陸上大会に、どこか遠くの国から来た4人組の外国人がパチパチと写真を撮りまくっていたら怪しいに決まっている。
閉店ギリギリで入ってみたメキシカンレストランは大ヒット。エンチラーダとタコスのセットが最高においしかった。ここでも僕たち4人は、地元の客からのあまり歓迎的とは言えない視線を浴びた。ポーチにいると、ひとりの老人が様子を見に話しかけてきた。満面の笑顔だったけれど、僕たちの存在に疑いを持ってるのは隠せない。
テキサスの田舎街だから、仕方ないね。
古いピックアップトラックをあちこち探しつつ、ビッグベンドのエルドラドホテルへ。
真っ暗な国道を走っていて、3~4キロくらいの範囲だっただろうか、ある地域を通り過ぎるとき、路肩からウサギがたくさん飛び出してきて怖かった。ビデオゲームのように、次から次へと。
日が完全暮れたので車を止めて、空を見上げてみる。
驚いた。星空が素晴らしすぎたのだ。月の明かりに照らされてぼんやりと道に映し出される自分の影を見ていたら、どうしたって感傷的な気分になる。
そのロマンチックな気分はエルドラドホテルですべて吹きとんだ。
今日のベッドは、ロックバンドがツアーで使っていたバンドワゴンを改造した部屋。リードボーカル用だったと思われる奥のベッドは、紫色のあやしいネオンで照らされていた。
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Ryo Sudo
anna magazine編集長。制作会社Mo-Greenで数多くの広告制作、企業ブランディングなどに関わる傍ら、"anna magazine"、"sukimono book"などペーパーメディアを中心に独自の視点で日常生活を再編集し続けている。