The Route #8「anna magazine編集長の取材日記」
We left my heart in Albuquerque.
anna magazine vol.11 "Back to Beach" editor's note
Contributed by Ryo Sudo
Trip / 2018.05.17
We left my heart in Albuquerque.
3/25。
目を覚ましたけど、なかなか体が動かない。
ジョン・ウェインが寝ていたかもしれないベッドでしばらくの間ゴロゴロした後、気合いを入れ直して筋トレ。よく言われていることだけど、疲れているときほど体を動かすべきだ。体が温まるのはもちろん、面倒なことをやり遂げたという達成感でパワーが充填される。
西部劇全盛の時代には、たくさんの著名な俳優たちがこのホテルに宿泊していたのだという。撮影中のジョン・ウェインが馬でロビーまでやってきて「喉が乾いた、一杯くれ!」と叫んでみたり、地下に闇カジノがあったりと、「強い男」の時代だったアメリカの象徴みたいなホテルだ。広大なアメリカという国を管理するには、男性優位の社会のほうがいろいろと簡単だったんだろうと思う。
カメラマンがアルバカーキの有名なスケートスポットを取材しなかったことをしきりに後悔していた。ゆるやかなダウンヒルを15分間近く滑り下りられる、スケーターにとって夢みたいな場所らしい。
「あのスポットに行ったらみんな最高の体験ができたはずだし、anna magazineにとって最高の記事も取材できた。おまけに全員にスケートボードを好きになってもらえたのに」と。
We left my heart in Albuquerque.
彼はいつだって誰かと「楽しさ」をシェアすることを考えている。だから、どんな相手にも好かれるんだ。
ユタ、コロラド、アリゾナ、ニューメキシコの州境が交差する「フォー・コーナー」は、いわゆる観光スポットだ。普段は整列が苦手なアメリカ人も、ここでは記念撮影のためにきちんと並ぶ。ここに来る人は、誰もが笑顔だ。悪意が全然ない、幸せな場所だと思った。「わざわざ長い時間をかけて、でこぼこの道を走ってここまできた」という共通の意識が、ここに集まる人々の妙な一体感を支えている。
旅の価値は「目的」じゃなくて、「過程」にある。
フォー・コーナーは楽しいけれど、「心が動く」ということじゃなく「たどり着いた」という達成感を楽しむ場所だった。その感じは、実際にこの場所に来てみないと絶対に理解できないなと思った。
インターネットの利便性は否定しないけれど、「知識」は「体験」にはかなわない。体験することの素晴らしさをできる限り自分の言葉で伝えて、「ああ、行ってみたいな」、そんな風に誰かの背中を少しだけ押してあげることが、僕たちのようなメディアの本当の役割なんだと思った。本当はなんにも知らないことを、まるで知った気持ちになって終わりにしてしまう前に。
フラッグスタッフへ向かう。
景色は大げさじゃなく、15分ごとに変化する。特に、土や植物の色と、木の高さ。土はどんどん赤くなり、植物は黄色く、木は高くなる。
運転しているエディターが眠いからという理由で、「誰でもいいから面白い話を」とオーダーする。僕は少しも思い浮かばない。カメラマンが子供の頃のバカな話でみんなを笑わせる。
「なんか面白いことしてよ」
その状況で面白いことができるヤツは、子供の頃も今もスーパーヒーローだ。
旅の行程は押しまくっていた。
フラッグスタッフを通り過ぎ、目的地、プレスコットへと急ぐ。
日が傾きかけた頃、ようやく到着。
日曜だったので、めぼしい店はどこも早終いだった。
次の日は早朝に出発する予定だったので、今日しか街を取材できない。焦る僕。まるで競歩のようなスピードで街を練り歩き、気になった場所をとにかく撮影しまくる。
なるほど、ライブ感も大切だけど、ものづくりには「ゆとり」が大切なファクトのひとつだった。誰だって目の前の事にきちんと向き合って、「いいもの」をつくりたいものね。後から反省しきり。
プレスコットは派手さはないけど、品が良くて、心に残る印象的な街だった。
anna magazineは、外側だけを見ると大ざっぱな雰囲気に見えるのだけれど、本当はとても内省的なパーソナリティを持っていると勝手に分析している。だから、プレスコットの街のような「大げさじゃない品の良さ」にとても惹かれるんだと思う。
1927年に建てられたというHASSAYAMPA HOTELへ。
めずらしくホテルのバーで飲むことにする。男4人でカウンターに並んで。急ぎ足の旅の中で、はじめての時間だった。街の雰囲気がそうさせたのか、全員が本音で語った。数日の間、うまく言えなかったこととか。わだかまりがするすると解けてゆく。
よかった。明日も頑張れそうだ。
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Ryo Sudo
anna magazine編集長。制作会社Mo-Greenで数多くの広告制作、企業ブランディングなどに関わる傍ら、"anna magazine"、"sukimono book"などペーパーメディアを中心に独自の視点で日常生活を再編集し続けている。