面白い経験

面白い経験

Contributed by Yuumi Saigusa

Trip / 2021.07.06

25年越しで「NYに住む!」という夢を果たし、理想と現実の生活に日々苦戦しながらも、今まで感じていたNYCのイメージとは違う、新しいNYCで自分の現在地を探すYuumi Saigusaの旅連載!

#4

ロビーで眠るにも寝れない。眠さと寒さと戦いながら“ふっ”とあの事が蘇った。それはNYに来て最初の年のことだ。家を探していた時になかなか見つからず、繋ぎで2週間程一時的に借りられる家を掲示板で探していたのです。そこで見つけた「ドアマンつきのホテルのような施設、シーツも毎週変えてくれる」という何とも魅力的なタイトルに興味を持ち、レントもまぁまぁ、掲載されていた写真も悪くなさそうだったのでさっそく連絡を取り内見を希望しました。ところが賃貸主がNYにいないとの事で内見は出来ず、とりあえず掲載されていた画像は悪くない感じだったので2週間そこに滞在する事にしました。当日に送られて来た住所に行くとドアマンというよりも警備員みたいなおじさんがドアの前に居ました。賃貸主から「ドアマン(今思い起こせばドアマンではなく確実に警備員)に何か言われたらこれを見せてください」と厳しく言われて渡されていた紙を用意していましたが、何のチェックもなく簡単にスルー。部屋に入ると掲載されていた部屋とは180度雰囲気の違う部屋でした。人が何年も住んでいなかったのだろう、確実に空き部屋の空気。その時期は冬で、凍りつく様な隙間風がピューピューふいていて、埃だらけの机の上には奇妙な宇宙人の人形があり、お香の臭いが充満していたのです。掲載されていた画像より狭い部屋だったし、入った途端になにもかも嫌な空気でした。
「嘘でしょー」
1秒でもここには居たくなかった。とりあえず落ち着こうと日本から手荷物で持ってきた私の長年の相棒「ブロンズのライオン」を置いてみた。相棒がいれば落ち着くか落ち着かないか一人会議するのにたっぷり2時間考え耐え抜きましたが、寒さもあいまってなかなか落ち着けず、結局は荷物を広げる事もなく私が10代の頃家庭教師をしてくれていた先生の家に滞在させて貰う事にしました。
すぐに賃貸主に連絡をして掲載画像とタイトルと違う旨を伝えると「以前の画像のままの掲載画像だった」とあっさり非を認め、NYに戻り次第精算をしてくれる事になりました。ところがその後、戻ると言われていた日になっても一向に連絡がなく、再度返金の申し出をすると人が変わった様な対応、終いにはデポジットも返さないと言われたのです。2週間前まではナイスな対応で話が出来ていたのに、2週間の間に彼の身に一体何が起きたのか?



たった2時間の滞在の為にデポジットまでも返ってこないのはあまりにも悔しく他の人に相談すると口を揃えて「裁判か諦めるしかないね」との回答。NYではよくある事だから。裁判だなんてとんでもないと思っていたけれども、どうしてもよくある事で済ませたくなかった私は、先生にヘルプを頼み裁判をする事にしました。こちらではよく裁判を起こすという言葉を聞きますが、日本人の私からしたら裁判は大変なプロセスがあってハードルが高いものと思っていました。でも裁判の申し出はちょっとそこの区役所に手続をしに行ってきます位の簡単なものでした。申込書に案件を記入し、25ドル(確かそれくらい)のapplication feeを払ってあとは出廷日を提示されその日に出廷するだけ。私の前にも何人か並んでいましたが、普通に裁判を起こそうとしようとしている人達なのか。そっかー、こんなに簡単に受け付けてくれて申し込み料金も安いならよく裁判を起こす意味もわかるな。

強力な先生のヘルプの下、必要書類を集め調べて行くとそこは学生寮で安い家賃で借りている事が判明。間貸しをしてはいけなく法的にもそれは禁止されている事がわかりました。今までたくさんの人をこの手口で騙していたのだと思うと益々腹立たしい気持になり、その事も資料にまとめ当日家庭裁判所(small claims court)へ。こちらは元弁護士だった先生の友人デボラさんと先生、強い味方を引き連れていざ出陣! 緊張もありつつ、なかなか経験の出来ない体験にちょっとだけワクワクさも感じながらコート内に。
思っていたよりかなりリラックスムードの裁判部屋には同じ日に裁判を起こす何組かの出廷者が続々と着席する中、裁判官がコーラを飲みながら準備をしていました。さすがはアメリカ、ここでもコーラか、と少し緊張がほぐれた気がしました。次々と案件が裁かれる中とうとう私の番が回って来ました。他の出廷者もいる中で裁判が始まりましたが、結局被告人が現れなかったため、別室に呼ばれデボラさんが私の代わりに主張をしてくれ勝訴の判断が下されました。ただ、それよりも私は馬の絵がプリントしてあるシャツを着ていたウエスタンスタイルの裁判官に目が行ってしまい、話はそっちのけに勝手にファッションチェック(おかげで緊張がほぐれた)。その間に裁判は終了となり、部屋から出るや否やデボラさん、先生もウエスタンスタイルだった裁判官の話で盛り上がり。あっ、ところで勝訴おめでと〜!
という感じで面白い経験は終了しました。さすが自由の国だな〜。(経緯は色々ありましたが...)

そんな事を思い出しながらロビーで待つ事3時間、やっとチェックインの時間になりカウンターに行くと“Hi yuumi!”とフレンドリーな対応で迎えてくれる。かしこまっていない感じがなんだか心地良かったりしたのですが、渡された鍵は41階あるうちの28階の部屋の鍵。中の若干上の階、それでもあまり期待はしていませんでしたが、部屋に入ると思いの外室内は明るく、綺麗に清掃され、狭いけれどもキッチンもや最新のバスルームもあって、12日間過ごすのには十分満足な部屋でした! ロビーで待っていた時点で既に他のホテルを探し始めていたけれども、予約しなくて良かった。今回は移動せずに済んだ! さて今日から12日間何をしよう。





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