Bridge Town

Couch Surfing Club -西海岸ロードトリップ編- #46

Bridge Town

Contributed by Yui Horiuchi

Trip / 2023.06.15

海外へ何度行ったって、旅慣れなんてない。旅で出会う全ての人にフランクに接し、トラブルだって味方につける。着飾らず等身大で、自分のペースで旅を楽しむアーティストYui Horiuchiさんが、サンフランシスコからポートランドまでの旅の記録。

#46

Corvallisを出てすぐ隣町のAlbanyでガスステーションに立ち寄った。
日本に今はなき懐かしきam/pmがコンビニとして併設されている。



「あ〜まじオレゴンのガスステーション最高」
そう言って車を止めるといつもはすぐに運転席を降りる友人が車内にまだおり、様子を伺ってると他の車の接客をしていた従業員の男性を待っているようだった。

窓を下ろし、
「満タン?」
「お願いするよ」
そう言ってクレジットカードを渡す。

窓を閉めてから
「いつもセルフなのにここは有人で給油してくれるんだね」
「そうなんだよ、オレゴンは無職の人に仕事を作るっていう政策の一環でカリフォルニアだと無人とか全自動の職務にスポットを見つけて仕事が必要な人に行き渡るように取り組んでるんだよね」
「しかもここカリフォルニアよりガロンあたり$3もガソリンが安いのに有人ってすごいね」
「そうカリフォルニアでは税額も違うしね」

窓をノックされ
「終わったよ」
「ありがとう」

そう言ってガスステーションを出る直前に
「あ! チップあげ忘れた!」

普段行くカリフォルニアのガスステーションは無人なのでそのまま出発しそうになり、ガスステーションの敷地内で先程接客をしてくれた男性を見つけ
「YUIこれ渡してあげて」
そう言って友人から5ドル札を受け取った。

助手席の窓ガラスを下ろし
「’SCUSE ME SIR!!!」
大きな声で片手にお札をかかげて2レーン向こうにいる男性に声をかけた。
目線があってチップを持っていることには気がついたみたい。

しばらく別の車の接客中だったので、その間片手を窓から出したままで待っていたら
「お金をヒラヒラ見せつけてエサで吊ってるみたいだからもうちょっと控えめにしてあげて」
と友人が隣で失笑していた。

「whoops!」
そう言って、持っていたビルを四つ折りにして片手に握りしめる、窓を開けたフレームに肘をかけて待つことにした。

係の男性が来るまでの間、車内でこんなことを話した。
「せっかくガソリン代浮いたのにちゃんとチップは払って本当律儀だよね」
「まあ、よく忘れちゃうんだけどね、でも高級レストランは当たり前のように高級取りのお客さんが来てて高額なチップが支払われてるのに対して、生活に身近なガスステーション、清掃員やエッセンシャルワーカーの人々の生活にとって必要不可欠な労働者の人ほど低所得で働いているのに彼らにはチップが支払われないっていう矛盾があって、低所得者層の人にはチャンスが少ないって思うとちゃんと習慣的にこういう所ほどしっかりチップをあげたいって思うんだよね、彼らの生活を充実させるために小さなアクションを起こしてたら社会的にも良い循環を生み出すきっかけにつながるから今日はむしろちゃんと思い出してよかったよ」

係の男性にようやくチップを渡せて再出発。
前に何かの記事で『もし一万円を拾ったとしたら自分のために使うか、人のために使うかどちらの方が幸せだと思いますか?』という問いかけがあった。
自分の持ち物を全部を与えることはできなくても分け与えるというマインドセットで過ごしている方が幸せだろうな、とはわたしもうっすらと思っていた。
金銭という結果と直結しやすい報酬を躊躇することなくオファーすることができる友人には小さなことに左右されず心が満ち足りているんだろうなと余裕すら感じられた。
お手本にしたい友人がいるわたしも幸せなんじゃないだろうか、そんなことも思ったりして。



一時間も車を走らせているとTigardの標識がみえてきた。
もう時間は夕方4時過ぎ。

「むちゃくちゃお腹すいた」
「もうなに頼みたいか決まってる?」
「うん、小籠包と炒飯とあとなんかグリーンのもの、YUIは? メニューオンラインで見れるから見ておきなよ」

英字でSafariの検索窓にDin Tai Fung とタイプする。
まずアペタイザー。
”Steamed Soup with Bone-in Beef Short Ribs“というメニューに釘付けになった。

「わたしこれ絶対頼むよ」
「へぇ、そんなメニューもあったんだ、それ食べたことないよ」
「全部美味しそうだけど、美大生の時に仲良くしてくれてた同級生の実家が牛肉工場で、家に遊びに行くと美味しい牛テールスープ作ってくれたんだよね、もしそれに近いとしたら間違いなく美味しいんだ」
「よしトライしよう、あとは?」
「うーん、小籠包は8個入りだから二人で半分で十分だろうね、あ私ワンタンと青梗菜の炒め物食べたい!」
「結構多いかも」
「でも多かったらドギーバックできるでしょ」
「そうだね、夕飯前の軽食として持ち帰っても良いし、おっけー! じゃそれで決定!」

パーキングに車を停めて犬に水をあげてから、いよいよポートランド入り直前のご馳走に心なしか足早に鼎泰豊の入っているショッピングモールへと入店した。

夕飯でも昼食時でもない変な時間だったこともあり、まだ店内の客入りはまばらで予約しているわけでもないのにテーブル席ではなくシックな黒い革張りシートの立派なボックス席に案内してもらった。
すでにオーダーを決めていた私たちは一気に6品を頼み、友人はコーラをわたしは暖かいジャスミン茶を、料理が運ばれてくる前に珍しくノンアルで乾杯した。

わたしはコーラ系の飲料が飲めないので、
「中華にコーラ? 美味しいの?」
「脂っこい食事には相性最高だよ、少しミントっぽい爽快感があってむしろ口の中がリセットする感じ、体には…悪いかもしれないけど」
「小さい時から歯が溶けるって聞かされてきたからなあ」
「歯は溶けないかもしれないけど飲まなくていいなら絶対飲まないでいた方がいいよ、体にとって健康的なことは確かだよ」
甘々だと今まで思ってたコーラの新しい一面を知った。

待ち時間は短く、一番に気になっていた牛スープがすぐに運ばれてきて、とりわけ用の小さなお椀に適当にスープを分けてまず匂いを嗅いでみた、臭みは一切なし。
一口すすったスープは湯船に入れて浸っているかのような柔らかな舌触りで舌の味蕾の全表面から絶妙な塩梅の牛ダシが体の細胞に染み渡って行く感じ。
骨付き肉は口の中でホロじゅわっと崩れてしまいすぐに骨だけになってしまった。
腹ペコな二人の胃袋に染み入る出汁の旨味。
一品目があまりにも正しい選択で私たちのごはんスタンバイは完全に整った。



大皿で一気にメインとサイドが運ばれて、ボックスシートのテーブルも埋まりそうな程のご馳走に一瞬目が眩んだが、ものの30分であろうことか完食してしまい、当初のドギーバッグなんてアイデアは幻のものとなった。
美味しい物を友人や家族と一緒に食べる時間は紛れもなく幸せそのものだろう。
幸福感で満ち足りたままお腹をさすっているとテーブル担当からおすすめのビールがこの時期限定でタップに入っているというので試飲させてもらうことにした。
食後にピッタリなフルーティーなAmber ale だったのでパイントを分けることにして晩餐を締めくくりお土産を後にする。

「ちょっとモール見てく?」
「時間あるなら!」
「よし何があるか見にいこう」

アップルストアを見つけたが、さすがtax freeのオレゴン州、店の外にはスタッフの指示に従いベルトパーテーションに沿って伸びる行列が。
親友にオレゴン州でAirTagとiPadのペンを買って来てと頼まれていたが流石にここでそこまで待ってる時間はなかったのでスルーした。

トイレを探すついでにモールの端から端まで歩き、Macy’s のアウトレットコーナーでクリアランス商品をチラ見してUターン。

「今までトイレのサイン見なかったから鼎泰豊に戻るしかなさそうだね」

わたしが幼少の頃からショッピングモールやスーパーのトイレは幼児誘拐や犯罪の温床とされていたので、わたしの母も周りの人に笑われようと、兄とわたしのリュックに犬のリードを付けて歩いていたのが懐かしい。
当時は子供を犬扱いしていると軽蔑の目を向けられることもあったようだが、昨今ではこの単純でアナログな方法を取ってでも子供が迷子になったり犯罪に巻き込まれるのを防ぐ一つの方法と認識されてきているようなので、それなりに理解を得ているというような話を耳にした。
そんなわけでトイレそのものが撤廃されていることも頷けた。
一般客の様子は分からなかったが、私たちは食事を取っていたので
「さっき食事をしてたんだけど、モール内にトイレが見当たらなくて、ここの使わせてもらえる?」
そう言って一度退店したレストランに戻り、残る1時間半のドライブに備えた。

北上を続ける車内で日米のレストランでの接客やマナーの違いのついて話す。
「今日のテーブル担当の彼どうだった?」
「わたしは気に入ったかな、ちゃんとわたしにも目を見て話してくれたし、おすすめされたビール頼んじゃったよ」
「思うがままじゃん!」
「でもあの彼わたしよりあなたのこと気に入ってたと思うよ」
「え、なんで?」
「なんかずっとタトゥー見てたから気になるのかなあって」
「ああ彼もタトゥーたくさん入ってたもんね」
「日本では大声出して手上げて注文しても全然問題ないけど、日本に遊びに来てた時わたしがそれやったの見て目まんまるにしてショックを受けてて面白かったよ、覚えてる?」
「あれはマジでカルチャーショックだった! あんなことしたらむしろ店からクレームが来るよ」
そう、アジアのこの習慣は欧米では受け入れられない。
「アメリカではチップを払う習慣があるからね、むしろ呼びつけたり、注文まだ?とかお会計まだ?とか言ったらもうテーブル担当の子ビビらせちゃって可哀想なことになるだろうな」
「ちなみに待っても待ってもテーブル担当の人が来ない時はどうするの?」
「目線を送って目が合うまで待つ、あとは少し人差し指を上げて合図したり、もしそれでもダメなら肩くらいの高さまですこーし手を上げてみる」
「ものすごい持久戦だね、もしそれでもダメなら?」
「トイレに行ったついでっていうフリして声をかけに行くかな」
「すごいね、もちろん敷居の高いとこだけだよね?」
「そうだね、キャッシュオンでセルフでテーブルに持って行くとこの方が価格も安いし、ちゃんとしたレストランでテーブル係の人にきちんと接客してもらうのがお店の対価にも見合ってるっていう感じかな」
「わたしは未だに食事中に何度も『お味はいかがですか』『何かご用は?』『いい時間を過ごしてる?』って聞かれるの慣れないんだよね、まあ応答は適宜するけどさ、ご飯食べてる間に会話に没頭したりしてても声かけられると一時停止モードになっちゃうんだよね」
「まあ彼らにとってはそれが義務だからね、客に満足行くサービスをしてチップをもらえないと収入に響くからさ仕方ないんだよね」
「そうだね、てかさ給与で十分に生活ができるようにチップのルールが廃止になったらいいのにね」
出発した時に話題になったガスステーションでのチップに関する会話を思い出していた。

話をしていると見慣れた景色が。
「Welcome to Bridgetown」
友人がそう言った。





ポートランドの市内を縦断するウィラメット川にかかるたくさんの橋が見えてきた。
Bridgetown やRip City、Stumptown、PDXなどたくさんの愛称で親しまれているポートランドだけど、陸路で市内に移動してきた時はBridgetownが一番しっくりくる気がする。



わたし達はダウンタウンを抜けてBroadway Bridge を渡る。
Airbnbがある北東のEliotを目指した。

Airbnbに到着するも、ここでエアビーあるあるなのがセーフティーボックスが開けられず玄関ポーチで一悶着、というのがここでも勃発。
友人では歯が立たず、本体に記載のあったメーカーから製品情報をスマホで検索して開け方を習得、わたしも膝をついて地面の近くに設置されたセーフティボックスを覗き込んでいるうちにようやく「カチャッ」とロックの外れる音がして中から鍵を取り出すことができた。



誇らしげに鍵を握った右手でガッツポーズを決めていると
「Good dog!」
「え? 今いい子(犬)だねって言った?」
「違うよ!! I SAID GOOD JOB!!!!!」
爆笑していたけど、この鍵が取り出せない下りのせいでもういろんな神経がシャットダウンしてしまったようだった。

どの部屋がいいか友人と部屋決めをしてから各々の荷物と犬の餌やベッドも運び入れ、足を伸ばしに散歩に出かけることにした。





FUTONが日本語って知らなかった友人。
アメリカでは折りたたみ式のマットレスのことになっちゃうもんね。

大きな「&」のようなトラックを描いて家路についた頃にはAirbnb到着からすでに1時間が経過していて、疲れた友人はお昼も大きかったし、夕飯は抜くと言う。



アメリカに来てから胃がおっきくなったわたしは残りものを寄せ集めて晩酌とすることにした。



ひどい絵だ。笑
お腹を満たしてよく寝るとしよう。



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