Couch Surfing Club #3

NYも日本晴れ

New York

Photo&Text&Illustration: Yui Horiuchi

Trip / 2019.08.28



初めて快晴に恵まれた、タイムズスクエアの朝。日本では五月晴れが続いていたので、ニューヨークでもようやく本調子といったところ。コリアンタウンの一角ではFedExの作業員たちが大量の荷物を街中にぶちまけている。そこら中にちらばるいろんなサイズのダンボール。



ニューヨークらしい光景を横目に、熱気を避け地下鉄へ向かう。目的地はMoMa、改修中だと聞いたけどメインの収蔵品だけでも見ておきたかったのだ。



実は前日の夜、「明日何するの?」とKenに聞かれ、MoMAに行くことを伝えるとMoMAのメンバーズカードを差し出してくれたのだ。

いい奴すぎる。

おかげで入場料は無料、エントランスの列にも並ばず、ギフトショップの買い物は10%オフになった。今度日本から美味しいお酒でも送ってあげよう。



高校生の時から大好きだった、アンドリュー・ワイエスの絵があった。これを観られただけでも大感激。

しばらく絵の前から動けなかった。実物を見るのはこれが初めて。この絵を観た人からは、私の絵と似ているとよく言われる。それもそのはず、後ろ姿を描き始めた理由は他にあるものの、彼の描き方がずっと好きだったからだ。いつかはこんな詩的な絵が描きたいと今でも思っている。



ギフトショップでもいい出会いがあった。以前、ポートランドの書店で買ったガラスジャーの蓋が緩みはじめていたのだけど、同じ型の柄違いを見つけたのだ。

母にあげたものだったが、このまま新品のジャーに代替えしたらいいと思い購入。ミロのプリント付き。家に持って帰ったら一緒に作った自家製の梅酒を入れてもらおう。



お土産をトートバッグにぎゅっと詰め込み、昨日に引き続き友人のJenniferに会うため、彼女の働くZabar'sに向かう。一緒にセントラルパークでピクニックをする予定だ。

90年以上続く老舗のユダヤ系のスーパーで、あれやこれやとおすすめされるがままに店内を物色する。お目当てはスモークサーモンのベーグルサンド。そう大きくはないスーパーの中に、食肉加工場やデリ、パン屋などが全コンパクトに収まっている。

お店のマネージャーを紹介してもらうと、流暢な日本語で挨拶をしてくれた。日本人を乗せたツアーバスが来ることも多いらしい。

「日本人の感度はどれだけ高いんだよ」とここに来てまた驚かされた。



ベーグルに具材を詰めてもらっている間、サーモンを味見してみろと言って、加工場のおじさんがスモークサーモンのスライスを少し切り分けてくれた。真空パックや冷凍コーナーでよく見かけるスモークサーモンじゃない、刺身かと思うほどの艶、弾力で、今まで食べたなかで一番美味しいスモークサーモンだとおじさんに伝えた。

本当にそう思ったから言ったのだけど、おじさんはまんざらでもない様子(笑)

自信のある証拠だと思う。



アメリカらしいお土産もたくさん売っていた。チョコレートバーのフレーバーがニューヨークチーズケーキ、スモア、チョコレートクッキー味。お土産もかねてフレーバー別に買ってみる。



時短のためセントラルパークへは電車で向かった。公園の中心部までは最寄りの駅から歩く。



お目当てのスポットにたどり着くと、そこには先客が思い思いの格好で雲ひとつない晴天を満喫していた。

Jenniferが持って来てくれた、レジャーシートではなくテーブルシートを広げる。プラスチック製ではなくて薄くて軽い紙のようなもの。

一度座ってみる。

夜露のあとの芝生が湿っている感覚がわかるだろうか。一瞬でおしりのスタンプがシートに残り、二人で笑いあった。

濡れてしまったパンツを太陽に向けて乾かしたりして、包装用のビニール袋を二人とも座るところだけに敷いて座った。



ピクニックランチは、たちまち撮影用のプロップになった。私がベーグルサンドを持ち上げた手元を撮影した様子が実際にインスタグラムに使われている。その様子がこちらこちら。珍しく爪を磨いていてよかったと、今になって思う。



前に日本で会った時に、一緒に地元巡りをしたり、家で抹茶を飲みながら自分のやりがいになる仕事を見つけたいなんて言っていた彼女。転職先でははりきって仕事をしているようで、いろいろと今後のことなどをお喋りした。



ベーグルを瞬時に平らげた私は、気持ちいい天気の中で多幸感に溢れる人々をもう少し眺めていたかったが、この後チェルシーのギャラリー巡りをしようと話していたので、ランチ aka プロップをしまい、元来た道を戻る。

セントラルパークの南西に位置するギャラリー街は公園から近い。時間にはまだ余裕があるの歩いて向かう。



訪れたギャラリーは、感覚としては美術館のそれぞれの展示室がそのまま街と融合しているようなイメージだ。

すべての展示室には通路を通って出入りをするのだが、それぞれの建物の扉を開けて通るたびに外の道路に出るので、違う展示を渡り見ているような感覚だ。

ギャラリーの目的というのは、プライマリーという美術業界で一時流通するアーティストの支援で、作品の価値を保証したり、存命の作家の作品を多く扱っているという点で美術館や博物館などとは大きな役割の違いがある。ギャラリーの業界に長くはないが身を置いて自分なりに見てきたので、売る側、買う側、作る側、見せる側、いろんな視点でギャラリー巡りを楽しんだ。



昨日スタジオを訪ねたホセの展示。



以前働いていたギャラリーの所属作家の流麻仁果さんの展示も。



歩き疲れ、近くにおすすめのスペインバルがあるから一杯飲みに行こうとJennifer。

向かった先はその名もSpain。

建物の一階部分が半地下になっているような、ニューヨークではごく一般的な物件で、テラスの前はすごく昔の新聞が。しかも日本の記事だったので、ここでもまた不思議なコネクションを感じずにはいられなかった。

店主のおじいちゃん、店、レジ、すべてが古い。でも今も昔も変わらず静かに同じ時間が流れているようなお店。



二人でスペインのビールを瓶のまま乾杯、これがうまい。太陽にジリジリと体力を吸い上げられていた私たちはすぐにボトルを空にした。
もう一本追加で頼むと、「お店からだ」とおじいちゃんがつまみを二品出してくれる。つまみながら飲みながら、食べきろうとすると、すぐにお代わりが補充されていく。いつもより多めにチップを払おうと心に決めた瞬間だった。

次の予定があるので、Spainをあとにした。



待ち合わせ場所はWe Work本社。レセプションのおじさんと話がかみ合わず、仕事場は覗く時間がなかったが、無事友人には会えた。大学の頃、クラブで死ぬほど一緒に遊んでいた彼女、誕生日が1日違いだったから、留学期間中、卒業後もよく合同でお誕生日を祝った。わたしの二十歳の誕生日には二人してふざけて特大サイズのペニスケーキに、顔面ダイブさせられたりした仲だ。



Tiffanyが連れていってくれたお店は彼女が元彼とよく通っていたというフレンチレストラン。別れた後もよく来てるという。ほろ苦い思い出よりも、旬の美味しいものを提供してくれるお店には胃袋も気持ちも前向きにしてくれる証拠だろう。

会うのは本当に久しぶりだというのに、いつもの装い、歩き方、喋り方、なにも変わっていない。タイムスリップしたような気持ちになる。

制作のこと、友達のこと、仕事のこと、恋愛のことはあまり話さなかったけど、たくさん話した。



デザートを待ってる間、突然隣の席のおじさんに「お父さんから電話がきているよ」と言われ、なんのことかとふと自分の携帯を見るとDadと表示された着信画面。そういえば父親にはニューヨークに行くこと言ってなかったっけな、国際通話は高くつくので取らずにいたら「出ないの?」と不良娘扱いされた。「わたし今日本にいることになってる」なんて言いながら、返信した。



デザートがでてくるまで時間がかかり、もうキャンセルして出ようかというタイミングで出てきたレモンタルトとチョコレートケーキ。これがまた絶品だったのでかなり遅れてサーブされたことは、着信を教えてくれた隣の席のおじさんに免じて許すことにした。



帰り道に通ったパーティーショップに立ち寄って母親にテレビ電話をする。

「何かほしいものあったっけ?」と聞いたら、

「プラスチックフォークとサンドイッチバッグ」

即答だ。日本のプラスチックフォークは柔らかすぎてダメらしい。

サンドイッチバッグはあの薄くて茶色いやつがなかなか見つからない。



お目当てのものはすぐに見つかり、店内のバチェラーパーティーコーナー(18禁)のグッズなどでふざけてから家路についた。



33rd st station、ホームに降りると聞き慣れたオアシスの音色が。改札に上がるとバンドマンがパフォーマンス中。コピーのうまさに一曲演奏し終えるまでほろ酔い気分で聴いていた。

さっきのお店でけちったチップを彼に渡し、気分上々で長い1日を終えた。


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