特別な日の前の日。

Gloomy day All day #8

特別な日の前の日。

Contributed by Aya Ueno

Trip / 2023.06.30

フォトグラファー/ライターの上野文さんが、過去のイギリス留学の様子を綴ったContainer WEB人気連載『Greenfields I'm in love』。全74回の連載を終え、今回からは2021年の冬に過ごしたロンドンでの2週間をお届けします。大好きなロンドンでの、小さな「きっかけ探し」の旅。

#8


ロンドン、5日目。今日はクリスマスイヴだ。一年の中で、わたしが一番好きな日。
クリスマスじゃなくなって(例えばお誕生日でもなんでも)、特別な日の前の日が好きだ。
当日になってしまうと、それはもちろん楽しいのだけど、終わってしまう寂しさがそばにある。でも前の日だったら、思う存分楽しみだと言っていられて、だからわたしは特別な日の前の日が好きなのだ。

前置きが長くなってしまった。クリスマスイヴの日、ともかくわたしは2泊分の荷物を持って、きょんちゃんの家を出た。今日から以前住んでいたホストファミリーのお家でクリスマスを過ごす。2年ぶりのTichener家、2回目のTichener家で過ごすクリスマス。


きょんちゃんはクリスマスイヴなのに今日も授業。昨日に続いて、今日も可愛い三つ編み姿。


と言いながら、イーリングの彼らの家へ行く前に、朝ご飯を食べに、「Regency Cafe」へ寄った。大好きな人たちとたびたび通った店。クリスマスイヴが年末最後のオープン日だったから、今日行かないわけにはいかなかったのだ。それに、クリスマスイヴに1人でごはんを食べに行くなんて、なんだか素敵な気がする。


道中、公園があったから寄り道した。


お店に入ると、6人席が空いていた。たった1人で座るのには少し申し訳ない気持ちになるけど、まあいいや、振り返れば不思議なことに、いつもこの席が空いていて、ここにしか座ったことがなかった!きっとわたしの席なんだろう。
列に並びながら、壁にある大きなメニュー表に目をやる。メニューはたくさんありすぎて、やはり今回も焦ってしまう。順番が来たら、迷ったり、モタモタしないで速やかにオーダーしたい。隅までサササッと読んで、よし、おなかがすいたし、ソーセージ、ブラックプディング、ベーコンと、肉肉しいものが3つ揃ったヘビーなやつを注文した。

この選択が正解だったか否かはわからないが、一応オーダーはスムーズに終えた。お釣りと一緒に渡されるコーヒーとパンを持って席へ戻る。プレートができるのを待ちながら、お客さんの人間観察。わたしの横にいた男性は、大きなハンバーガーが来るや否や、両手でぺっちゃんこに潰して、ちいちゃくなったものを頬張った。あまりの衝撃に声が出そうになった。




パンとコーヒー。おなかがすいて、かじってしまった。


1人で来るなんて少し大人になったものだとか思っていたけれど、結局、やっぱりなんだか人とお話ししたい気分。そしたら、真後ろに座ったおじいちゃんがその心を読んだみたいに話しかけてきてくれた。彼はKenという。日本にも何度も来たことがあったし、アジアに住んだこともあるらしい。わたしはオーダーを待ちながら、ずっと後ろを振り返ってずっと彼と話していたけど、名前を呼ばれてカウンターにプレートを取りに行く時、Kenに聞いてみた。
「一緒にランチを食べてもいいかな?」
「いいよ。僕はいまから公園に行かなきゃならないから、そう長くはいないけど」

わたしのクリスマスイヴランチは、Kenとの素晴らしいデートとなった。
彼には子供が3人いて、今日はそのうちの1人の息子が孫を連れて帰省するらしい。そして、その孫と会うのは今日が初めて、なんなら息子と会うのも10年以上ぶりだとか。もしかしたら、わたしがどっかで聞き間違えたのかもしれないし、その時だってそんな映画みたいなことあるかと思って何度も聞き返したのだけど、ともかく彼によると今日はそんなスペシャルな日だという。
Kenは上品にランチを食べて、にっこり笑いながらおしゃべりしてくれた。わたしは彼のテンポがとっても心地よくて、優しい気持ちになる。なんて素敵なクリスマス(イヴ)だろう。さっきまで見知らぬ人だったKenと話しているだけなのに、Kenのおかげでなんだかこの時がすっごく特別な空間みたいに思えた。

ここ数日、人と会うたびに訪ねている質問をKenにも。ロンドンはあなたにとってどんな街? 紙に書いてほしくて、慌てて身の回りを探した。選ばれたのは、1番近くにあったランチプレートと一緒にもらったナプキン。一枚取って、ペンと一緒にケンに渡し、言葉が決まったら、それをここに書いてほしいとリクエストした。

この質問には時間がかかる人が多いのだけど、Kenはそうだね…と少しだけ考えたのち、ロンドンはFabulousだよ! と言いながらナプキンにそう書いてくれた。







ほどなくして、彼はお店の外に置いたモーターバイクで公園へと繰り出した。彼は足が悪いので、いつもモーターバイクで移動するのだ。クリスマスイヴに、家からそう近くもないここまで朝ごはんを食べにきて、またそう近くもない公園へと向かう、なんだかアクティブな彼がとってもとっても素敵。彼が帰って、自分のプレートに改めて目をやると、ちっとも減っていなかった。よっぽど楽しかったんだろう。



素敵なクリスマスイヴの始まり、ああやっぱり、クリスマスっていいよね。ポカポカしてあったかい気持ちで、ホストファミリーのお家へ向かう。




つづく!



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