チューリップを抱えて

Gloomy day All day #18

チューリップを抱えて

Contributed by Aya Ueno

Trip / 2023.11.03

フォトグラファー/ライターの上野文さんが、過去のイギリス留学の様子を綴ったContainer WEB人気連載『Greenfields I'm in love』。全74回の連載を終え、今回からは2021年の冬に過ごしたロンドンでの2週間をお届けします。大好きなロンドンでの、小さな「きっかけ探し」の旅。

#18


2022年、元旦。華子さんは、玄関に可愛いしめ飾りを用意した。松は、ご近所さんからいただいたもの。お散歩中に松が生えているのをみつけた華子さんは、この前そのお家に伺って、お裾分けしてもらったのだ。

昨日は遅くまで呑んでいたから、今日は遅起き。お昼くらいにキッチンへ行くと、グレイスもちょうど降りてきたみたい。私たちは昨日のパーティーのためにつくったレモンケーキの残りを食べた。

のんびりした朝、というか昼。キッチンの額縁の幅、そこは10cmもないのだけど、この家の猫たちの定位置でもある。今日もバターはそこでのんびり目を瞑っていて、その奥には日本から送られてきた鏡餅が飾ってあった。私が写真を撮ったら、グレイスがこの写真のタイトルに寝正月、と名付けてくれた。ロンドンで、寝正月。いいな。



年賀状の代わりに、玄関口に届いたのはちょっと前にネットでオーダーした大量のスーパーのグロッサリー。美味しそうなファミリーサイズのアイスが3つも! 華子さんも、わたしも、グレイスも、みーんな違うのを食べたがったから、全部買ったのだ。

夜は、みんなのアイスをちょこちょことガラスボールに入れて、グレイスの部屋で映画を見た。『エノーラ・ホームズの事件簿』というもの。普段洋画を英語字幕で見ることがないし、見ても結局わからないと思っていたけど、ミステリーだからか、旅行とはいえコロナやらなんやらで英語を使うことが多いからか、予想以上に話が入ってきて嬉しい。私が好きなサム・クラフリンが出演していた。やっぱり彼の顔や話し方が好き。

次の日、朝いつものようにコロナの検査をしたら、ついに、ついに、線がたった一本だけ浮かび上がった! 線が1本というのはすなわち陰性ということ。ようやく帰国という文字がやっと現実に近づいてきた。

ちょうど、病気になってから7日目、今日は日曜日だった。1番お気に入りのマーケットである、コロンビアロードフラワーマーケットが、年始めからオープンしているみたい。先週は年末のホリデーでお休みだったのだ。

この家に来るまで一緒にいたきょんちゃんも、同じ日にコロナを発症したのだったけど、彼女も陰性になったんだって。私たちは1週間ぶりに、マーケットで落ちあうことにした。

約2年ぶりのフラワーマーケットは、わたしの記憶のままで、相変わらずほんとにほんとに素敵だった。寒くて暗いロンドンだけど、両手いっぱいに花束を抱える人が行き来する光景は何度見てもほかほか温かい。PAVILIONという、最近できたらしい人気ベーカリーでカルダモンのパンを購入して、歩きながら食べた。すごく美味しい、もう閉まっちゃったけど、東京にあったヴァーネルのパンに似ていた。フラットメイトのロージーと2人で隔離していたきょんちゃんと近況を話し合った。きょんちゃんもまた、私とは全然違うコロナ隔離を満喫したみたいだ。






いっぱいお話しした後、マーケットの端っこで、まるでまた来週会えるみたいなごく普通のお別れをした。帰国の日はまだ決まっていないけど、もしかしたら、この旅行できょんちゃんと会うのは最後かも? そしたら次はいつかになるかもわからないけど、きょんちゃんとはまたすぐに会える。日本か、韓国か、また、ロンドンで。

そのあとわたしはまた、マーケットへ逆戻り。大好きなマーケットは一周では物足りない。行ったり来たり、一本道のマーケットを気が済むまで何回も往復して、気がついたら2時間近く過ごしてから退散した。




可愛いスケッチを描く子。ロンドン芸大に通ってるみたい。



写真を撮っていい? といったら、照れ臭そうに笑って可愛かった二人。



私は彼を3年前にもみたことがあった!



おうちにチューリップを。


この日、華子さんがケーキを焼くというからわたしも一緒にお手伝いした! 焼いた後にひっくり返して完成するから、アップサイドダウンケーキという可愛い名前がついたケーキだ。キャラメリゼしたリンゴを下に敷いた後に、薄くスライスしたりんごがたくさん盛り込まれた生地を入れてオーブンへ。ほんとに美味しかったから、わたしはレシピをシェアしてもらってノートに書いた。華子さんはお料理が上手なんだ。

さて、病院でコロナの検査をして、あとは結果待ち。帰りたくないけど、でも帰らないといけないし、ちょっと帰りたいし、でもやっぱりここにいたいし、そんな複雑な気持ち。


つづく!



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