Couch Surfing Club -Seoul Art Walk編- #7
I SAW MUCH FUN!
Contributed by Yui Horiuchi
Trip / 2024.09.04
#7
充実したソンウンでの滞在を終えて、アックンジョン方面に向かうと想定外の坂が。
このあとキツめの坂の上り下りを繰り返すことになると思ってなかったこともあって面食らってしまった。
湿気がないだけまだよかったが、肩で息をしながら次の目的地ケーニッヒに向かった。
MCM HAUSのビルの上階に入っているケーニッヒ
1976年にミュンヘンで創立されたMCMは、自己表現や創造的な志の象徴であり、MCM HAUSもその精神を受け継ぎバウハウス運動からインスピレーションを得て未来のアーティストやトレンドセッターにとっての創造的な拠点となっているそうだ。
まずエレベーターで上階に上がってから階段で降りてくるソンウンと同じスタイルで回ることにした
📍KÖNIG SOUL
✔️SOUL SCAPE SEOUL
最上階と思っていたエレベーターのドアが開くと屋上に恒久設置作品がたくさんお目見え。
晴れていたこともあってこういった屋外の展示もゆっくり見て周りやすくてありがたい。
階段を降り始めるとアックンジョンの街並みも一望できた
5階の屋内スペースに戻ってくる
一瞬日本にもテンポラリーでスペースをオープンしたKÖNIG(ケーニッヒ)、 ソウル店ではレイコ・イケムラによる韓国での初の個展「SOUL SCAPE SEOUL」を開催中。
レイコ・イケムラ(津市生まれ)は、ケルンとベルリンを生活・活動拠点に活躍するアーティストだ。1970年から1978年にかけて大阪とスペインのセビリアで学び、1990年から2016年までは、ベルリン芸術大学(UdK)の教授を務め、2014年からは女子美術大学で教授職を務めている。
この展覧会では、過去10年間から現在に至るまでの絵画が展示されており、トリプティク(三連作)も含まれ、これらの作品には、イラクサ、ジュート、紙などの多孔質の繊維に描かれている。
お手洗いのサインが見えたので、借りてから階段へ向かうと気になる作品が展示してあった。
クリス・マーティンという作家らしい。この作品は、彼のシリーズ「END POINTS」の1点。これらの作品では、さまざまなジャンルの本から句点を切り取り、それを無地の紙に貼り付けている。紙には本のタイトルだけが記されており、「シンデレラ」や「ピノキオ」などの童話のタイトルが付けられており、これは「アラジン」。
テキストの最小単位だけを使い、それぞれの本のタイトルと組み合わせることで、前の物語全体を連想させる試みだそうだ。
📍MCM HAUS
✔️MCM x インカ・イロリ
エレベーターで3階まで降りてくるとナイジェリア系イギリス人アーティストのインカ・イロリの椅子の作品を展示中。
彼の作品は、鮮やかな色彩と大胆なパターンで知られ、廃材を使ったアップサイクル・プロジェクトの一環として制作されたそうだ。
一部がポストカードになっていたMCMのかわいいデザインのハンドアウト、切り取って友人に手紙を書いて送った
エントランス前には韓国を代表するアーティストの一人、チェ・ジョンファの作品も、MCMのコレクション作品らしい
最寄り駅となる狎鴎亭ロデオ駅周辺は高級デパート「ギャラリア百貨店」やブランド通りなど、最新ファッションとトレンドの発信地。東京に例えるならば青山の雰囲気が近い。
大通りを離れると、上質なショップやカフェが点在し、見慣れたスターバックスの看板を黄金に光り輝くファサードに見つけることができる。実はこのスタバ、2016年12月に達成したという1000店舗目のスタバらしいのだ。その名もSTARBUCKS COFFEE 清潭(チョンダム)スター店だ。
韓国のスタバでは、アイドルとのコラボメニューなど限定で展開していることもあったり(即完売するらしい)飲み慣れたメニューを頼んでもいいし、困った時は頼れそうなデスティネーションの一つ。
肩を並べて、ラグジュアリーセレクトショップBOONTHESHOPにはレセプションか先行予約か何かだろう、長蛇の列が。
建築が気になったので調べてみたら、ピーター・マリノ。
よくクリエイティブ界でも作者と作品のギャップがあって驚かされることがある。
それはそれで個性があっていいのだけど、彼もまさにその一例だろう。
興味がある人は『Peter Marino』で検索してみて。
スタバを背にして下り坂が始まる右手にone and j.というギャラリー
📍ONE AND J. GALLERY
✔️House
ミーナ・パクの展示「House」では、「紙に家を描いてください」というシンプルな指示のもと、12色の色鉛筆を使って描かれた多様な家の作品が紹介されている。
四角い壁と三角屋根の家、煙突や庭のある家、高層マンション、きらめく宝石の家など、私たちが思い描くあらゆる形の家が現れる。パクは、人々が「家」を視覚化する際に、社会文化的な固定観念や理想の家への欲望に影響されることに注目し、それが個人の視点や経験、趣味にどのように反映されるかを探求しているそうだ。
パクは、色とイメージという絵画の要素を通じてこれを表現し、彼女は現代社会における色やアイコン、シンボルの消費に関するデータを集め、独自の基準で分類・分析し、その結果を鮮やかな色彩と明確なアイコンを使った絵画としてキャンバスに表現している。
今回の個展「House」では、1999年から2023年までに制作された「House」シリーズの作品が展示され、彼女の抱く社会的なテーマについて考察することができた。
次に立ち寄ったのは、K Museum of Contemporary Art。
はっきり言って、ここは行かなかくてよかったと思う(笑)。
たまに何を見せられているんだろうと(お金も払っているし)という感覚は時々あるんだが、大事にしておきたい感覚の一つ。
一応紹介するが(笑)、2017年から、K現代美術館は、「Geeky Land」や「Geek Zone」などの特別展を開催。そしてコロナ渦を経て、アート市場の新進アーティストに対する需要が増加した中、若くて個性的なミレニアル世代のアーティストたちの活動が活発化し、現代アートへの関心が高まっていった。
これに伴って、K現代美術館はこれまで成功を収めてきた「ギーキー」な展示会を、新たなプレゼンテーションで、作品の展示と販売の両方を楽しめる場として提供しようと試みている。
この展示会では、約80人の国内アーティストによる1000点近い作品をそれぞれの「ギーキーさ」を絵画、イラスト、インスタレーション、グラフィティを通じて発表しているコンペような展覧会だった。
本日最後のアートスポットはHorimビル(ホリムビル)に入る、White Cube。PERROTINも近くにあったがクローズ中
Horimビルは、韓国を代表する建築家であるKim Swoo Geunによって設計
全く関係ないし本来は違うんだが、ファサードのデザインがあるものに見えてきてしまうことで有名
もうお気づきかもしれないが、、そう、どうしてもカツサンドに見えて仕方がないのだ。
が、WHITE CUBEに向かう際は是非これを目印に向かってみてほしいところだ。
📍WHITE CUBE
✔️The Embodied Spirit
実は入場する直前にスマホを必死に覗き込みながらギャラリーに突進していった男性がいた。
文字通りの突進をしたのだ。
ガラス戸が見えなかったらしい。頭を強くぶつけ大きな音が響き渡り本人も怪我はしてなさそうで、ガラスが割れなかったことが救いだが、展示室のガラスが見えなくて突進してぶつかる子供のようだった。
どうやらギャラリーのスタッフさんのようで、そのままスマホを見つめたまま受付の奥へ、レセプションニストの女の子が二人席を立ち上がって彼の後をついていった。
想定外のハプニングだったが、静けさを取り戻したギャラリーでは「The Embodied Spirit」展を開催中。
この展覧会では、身体と精神の結びつきに焦点を当て人間の行動の背後にあるものを探る作品を集めている。
ルイーズ・ジョヴァネリは、宗教や儀式をテーマにした絵画で、特にカトリックの儀式に焦点を当て、感情の高まりを描いている
ソンウンでも見かけた超写実画家、イ・ジンジュは、伝統的な韓国の絵画技法を用い、個人的な記憶や感情を表現している
トレイシー・エミンは、人間の本質や来世の可能性を探るメッセージ作品で知られ、感情的な葛藤や愛、喪失をテーマにしている。ここではペイント作品を見ることができた。
かなり口が悪く、愛煙家でも有名な女性作家だが、彼女のメッセージ作品にはグッとくるものがあり、若い頃から好きな作家の一人だ。
充実した3日間のアートトリップも一旦これでひと段落だ。
ホリムビルを後にする前にビルのエントランスに見つけたベンチで秋の訪れを感じた。
次の目的地までの道筋を確認しながら少し休憩。
勾配のある街並みにお昼を抜いていたこともあって流石にエネルギー切れだ。
ザックのおすすめの「GEBANG SIKDANG(ケバンシッタン)」というケジャンのお店が近くにあることを認識していたので予約なしで訪問してみることに。
開店直後の一回転目のお客さんが入ったばかりのタイミングだったのと、一人で行ったこともあって30分以内に食べ終えられるならとのことで席に案内してくれた。
モノがモノだけに清潔感は大いに大事にしたいところだったのでこちらのお店は大正解。
でも食べてみるまでは中々判断しにくいのが生物の難しいとろ。
最終日を終えれば帰るだけだし、ここはお腹を壊す可能性も視野に最後の晩餐といったところ。
ワントレーで配膳されるスタイルでケジャンのセットが運ばれてきた。
素材ごとに漬け汁の材料や配合を変えているそうで、他にも珍しいアワビ、えび、サーモンのケジャンも単品で注文。意外と一番好きだったのはサーモン。
約束通り30分キッカリで席を立つと急いでいたせいもあって、預けておいたジャケットを忘れてしまったくらいだったが、混み合ってきた店頭の様子を伺っていたらスタッフの方が気づいてすぐにジャケットを持ってきてくれた。
おひとりさま利用でも行きやすく、カウンター席には個々にコンセントまであった。20~30代の女性客の心を掴みそうだ。
価格はお高めの蟹のケジャンのセットだけで7千円程度。追加で頼んだ単品も合わせると1万円程度だ。価格帯は東京で食べに行くお気に入りのお店の方がお手頃だったが、雰囲気代ということにしよう。
今日のアートスポット巡りはひと段落していたところだったが、ホテルに帰るまでまだ時間もありそうだったので、VOGUEのファッションエディターの友人が新しくて楽しいスポットができたので是非行ってみてと教えてくれていたセレクトショップに向かうことにした。
📍ADER ERROR
聖水駅の道を南に進んだ交差点にあるADER ERROR
お店は聖水洞の中心的なポジションに位置するショップ、かなりの人気店で週末に行くと入場制限をしているくらいと聞いていたが、遅い時間だったこともありスムーズに案内してもらいすぐに入れた。
美術館のようにエントランススペースにスタッフさんがおり、注意事項などの説明を受ける。
インスタレーションのような店内の造形を写真に撮ることを踏まえて、写真の中にお客さんが映らないようになどといった簡単な確認をして前のお客さんからしばらく間隔が空いたことを配慮してから入店の案内をされた。
入店してからはなんだこれはの連続
ADER ERRORは、2014年に設立された韓国のファッションブランドで、特にストリートウェアやユニセックスのデザインで知られているそうだ。ブランドの設立者たちは匿名を保つことを選び、ADER ERRORは集団として活動・運営。彼らは、デザインにおいてクリエイティビティと自己表現を重視し、伝統的なファッションの枠にとらわれないユニークなスタイルを提案しているという。
ソウルにあるADER 聖水スペース(ADER ERRORのフラッグシップストア)の内装デザインは、ADER ERRORのクリエイティブチーム自身によるものらしく、デザインやコンセプトに強いこだわりを持っていることがこれでもかと伝わってくる。
彼らのフラッグシップストアの内装は、ブランドのユニークな美学とビジョンを反映しており、とにかく独創的な空間デザインが特徴的
具体的なプロジェクトにおいて、他の建築家やデザイナーとのコラボレーションが行われている場合もあるそうだが、聖水スペースのデザインに関しては、主にADER ERRORの内部チームによって手掛けられたものとされている。
ユニセックスで着こなせるファッションアイテムがたくさん並んでおり、什器にもかなり力が入っていて、洋服好きの人にもそうじゃない人にもかなり面白い店内となっていた。
実際わたしも洋服を見ないで内装ばかり見ていたが存分に楽しめた、立ち寄ってよかったと友人に連絡を入れたくらいだ。
ADER Errorは、ファッションブランドやライフスタイルブランドとのコラボレーションを積極的に行っているらしく、これまでに、プーマやメゾン キツネ、ZARAなどのブランドとコラボし限定コレクションを発表してきたそうだ。
入口と出口が異なっており、出口に向かうまでに店内を一周する動線になっていた
ちょうど一回りしたところの窓側には軸が360度回転する棚が。バッグがぐるぐる回っている様子が面白くて、ウィンドウショッピングをする若者が何人か立ち止まって外から写真を撮っていた。
入口のスペースに戻ってくるとAKIRAさながらの台陥没
アートとしてプレゼンテーションを行っている訳ではなかったが、十分に楽しい体験ができた。
大満足で駅に戻ると全メンバーワンレン時代のNew Jeansの広告が、全員かわいい
一人やりきったことに今回の滞在で見つけたお気に入りのウィートビールで乾杯。
ソウルでもスト缶(ストリート缶ビール)ができるのはありがたい。
週末の市場はやはり大賑わい、今朝もそうだったが夜の方が尚更賑わっていた。
朝の早い便で帰国の予定だったので、早めにパッキングをするためにホテルに戻る。
翌朝6時、空港の保安検査場を通過するとナム・ジュン・パイクの作品が。
「I Never Read Wittgenstein」は、2023年7月からフリーズソウルやKIAFソウルなどのアートフェアの開催に合わせて「Be Free」展の一環としてソウルの金浦空港に展示されているらしい。アート目的じゃなく渡韓した人にも韓国の現代美術シーンの多様性を紹介することに成功してるだろう。
4台のCRTモニターを使用したインスタレーションで、背景にはテレビのテストパターンや韓国の五行色(五つの伝統的な色)からインスパイアされたストライプが描かれていて、この作品を通じて、ナム・ジュン・パイクは、20世紀の哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインの論理と言語に関する影響力を拒否し、自身の言語で観客とコミュニケーションを取ろうとしているそうだ。
怒涛のスケジュールと情報量で回ってきた、ソウルアートウォークだったが、これまでにも新スペースや移転したスペースなどもあると思うので、最新の情報と照らし合わせてソウルにこの時期行かれる方は是非記事に書いてきたスペースを参考にしてギャラリーホッピングを楽しんでほしい!
参考までに今回訪ねた場所をまとめたNAVER MAPをこちらからご覧いただけます:https://naver.me/5ipYhV2V
ここまでお付き合いいただいた読者のみなさまにこの場を借りて、どうもありがとうございました!
締めくくりにはホテルの近く専門店が並ぶミシン屋から
YES! I SEW(SAW) MUCH FUN!!
THE END
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Yui Horiuchi
東京を拠点に活動するアーティスト。幼少期をワシントンD.C.で過ごし、現在は雑誌のイラストや大型作品まで幅広く手掛ける。2015年に発表した「FROM BEHIND」は代表作。自然の中にある女性の後ろ姿を水彩画で描いた。自然に存在する美や豊かな色彩を主題にする彼女の作品は海外でも評価されている。