The Route #12「anna magazine編集長の取材日記」
Now you are here.
anna magazine vol.11 "Back to Beach" editor's note
Contributed by Ryo Sudo
Trip / 2018.05.21
Now you are here.
3/29。
いよいよ取材最終日だ。
朝起きると、すぐに帰りの飛行機の予約を確認する。やっぱり真ん中の席だった。厳しい。ちょっと申し訳ないなと思いつつ、$130支払って通路側の席に変更した。いつかビジネスクラスで行き来できるようになれるだろうか。
UBERでベニスビーチ・ピアまで移動する。1時間程度のドライブで$32。日本のタクシーに比べて圧倒的に安い。これは画期的なテクノロジーだと思う。やっぱりサービスというのは、実際に使ってみないとその素晴らしさを理解できない。ということは、anna magazineやcontainerもまずは「一度読んでみてもらえる仕掛け」が大切ということだ。さらに言えば、その仕掛けをどれだけわかりやすく直感的なものにできるかが勝負だ。マニュアルを読まなくてもなんとなくで理解できる、それがなにより大事ってこと。
以前から何度かanna magazineに参加してくれていた現地のエディターと初めて会う。アメリカオリジナルの古いISUZUのベンチシートから顔を出した彼女は、文章の印象通りの素敵な人だった。もう20000マイルを超えているという。彼女がオファーしてくれていた現地カメラマンは、なんとVOL.5の南カリフォルニア特集でお世話になった方だった。 初めてのクライアントで、初めてのクルーとの仕事でナーバスになっていた僕は、心の底からほっとした。
まずはベニスでサーフィン中だった「RHC&MAS」のディレクター、ジョン・ムーア氏の取材からスタートだ。
「いつの間にかそこにいた」という感じでふわりと僕たちの前に現れたジョンは、チャーミングな人だった。
みんなでビーチに丸く座って、彼の話に耳を傾ける。僕はほとんど英語ができないのだけれど、大切なことを話す時、彼は僕をまっすぐ見ながらゆっくりと話をしてくれる。
彼とロン・ハーマン氏との出会いや「RHC Ron Herman」をスタートするまでの情熱的なプロセス。すべて興味深い話ばかりだったけれど、なかでも一番心に残ったのが、ブランド作りの最初にロンとジョンが2人で作ったという"Nature Ron Herman Book"というビジュアルブックの話だった。
お互いのイメージソースや、大切にしているもの、そして関わる人々。ロン・ハーマンをかたち作るあらゆる要素を並列に編んでコラージュした1冊は、パラパラとめくって見ただけで、ブランドのアイデンティティを一瞬で理解できる素晴らしいビジュアルブックだった。僕らもよく新しいメディアを作るたびにイメージボードを作ったりするのだけれど、あくまで内部資料として作るので、誰かに見せられるようなものにはならないことがほとんどだ。けど、このビジュアルブックのように、内容も体裁も「誰かに見せて、ずっと残しておける」くらいの高いクオリティで作ることで、ブランドに込められた想いは強烈に増幅され、あらゆる人に「伝わる」強いコンテンツになる。よく考えたら当たり前のことだ。誰かに読んでもらうために作るなら、僕も、それはそれは真剣に向き合うもの。ブランドもメディアも同じ。見えない部分だからこそ、手を抜かずに本気でやりきることが大事なんだ。
ジョンのオフィスも見せてもらった。きれいな光が入る、明るくて居心地のいいオフィスだった。進行中のプロダクトはもちろん、RHCのブランド創設時のコンセプトシートまで見せてくれたのだけど、まるで大好きな雑誌を見てるみたいにワクワクした。スタート前のプロセスにどれだけ時間をかけられるか、そしてどれだけ本気で向き合えるか。それがあらゆるプロジェクトを成功させる唯一のノウハウなんだと思う。まっすぐでひたむきな情熱は、必ず伝わるってこと。
彼の自宅にも立ち寄った。完璧に見えるのに、居心地の悪さを少しも感じない。「カリフォルニア」「光」、そして「風」。そんな感じの家だった。
オフィスや部屋と違って、車のトランクがワックスの空き箱やらタオルやらで、わちゃわちゃと散らかっていたのがすごく人間らしくて、なんだか安心した。
次はChristy Dawnのアトリエへ向かう。
少し早めに着いたのでレストランを探す。
ライターの車なのに、なぜか自分の車のようにカメラマンが運転している。2人は不思議な関係だ。ライターはその物腰の柔らかさからは想像できないほど、ビーチカルチャーに深く身を置いている人だった。レストランを探している間じゅう、カリフォルニアやサーフィンの魅力をていねいに教えてくれる。独特の間合いの語り口が印象的だった。昨日まで一緒に旅をしていたのがスケートカルチャーがバックグラウンドのクルーだったこともあって、ビーチカルチャーとの感覚の違いがとても興味深い。
「マリブがとにかく最高なんだ」
彼女の話が聞こえてないかのように、カメラマンはずっと言い続ける。聞いているうちに、なんだか僕もマリブに行ってみたいと思った。誰かが心から思っている言葉というのは、掛け値無しに伝わるものだね。
いろいろ迷ったけれど、結局In-n-outのハンバーガーにした。やっぱり美味しい。
アトリエでは、たくさんのメキシカンの職人たちが楽しそうにワンピースを縫っていた。Christy はとてもキュートな女性だった。今回は時間がなくて、ポートレートと工場の撮影だけで、彼女の話をちゃんと聞けなかったことがちょっと残念だった。彼女との取材の橋渡しをしてくれたディストリビューターがanna magazineを褒めてくれた。彼のお気に入りのサンタモニカのCal Mar Hotel Suitesが紹介されていたannaのページが最高だったから、わざわざホテルのオーナーに届けてくれたのだという。とてもうれしかった。
ロン・ハーマン氏に会いにいく。
メルローズにあるRon Herman本店で、ロンはディスプレイされた商品をていねいにたたみ直しているところだった。2階のテラスで話を聞くことになった。
「約束通り、40分で終えてほしい」
あ、難しい人なのかもしれないなと、少し緊張した。
けれどそれは、彼なりの優しさだった。彼は事前に送っていた僕たちの質問にすべて目を通してくれていて、40分で終わるように答えを用意していてくれたのだ。はっきりとした声で、ゆっくりとていねいに紡がれる彼の話は、本当に素晴らしかった。
「世界の半分の人は、朝起きたらスマートフォンを手にしてインスタグラムで友人が何をしているのかを確認するよね。確かに携帯やソーシャルメディアは便利なツールではあるけれど、それは本質的なコミニュケーションとは少し違っていると思うんだ。オンラインではできないことって、本当はたくさんある。例えば食べることや、散髪することみたいにね。だから、今自分がどこにいて、目の前には誰がいて、何をしているか。つまりね、”今この瞬間”をできるだけ素直に感じて、楽しむってことを大切にしたいんだ。若い頃は携帯電話を持っていなかったから、人生は今よりもずっと簡単だったように感じるよ」
英語がほとんどわからなくても全てが伝わってきて、涙が出るほど共感できた。
"Now you are here."
ジョンが見せてくれたビジュアルブックのアウトロに登場する言葉だ。2人が教えてくれた「あなたは今ここにいる」というその言葉は、旅、そして人生の真理だと思う。僕も少しの間携帯電話を置いて、今自分がここに存在すること、そのことの素晴らしさを感じてみようかな、そう思った。
インタビュー時間は40分ぴったり。
カメラを向けられたロンは、最高の笑顔で締めくくった。
UBERに乗って、ABC CHINESE RESTAURANTへ。
1日別行動をしていた「プロ給油師」は、なんだか少したくましくなっていた。なるほど、ひとりでやってみる、って大事なんだ。カメラマンとライターの2人は、最初から最後までやっぱり最高だった。何度でもこのクルーで旅したい、そう思った。
旅のフィナーレは最高だった。
20年ほど前に初めて訪れて以来、繰り返しカリフォルニアを見てきたけれど、今回ほどカリフォルニアらしさを「具体的な言葉」として感じることのできた旅は初めてかもしれない。
非日常の旅に出て、目の前の「日常」をしっかりと自分の目で見ること。そして、その場所で、それぞれの人々が大切にしているさまざまな価値を知ることで、自分の「いつもの居場所」の素晴らしさをより深く感じられるようになる。
「旅」とはつまり、「いまの自分」そのものなんだ。
たとえどれだけ短い旅だったとしてもね。
了
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Ryo Sudo
anna magazine編集長。制作会社Mo-Greenで数多くの広告制作、企業ブランディングなどに関わる傍ら、"anna magazine"、"sukimono book"などペーパーメディアを中心に独自の視点で日常生活を再編集し続けている。