何かが始まる予感

Mis Pato aventuras #3

何かが始まる予感

Contributed by Ayaka Suita

Trip / 2024.03.08

想像もしていなかったメキシコ・オアハカへの移住。偶然の出会いが繋いだこの地で、新しい人生の舵をどう取るか。はじめてだらけの毎日を楽しみながら、冒険するように過ごすayakaさんの移住日記。

#3


「食べる?」

隣のおばさんが溶けかけのチョコレートを差し出して微笑んでいる。

「ありがとう。」

バスに乗っていると何かと話しかけられる。今日はなにを食べたのか、自分の今日の予定、家族の話。スペイン語が話せないなんて彼らには関係ないとでもいわんばかりに、弾丸トークで攻めてくるメキシコ人の姿勢がとても心地よかった。

道を歩いていてもよく道を尋ねられる。メキシコ人に聞いたほうが早いと思うけれど、明らかにアジア人の見た目の私にスペイン語で話しかけてくるところも好きだ。外見で判断しないのか、目に留まったから私に声をかけてきたのか理由はよく分からないが、線を引かれていない感じが私もメキシコの一部のような感覚になって嬉しかった。ここでは私がアジア人の見た目だからと、あちら側が構えたり、話しかけなかったりということは少ない気がする。

今日はバスに乗って、メキシコシティのコンデサというエリアに来ていた。コンデサはシティのなかでもおしゃれなカフェやレストランが多い。世界中からクリエイターが移住していることもあって、アートギャラリーやイベントも多いエリアだ。







今日は、ソフィアとカフェで待ち合わせの予定だった。
バレエの教室に通ってから、年齢が近いということもあり すぐに意気投合した。英語が話せることも私にとってはありがたかった。カフェに着くと、ソフィアがメニューをチェックしていた。

「ここのパイがとっても美味しいのよ。食べたことある??」



グアバのジャムがたくさん入ったパイが美味しいらしく、私も同じものをオーダーした。予想はしていたが、ジャムは口の中がヒリヒリするぐらい甘く、一緒に頼んだ紅茶で食べ終えることができた。

ソフィアはバレエや料理が大好きで今までにいろんな事業を自分ではじめていたという。



レストラン、ケーキ屋さん、タコス、バレエ教室

最近大切なひとを亡くし、悲しみと戦いながら生きていく術を模索していること。3歳の子どもがいて、いつも子どもに癒されているということ。たくさんのことを話してくれた。



今までの事業は特に学校で勉強をして経験を積んで実現したものではなかった。生きていく為にやるしかなかったと彼女は言っていた。今経営しているタコス屋ももともと知識があったわけではなく、やりたいと思ったから仲間を探して自分で始めたらしい。



「タコス屋をはじめるとき、経験や知識がないのに怖くなかったの?」と聞いてみた。そのとき「どうして必ず経験が必要なの? はじめてみないと何も分からない」と真剣な眼差しで言われた言葉が妙に自分の心に刺さった。
ソフィアの真っ直ぐこちらを見る目は暖かくも、どこか強い信念を持っていて、私に本質的に大切なものを気づかせてくれるのだった。

私は心の底で眠っていた自分の考えをソフィアに話してみた。

不可能そうなものに挑戦してみたいこと。今までずっとできないと諦めていたものに挑戦して自分の可能性を伸ばしてみたいこと。まだまだ人生を諦めたくないこと、今の自分じゃ想像し得ない未来を作ってみたいこと。

するとソフィアが「今まで本当はしたかったけど、経験がないからと諦めてきたものってなんなの?」「これできたら、もう最高! って思えるものってあるの?」と尋ねてきた。

メキシコで自分のビジネスを立ち上げること。メキシコの民族と一緒にものづくりがしたいこと。でも今はスペイン語が話せないし、ブランド作りやデザインの知識がないから
3年後ぐらいに実現したいということを赤裸々に話してみた。

そのときソフィアが言った。

「もう今やっちゃいなよ!!」
「え!」

そこから、私のメキシコ生活はとんでもない方向に進んでいくのだった。
ソフィアに会った後、とにかく何か行動してみたくなって、Instagramでメキシコシティのクリエイターにダイレクトメッセージを送り、情報収集をしていくことにした。
クリエイターたちが口を揃えて面白い! という場所が「オアハカ地方」だった。あのオマールの好きなチーズが作られている場所(笑)。

「オアハカ」

何があるか分からないが、飛行機のチケットを買って数週間滞在してみることにした。これから想像もつかない冒険が始まるような気がしてワクワクが止まらなかった。

オアハカ州にはたくさんの村があって、村ごとに作られている民芸品が違うこと、サポテコ族という民族が主に暮らしていて彼らたちは伝統を守りながら生活をしていることを知った。面白そうだ。



そんなとき、オアハカ出発の6日前、ある一通のメッセージが届いた。


【つづく】



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