Couch Surfing Club #22
西海岸ロードトリップ編
Spoke too soon
Contributed by Yui Horiuchi
Trip / 2022.12.29
#22
陽性反応から一週間、だいぶ症状も治まってきたからと思って再テストを受ける。
検査から10分経過。
陽性反応が出た時はすぐに二重線が現れたので、しばらく一本線のままの検査キットを眺めて、陰性になったのかもと友人に報告する。
「見てこれ!どう思う?」
「陰性っぽいね、検査開始してから何分経ってる?」
「10分くらい」
「へーやったじゃん、陰性おめでとう」
「ありがと!次はあなたの番だね!」
そんな感じで日本にいる母親や親友に連絡した。
『陰性!』
嬉しくて生搾りのオレンジジュースとフルーツ盛りだくさんのグラノーラを準備する。
10分ほどで食事の準備も整い、食卓にカトラリーをセットしながら、ふと目を向けた先程の検査結果。
検査してから30分は経っていたと思う、ここにきて二重線になっていた。
むなしいぬか喜びを胸に、食卓の朝食に手をつけるタイミングで再度友達の仕事部屋をノックして
「hey I spoke too soon」
そう言ってお互い肩をすくめた。
一週間で症状も緩和しているもののまだ陰性にならないものか、早とちりしたな。
気分転換に今日は外で仕事しよう。
グラノーラをかきこんで、食事を終えた食器を持ってキッチンに行った。
ミルクがしたたるスプーンと器を水道水でさっとゆすいで食洗機に入れる。
リビングのソファに置いてあったPCの充電器を抜いて、差したままの外付けハードディスクと一緒に裏庭に持ち出した。
ジャグジーの上蓋を即席の卓上にして、庭で摘んだ花をセット。
時折、裏庭から聞こえる犬の鳴き声や小鳥のさえずりに耳をすませてパソコンを開く。
スマホのカレンダーを見返しながら、入国してもうすぐ二週間か。
穏やかな環境で自宅隔離ができてはいるものの、なんとも言えないやるせなさを感じてしまう。
一瞬、足元を這うダンゴムシ、足をつたい落ちる汗、いろんなものがスローモーションに見えた。
一度画面がシャットダウンしたPCのスクリーンに目をやり、シャワーを浴びてまだ濡れたボサボサの髪を手ぐしでかきあげて気を取り直した。
ログインパスワードを片手ですばやく入力し、エンターを中指で勢いよく叩く。
くよくよしてる場合じゃないよ。
そう自分に言い聞かせて仕事モードにスイッチを切り替えた。
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Yui Horiuchi
東京を拠点に活動するアーティスト。幼少期をワシントンD.C.で過ごし、現在は雑誌のイラストや大型作品まで幅広く手掛ける。2015年に発表した「FROM BEHIND」は代表作。自然の中にある女性の後ろ姿を水彩画で描いた。自然に存在する美や豊かな色彩を主題にする彼女の作品は海外でも評価されている。