What’s Minority 

Couch Surfing Club #35
西海岸ロードトリップ編

What’s Minority 

Contributed by Yui Horiuchi

Trip / 2023.04.06

海外へ何度行ったって、旅慣れなんてない。旅で出会う全ての人にフランクに接し、トラブルだって味方につける。着飾らず等身大で、自分のペースで旅を楽しむアーティストYui Horiuchiさんが、サンフランシスコからポートランドまでの旅の記録。

#36

いつものオーガニックスーパーへ買い物に立ち寄った。
もうマスク生活もしなくていいので、外食も増えていたけど外で食べている日が続くと自炊も恋しくなるものだ。
とくに献立や買い物の予定も立てないままスーパーに行くとその日の特選品などが目に入り、想定外のアイデアがひらめたり色々と想像が膨らむ。
友人とこのことを
『I’m not come to things, things coming to me』
(なにか買いたいものがあって来たわけじゃなくて、アイテムが買ってと訴えてくる、的なこと)
なんて言って訳もなくスーパーに立ち寄ったりもした。

だけどちゃんと目的に応じて異なるスーパーに行ったり、特に海外の製菓コーナーはお気に入りの一つ。
日本では見かけないような色合いのアイシングチューブやアラザンなどに夢中になっていつまでもどれどれなんて手に取って見てしまう。
特にデイリーの種類の豊富さに毎回悩む、オーツミルク一つ選ぶだけでもお気に入りが見つかるまではしばらく成分表なんか見てカロリー、糖質、脂質なんか条件の良い方を選ぼうなんてしている。
食材や調味料も日本と違うので
「これなんだろう、使ってみよう、どうなるかな?」
そんな小さな冒険も外国で新しい発見につながってわたしにとって楽しいところ。

今日はそんな大好きなアミューズメントパーク状態のスーパーでいつもとは少し違うユニークな出会いがあった。
スーパーの入り口のお馴染みのデリで入店してすぐにスムージーが飲みたいと言ってカウンターに立ち寄った友人。
わたしはなにも頼む気がなかったけど、楽しいからメニューだけ見に行こうと思ってついていった。

ここで頼むコーヒーもミルクの種類だけで何種類もあって、自分の好みやダイエット(食生活)に合わせてオーダーできるのがありがたい。
デリの奥にはイートインスペースがあり、スーパーで買ったホットミールやデリの飲み物を持ちこみ座って飲食できる。
大きな窓から太陽が差し込んで少し寒い北カルフォルニアでは長居しても居心地の良さそうなスペースになっていた。

10年以上同じ街で暮らす友人、このスーパーに来るとだいたい毎回のように知り合いや友人に遭遇していた。
お店のレジやカートの整理をしているスタッフさんも友人だったりして、わたしも何人に挨拶をしたか覚えていなかったけど、“金髪ショートヘアのアジア人の若い女の子”はこの街ではかなりマイノリティーなので向こうは覚えているらしく、時折気がついた人に
「残りの滞在はどれくらい?楽しんでね!」
なんて手を振ってあたたかく声をかけてくれた。



今日はそんな友人も初めましてのスタッフさんにわたしが声をかけることになるとは。
デリでの話に戻るんだけど、注文をしている友人が見ていた手元のメニューから顔をあげて、わたしは対応していたスタッフさんの名札に目を向けた。
二度見した。

『Akira』

確かにそう書いてある。
もう一度よく確認してから

「I like your name!」

そう伝えた。
彼女もこちらに気づき

「Thank you! わたしのお父さんが日本のアニメが大好きでAkiraって名前をつけてくれたんだ」
「有名なアニメだよ、お父さんセンスいいね」
「でも、『言っておくけど日本じゃ男の子の名前だからね』って小さい時から言われてたんだ」
「でもかっこいいよ!ほんとにクールだと思うよ!」
「ありがとう!わたしもすごく気に入ってる!」

そんな彼女の着ていた赤いフーディーがAkiraのシグネチャーカラーのようで、写真を撮らせてほしいとお願いしてみたら、最高なダブルピースでカメラにポーズ。



そんなやりとりを見ていた友人が

「ちなみにこちらの彼女の名前はYUIだよ、東京から遊びにきてるんだ」
「Hi Yui! ようこそアメリカへ!」

Akiraと命名してくれた彼女のお父さんのおかげでわたしも新たなスペシャルな出会いに恵まれた。

今日は自ら主張をしてきた食材やワインなどを買うことに至り、エコバッグを抱えてスーパーの駐車場に停めた車に戻った。
家に向かう間、

「Akiraって男の子の名前だって信じてた彼女、女の子の名前でもおかしくないし、ジェンダーレスでいい名前だよって最後に一言言えばよかった」

わたしがそう言うと

「名前の由来とか、誰がなんて名乗っているかって繊細な側面があるから気をつけた方がいいことだし安易に言わなくて良かったよ」
「そう?」
「うん、だって、男の子みたいなマイノリティーの名前だから逆にすごく気に入ってるかもしれないじゃん?それが突然女の子でもありえる名前だって知ってしまったら彼女のスペシャルだと思っている名前の由来の一面を変えてしまう結果になって今後の一生を変えてしまいかねないかもって思わない?」

友人のこういう発言には自分の無知と気づきのなさにハッとさせられること(落ち込むことも)がよくある。
ダイバーシティに富んだ環境で幼少期から多様性を受け入れ広い視野で物事を捉えるっていう日本とは違う教養に触れてきた友人からはこちらが一方的に良いと思って行動することも受け手側には違う意味を持ち、時には責任を取れない言動には気をつけて、エチケット上言わない方がいいこともたくさんある、そんな会話をすることも多かった。
わたしが英語も分からないまま幼少期を過ごしていたアメリカ時代にはまだ気がつけなかったことが、今では、そう言われてみればそうだ、なんて当たり前のことに気がつかなかったんだ、なんてショックを受けることもあるけど、こうやって各国の常識やカルチャーの違いを頭ごなしに非常識だと言わないでいてくれる友人に出会えていること、英語が分かる今となっては話せば分かるっていう安心感、考えを言葉にすることや聞くっていうシンプルなコミュニケーションで自分の中になかった新しい情報が刷新されていってむしろ違う環境を理解できるツールが身に備わってきていることが本当に嬉しいと思える。

「お店でカートを押してた子いたじゃん?今はJoって改名してるんだけど、前はSarahだったんだよね、なんで改名したかはプライベートなことだから聞いてないけど、いつもどっちで呼べばいいか忘れちゃうんだよね、でも名前にまつわることって個人を特定する上で大事なものだからこそ、それを改名するほどの状況ってすごくセンシティブなことって分かってる上で、いつも名前を間違えないようにって気をつけてるつもり。でもやっぱり忘れてどっちに変わったか一瞬フリーズしてごっちゃになることもある」

大事な情報を教えてくれたあとで、相手の変えた名前を忘れちゃうっていうこちら側の対応上の問題も正直に話してくれた友人。

今日知れた、“男の子らしい名前”というコンセプト自体、すでにアメリカではあまり意味がないということ。
ステレイタイプで時代遅れな性差を特定する名前を避け、男の子と女の子が同じ名前をつけているというだけで性的に中立で、男女の二者択一に収まらずにいられる新しいホットな名前がたくさんある。
むしろ、女の子が強く、より英雄的な名前になっているのに対して、男の子は従来の型にはまった伝統的な男らしい名前では傾向にもあるってこと。

右に倣えの日本の教育の中で育ってきたわたしも嫌な思いをすることがたくさんあったことを思い出した。
何かに突出していたり、人と違うことをユニークでスペシャルであると捉え、そもそも個性があって当たり前という認識の違いだけで、マイノリティがマジョリティに勝る要素があると、そもそも中立の立場にいることを認めてくれる環境があったら全然違う青春を過ごせていただろうなと思ってしまった。

インスタの投稿やたまのチャットのやりとり、仕事のメールだけでは見過ごしてしまうような、日常の出来事の流れでの気付きに恵まれてこういう会話ができるのも長期滞在の醍醐味だろう。


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