ACME Buying Diary #4

家具ブランドACME Furnitureの買い付け日記

Contributed by Kenichiro Tanaka

Trip / 2020.05.08

インテリアブランドACME Furnitureの海外買い付けの模様をレポート。どこで、どんな風に、なにを見つけて日本へ商品がやってくるのか。ディレクターの田中健一郎さんがリアルなバイヤー視点で紹介していきます。

#4

深夜3時45分。セットしていた携帯のアラームが鳴る。
ロサンゼルスに来て三日目。まだ時差ぼけで体内時計が狂っているので、
早起きをするには好都合だ。
身支度をしてトラックに乗り込み、暗闇の中のフリーウェイを注意深く運転する。
今日はアメリカ西海岸最大規模のフリーマーケットであるRose Bawl Swap Meet「ローズボール・スワップミート」の日だ。
出店ディーラー数は約2500件、商品数100万点以上、来場者数2万人以上。
アメリカ全土の中でも有数の巨大フリーマーケットである。
売られている商品は家具や雑貨、骨董品、アート作品、古着などとさまざまだが、それらを目当てに世界各地からバイヤーが訪れるので、お宝を狙うライバルも多い。
いつもなら高鳴った気持ちで現地に向かうのだけれども、今日はとても気が重い。
なぜなら外は雨。
気温は摂氏8℃。しかも「時より土砂降り」だという不運すぎる天気予報。
5時前にマーケット会場に到着。
出口ゲート近くの場所に駐車する。
入場券を購入して会場の中に入った時には、ディーラー達のトラックも続々と会場内に入り始めており、各自割り当てられたスペースに移動して商品の荷下ろしと売場のセッティングを行っていた。



ディーラーとは日本ではあまり馴染みのない職業名であるが、欧米では職種として確立されている。
自身のお店を持っているディーラーもいれば、フリーマーケットでの売買だけで生計を立てているディーラーも多い。
彼らにとっては毎月一回開催されるこのマーケットでの売上がとても重要だ。



懐中電灯を持っていないと何も見えないような暗闇の中で、足早にディーラーのブースを見て回る。
私と同じように、懐中電灯を持ったバイヤー達が周囲を動き回っているのが見える。
ディーラーのトラックの中を覗き込みながら、商品確認や価格交渉を始めているようだ。

急がなければならない。
商品が荷台から下ろされ、地面に置かれている時間が長ければ長いほど他者に買われてしまう確立が高くなる「早い者勝ち」の世界だ。



アームのデザインが特徴的なチェアを二脚発見。迷わず購入した。

代金を支払い、後ほどピックアップに来ることを告げると「Have a Good Hunting !!」と声を掛けてくれた。 
たまにディーラーは買付けのことを「バイイング」ではなく「ハンティング」という言葉に置き換えて言う時がある。
この言葉を聞くと不思議とやる気が増してくる。
確かにフリーマーケット会場では、数に限りがあるお宝を逸早く捕らえるためには、このハンティング合戦に勝たなければならない。
どこのディーラーが、どのようなテイストの商品を、どのタイミングで荷下ろししているかを把握したうえで、効率良く会場内を動き回れる鼻の効くハンターだけが獲物を捕らえることが出来る。
この真剣勝負には毎回血が熱くなる。

そうこうしているうちに辺りは明るくなってきた。
ディーラーのトラックから続々と商品が下ろされ、各ブースが店のように形作られてきているので会場内の景色が一時間前と比べるとまるで違う。
買付けした場所をメモしておかないと、ピックアップしに戻る場所を見失ってしまう。


雨は更に強く降ってきた。天気予報通りの土砂降りだ。

カリフォルニアはいつも世界一を誇るかのような晴天に恵まれているが、今日は天罰を下すかのような重い雨を浴びせてくる。
テントの下で雨宿りをしているバイヤーも多くいる。
雨対策、防寒対策を少し大げさにしてきたけれど、万全の準備をして来て良かった!
準備をしないで後悔するよりも、準備をしすぎて後悔するほうがいいといつも思う。

時間は午前9時過ぎ。気が付けば4時間以上も早歩きで動き回っている。
日常的に運動らしいことをしていないのに、よくもこんなに歩けるものだ。



主要家具の買い付けが一段落したら、持参してきたカートを使ってピックアップに回らなければならない。
会場内の各ブースから、駐車場のトラックまで300~400mある。
合計20箇所のブースで買付けをしたが、無駄に長距離を歩きたくないので、どうにか7往復以内で終わらせたい。

いつもの晴れた日であれば、この時間帯は一般人が入場してきて会場は混雑が始まるのだけれども、さすがに今日は悪天候のため来場者が少ない。
人混みを掻き分けながら大きな家具を運搬しないで済むので今日はストレスフリーだ。

今日のお宝、コナンボール社製のダイニングセット。 このタイプのアームチェアは珍しい。

このダイニングセットはこのようにして運んだ。
カートの上にテーブルを逆さまに置き、その上に椅子を6脚積み重ねる。
ゴムバンドで繋ぎ合わせれば安定感が増し、長距離運んでも荷崩れしない。

ピックアップ作業も終盤に差し掛かってきた頃、空は晴れ間が広がってきた。

今日のように雨の日の買い付けも大変だけれども、真夏のローズボールと比べればまだマシだと思う。
この場所は盆地で気温が高まりやすく、会場のアスファルトの照り返しで日中は灼熱地獄になる。出来ることなら真夏には来たくない。





大型家具のピックアップが終わらせて、簡単な食事を済ませたら再び会場に戻り、後半戦は雑貨類の買付けを行う。 
時間は午前11時。ここからは少しペースを落としてゆっくり見て回ろう。
前半はハンティング合戦であったが、後半のこの時間は肩の力を抜いて、じっくりと商品を見て回るようにしている。

この時間が一番楽しい。













時間は午後の2時。
買い付けを始めてから9時間が経過している。 
まだまだ見て回りたい気持ちだけれども、歩き疲れて足が棒のようになってきた。
それにディーラー達も片付け始めているのでそろそろ退散することにしよう。
今日は悪天候だったため出店ディーラー数も少なかったが、ライバルのバイヤーも少なかったので、まずまずの買付け内容であった。



帰り道、空を見上げるとカリフォルニアらしい快晴が広がっていた。
今日一日の苦労を全て帳消しにしてくれるような清清しい景色だ。


アーカイブはこちら

Tag

Writer