Greenfields I'm in love #24
夢のロンドンファッションウィーク
Contributed by Aya Ueno
Trip / 2020.12.25
#24
ロンドンでファッションショーのアシスタントをする機会があった。日本にいた時からひっそり、ファッションウィークという雑誌でしか見たことがない世界に憧れていたわたしは、とにかくいつもスタッフの募集情報を検索していて、ある日ついにフリーで活動されている日本人のヘアメイクアップアーティストの方のアシスタント募集の記事を見つけたのだった。「やった!」とそのままメールを送りそうになったが、よく見たら"美容経験者のみ"の文字が目に入ってがっくり。わたしには美容経験なんてなにもない。
諦めて一晩たったけど、それでも「まだやりたい」という思いが消えなかった。「ダメもとで言ってみよう!」という精神で、連絡してみることに。自己紹介の下に、「この業界にとっても興味はあるが、美容経験はない。でも、出来ることはなんでもします…」と記載してメールを送った。すると思いがけず、「一回会いましょう」とのお返事が来て、ショーディッチにあるAlbionというカフェ(雰囲気が良くてスコーンが美味しい。トイレに置いてるソープはAesop! 自論なのだけど、トイレにAesopのソープが置いてあるカフェは絶対アタリなんだ)でその男性とお会いした。彼の名前はゆうきさん。物静かな方だけど、仕事に対するパッションがとても強くてとてもカッコいい! アーティストビザでイギリスには来ているとのことだった。ビザって本当にいろんな種類があるんだな。面接のような感じかと思いきや、フランクで楽しいお茶会だった。そんなこんなで、念願のショーのお手伝いをさせてもらえることになった。
ショーは、直前にならないと場所が公表されないらしく、前日にやっとボンドストリート近くのホテルの地下で行われると教えられた。親友のまりかがロンドンに来るタイミングと重なったので、ゆうきさんに相談してみると、嬉しいことに彼女も一緒に参加できることになった。早朝に集まり、私はヘアメイクのアシスタント、まりかはフィッター(ロンドン芸術大学の生徒がインターンでやっているみたいだった)のアシストに配属され、いよいよスタート!
ショーの裏側では常に時間に追われ、時間との勝負だった。メンズメインで、8割くらいのモデルが男性だった。当たり前だけど本っ当にみんな整ったきれいな顔立ちをしていた。
彼はまだ16歳くらいだった。
メイクは顔のトーンを整える程度のナチュラルな感じで、その上からショーのコンセプトに従って顔まわりに青色のまっすぐのラインを入れる。簡単そうに見えて顔の皮脂や凹凸でなかなかうまくいかない。気がついたら、いろんなところからスタッフが集まってきて、一緒に助け合っていた。今でもこのショーで目の当たりにした、スタッフたちが自分の役職や配属の垣根を超えて手を取り合い仕事をする姿が忘れられない。みんなよく笑い、仕事がすごく楽しそうだ。
私もスキルがないなりに、良いものづくりのために頑張りたかった。幸い(?)他のスタッフたちは、私がお手伝いをしに来ただけの語学留学生だということは知らなかったから、それを良いことに私もいろんな作業に参加してみたし、そのために分からないことはなんだって聞いた。色んな経由で集まったであろうスタッフもショーモデルも、いつのまにかみんなとても仲良くなっていて、そんな刺激的な雰囲気が本当に楽しかった。
うれしかったのは、会場で舞台のお手伝いしてたら「リハーサル見ていきな!」とそのまま見学させてもらえたこと。緊張感のある雰囲気の中バイオリンの演奏が始まり、次々にモデルが登場する。ライティングがとてもかわいかった。
背景には大量のとうもろこし。さっきまりかや他のスタッフ達と皮を剥がす作業をしたものだ。
本番では、ヘアメイクのスタッフ達の仕事はひと段落して手が空くので、どさくさに紛れてステージ裏のドア横で、舞台に飛び出すモデル達のヘアメイクを最後にチェックする担当の1人になった。さっきまでお喋りして笑っていたモデル達も、本番目前になるといきなりキリッとした表情に変わり、戻ってくるとまた穏やかな顔に戻る。ショーの最後は、デザイナーがトリとしてモデルと手を繋いで歩き、くしゃくしゃの笑顔で帰ってきた。狭い狭い裏口で、拍手喝采! みんながハグしあって、褒め言葉が飛び交う。部屋に戻ると、緊張が解けたみんなでサンドイッチを食べながらおしゃべりしたり写真を撮ったりした。アフターパーティーにも呼んでもらえたけれど、まりかがパリに帰る時間が迫っていたので断念。舞台の裏側って本当に楽しい。みんなが大好きなものに向かって頑張っていて、部屋中にたくさんのエネルギーが詰まっていた。
私は日本の大学で4回生の代だから、留学に来ていなければちょうど就職活動の時期だ。自分と同い年の友達が日本で就活に励んでいる中、社会人なんてワードに全然ピンと来ないまま、働くことに対してあまりイメージしていなかった私だが、この日はじめて、「私もこんなふうに仕事がしたい!」と心から思った。
まりかもわたしも一日中動き回って疲れたはずなのに、なぜかまだまだ元気で、歩く足も自然と早くなった。まりかが帰るまで少し時間があったので、カフェへ寄った。その時に、さっき使っていた誰かのシザーを持って帰ってきてしまったことに気がついた。誰のものか分からないし、私がインスタを交換した人たちのものではなく、他に連絡する術がなかった。その上、ハサミの持ち手に一文字、私の名前の漢字である"文"という漢字が彫られていて、勝手に運命を感じてしまった。私は今日という素晴らしく刺激的な日を記念に、ハサミを持っておくことにした。
テラスに座って今日のことをそれぞれ話し合う。まりかもとても楽しそうな体験をしていたようだ。
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Aya Ueno
兵庫県神戸出身、東京在住のWriter/Photographer。学生時代に渡ったイギリス留学を機に、人や、取り巻く空間を魅せる表現に興味を持ち、現在Containerをはじめ、カルチャー、フードメディアにて発信中。
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