What is New New Thailand? #1

「New New Thailand」
僕が好きなタイランド」について

Introduction

Text & Photo: Taku Takemura

Trip / 2020.03.06

2019年12月にトゥーヴァージンズより出版された「New New Thailand 僕が好きなタイランド」。本書はアメリカのストリート・カルチャーに精通する竹村卓さんが見た、タイの「いま」を切り取ったカルチャー・ガイドです。

かつて多くのバックパッカーたちを魅了していたタイは、私たちの想像以上に面白いカルチャーが溢れている。そんなタイの”新しい”魅力を、全5回の連載でお届けします。



僕が初めてタイを訪れたのは2005年。初めてバンコクを歩いた時「なんだかこの街は90年代の東京のようだ」と感じた。どうしてそう思ったのか理由はわからなかったけれど、わくわくしながら暑いバンコクの街中を歩き回ったのを覚えている。夕方になるとスケートボードを片手に現れるスケーターたち、平日から大勢の人たちが踊るクラブ、バンドが入れ替わり立ち替わり演奏しているステージ。古い店舗に混ざり新しいカフェやショップがポツポツと店を構えてならぶ街並み。その当時、リラックスという雑誌でライターをしていた僕は、編集長をしていた岡本仁さんに「タイならチェンマイが最高だよ。ご飯は美味しいし、街がちょうどいい」と教えてもらった。その翌年からは、チェンマイとバンコクを訪れることになった。チェンマイはタイで2番目に栄えた都市と言われているけれど、バンコクに比べたら20分の1くらい。岡本さんが言うようにご飯が美味しい。街の中心には四角いお堀がありその内側を旧市街、街の東側にはピン川が流れていて、その周辺が新市街と呼ぶエリアになっていてその街の作りもすごくいい。なにか目的があるわけでもなく、街中をソンテウという乗り合いタクシーやトゥクトゥク、レンタルスクーターを借りて街をぐるぐるとまわるのが楽しくて、すぐに好きになった。リゾートホテルのプールやプライベートビーチでのんびりするのが好きな人と同じくらい、僕はこの街を歩いているだけでリラックスできるのだ。それから毎回チェンマイとバンコクの両都市を訪れることになった。チェンマイは、特に観光名所がたくさんあるわけではない。地図で見てみてもダーツを投げて、たまたま刺さったような場所についつい通い続けてしまっている。バンコクとチェンマイ、これらの街を訪れて出会った人たちや僕が興味を持ったことをまとめたのが「New New Thailand 僕が好きなタイランド」だ。

この本は5つのカテゴリーにわかれている。
まずはコーヒー。タイで飲むコーヒーと聞くと、これでもか! と甘い練乳が入った「オーリャン」と呼ばれるコーヒーを想像する人が多いと思う。それまでタイでコーヒーといえばその「オーリャン」を表していたくらい有名。しかしこの本で取り上げているのは、豆の原産国や品質、焙煎方法やハンドドリップなど抽出方法などすべてにこだわったコーヒー文化。今、タイではコーヒーがとても流行している。7-8年前にアメリカや日本はもちろん世界的にブームとなり、日本でもクオリティの高い美味しいコーヒーが飲めるカフェがたくさんオープンした。タイでもほぼ同時期にそのブームが訪れ、バンコクやチェンマイの街を歩けば、たくさんのカフェを見つけることができる。突然訪れたコーヒーブーム、ゆっくりと育まれてきた欧米や日本とは違い、その歴史が浅いタイでは、コーヒーの表現方法やメニューも独特で面白い。そしてなにより、タイはコーヒー豆が栽培できる。収穫シーズンになると、カフェのオーナーやバリスタたちはコーヒー農園を訪れ、栽培について熱心に勉強をする。これからもっと発達していくタイのコーヒーシーンは見逃せない。





2つ目はスケートボード。タイでもスケートボードが人気で、バンコクにはいくつもパークもありタイ発のスケートブランドもある。本で取り上げている「Preduce」はデッキはもちろん、アパレル、ビデオも何本もリリースしていて、ブランドにはアートディレクターやフォトグラファー、シネマグラファー、プロライダーも抱えているくらい。日本の仮面ライダーとコラボレーションしたスケートボードの板やニューバランスと一緒にタイ独特の枕の模様をモチーフにデザインしたスケートシューズを発売するなど世界的にも注目をされている。「MIT SKATEBOARD」は、それまでタイ国内ではなかったスケートボードの板を制作しているスケーターの二人組。スケートボードを愛する気持ちは、タイでも変わらない。



3つ目はアート。チェンマイで偶然出会った「Tua Pen Not」というアーティスト。自分で建てたというコンクリート製のスタジオで絵を描いたり、プロダクトを制作販売したり。作品ももちろんだけれど、自分で作ったというプロダクトを売りながら、その売り上げを生活費や次のプロジェクトの制作費にしているという彼のライフスタイルが面白かった。そして、そんな彼が憧れているアーティストは「Lolay」。彼はタイ国内はもちろん、海外でも有名なアーティスト。彼の作り出すアートはもちろんだけれど、アーティストとして彼のライフスタイルに憧れていると「Tua Pen Not」が言うので、それならと「Lolay」の家も訪れることにした。バンコクから車で2時間ほど離れたフアヒンというビーチタウンに二人の息子とカフェを経営する奥さんと共に暮らしている。アート作品はもちろん、アーティストとして彼の家族との暮らしが素晴らしい。



そして、4つ目は音楽。タイに通い始めた時からずっとなにかいい音楽はないかと探していたけれど、なかなか見つけられないでいた。あるとき友人からタイの東北地方、イサーンの伝統音楽にモーラムというのがある、と教えてもらった。「モー」は達人、ラムは「語り」という意味。初めてこの音楽を聴いたとき、想像していた伝統音楽とはまったく違い、とてもグルービーで聴いているだけで踊ってしまう。とにかくのりのいい音楽。タイの人は音楽が大好き。街中では爆音で音楽がかかっているし、広場やイベントがあれば必ずといっていいほど生演奏をしているバンドや歌手のステージがみられる。平日からクラブはたくさんの人で盛り上がっているくらい。今ヒップホップが大ブームのタイだけれどモーラムや昔からある音楽やリズムが今の音楽にも大きく影響しているのが面白い。



そして5つ目のカテゴリーは、僕が旅をしていて気になった雑多ネタ。いろいろと興味のある物事を並べたけれど、僕がタイを訪れる理由の大半は美味しいご飯、といってもいいくらい。特にチェンマイの料理は大好きでチェンマイでは食べたいご飯を決めてからその間になにをするか? というのを考えるくらい。自給率160%とも言われるこの国。食材も豊富だし、甘い、辛い、しょっぱい、酸っぱいが同時にする味付けの料理になんとも魅了されてしまう。



タイにはソイと呼ばれる路地がたくさんあり、僕が好きな物の多くはその路地で見つかることが多い。「90年代の東京みたいだ」とタイの街を歩いて感じたこと。そして僕がこの路地から抜け出せずにいること。そんなところで見つけた僕の好きなタイランドを紹介している。

次回は、この本を作ろうと思ったきっかけにもなったコーヒーの話です。


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NEW NEW THAILAND 僕が好きなタイランド
Amazon:https://www.amazon.co.jp/NEW-THAILAND-僕が好きなタイランド-竹村-卓/dp/4908406251/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=カタカナ&keywords=new+new+thailand&qid=1583140648&sr=8-1

協力:タイ国政府観光庁 公式サイトAmazing Thailand

https://www.thailandtravel.or.jp

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