Tylerと僕

About Time #26

Tylerと僕

Contributed by Sho Mitsui

Trip / 2021.12.13

1年9ヶ月ぶりにアメリカに旅立った通訳・翻訳家&カルチャーコーディネーター兼英語教師の三井翔さん。著名人からアップカマーまで、アメリカ国内に謎のネットワークを持つ彼にしか見えない、コロナ禍以降のアメリカの「リアル」を毎週お届け。今回は三井さんがリスペクトするアーティストTyler, The Creatorと貴重な時間を過ごしたエピソード。

#26

Tylerとこうやって私的に会うのは3回目だろうか。このコラムを読んで下さいっている方々ならご存知の通り、1度目はナイジェリアンレストランにて、


(2017年撮影)

2度目はLAのGOLFストア付近で、目的は忘れてしまったけど、Anwarとドライブしていた時にバッタリ。


(2017年撮影)

そして、今回はAnwarの家で僕も携わっているPlastic Labのトイ・カーを手渡すために。



因みにこの3枚のツーショット、撮影してくれているのは全部Anwarな事に今気付いたw

Tylerと交わした会話はどの場面でもほとんど鮮明に覚えているつもりだが、それでも人間とは忘れる生き物だ。今回は僕史上最大の時間、Tylerと話す機会をもらったので、忘れてしまう前に事細かく僕らの会話を記録しておきたいと思う。そんな、「誰得?」な回だ。

決まっているだろう。


ただの「俺得」であるwww

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Tyler(以下T): この本(詳しくはアーカイブ#13参照)やべぇな。こんなレアなトランク見た事ないよ。

Sho(以下S): Tylerが持ってないトランクなんてあるんだ?w 良かった。これで、探し物が増えて楽しいじゃん。

Anwar(以下A): すごい詳細にトランクの事が書かれてるっぽいな。ネットに載ってない事とかさ。

T: ほんとそれよ。めちゃくちゃ深掘りしてる本っぽいよ。この形とか今まで見た事がない。ヤバいのがさ...ウィンザー公爵のこの写真を見て思い出したんだけど、こいつが持っていてる辞書は1996年頃に$30,000程で落札された筈なんだけど、その辞書は1930年代に奴がアフリカに行く度にスワヒリ語を英語に手書きで訳して作った本なんだ。

S: ヤバいね。

T: 俺はこの本を何一つ読めないけど。この写真に写ってるこの本がその辞書なんじゃないかって思うんだよ。

S: なる程ね。

T: クッソ背の高いアフリカ人が本を持っている写真があるんだけど...

A: その本でそいつは語学を独学で習得するわけだ。

T: すげぇよな。その本用のトランクとかもあった筈なんだ。ほら、この写真のこれとかさ...Google翻訳を使って読むのが楽しみで仕方ないよ!

S: 飛行機の中で訳しておいてあげれば良かったねw 11時間のフライトがもっと生産性のあるものになってたよw

A: もう一冊本が出来ちゃうよなw 

T: (ページをめくりつつ)この写真は世界貿易博覧会的なところで撮影されたと思うんだけど。当時はフランスで行われていたんだ。展示物は多岐に渡ったんだけど...

A: 香水とかか?

T: いや当時、香水は金持ちの為のものだったから...いやーこの本ヤバいわ。詳細が過ぎるわw この気球の側面の絵とかさ。めっちゃインスパイアされるよ。いや、これホントぶっ飛んだ贈り物だよ。ありがとうな。

S: もちろん!ドンピシャなギフトを選べて、俺もすごく嬉しいよ!何より君が喜んでくれている事が嬉しい!

T: いや、本当はこんなに長居するつもりじゃなかったんだ。会って、物受け取って帰る的なノリだと思っていた。Reignには車で待ってろって言っちゃってたしw

A: まさかこんな思いやりのあるギフトがあるとは思わなかった?

T: いや、ホントぶっ飛んだよ。(本をまためくりながら)ヤバ...うわ。これは当時のモーターショーか。

S: そうっぽいね。

T: いや、こんな本があったなんて...これ一冊でルイ・ヴィトンの歴史が丸わかりだ。しかも、トランクに特化している。そこがすごいんだよ。マジでありがとう。

A: トランクの積み上げ方の教科書にもなりそうだなw

T: もう一冊これが欲しいぜ。(ページをめくる手を止めて)面白い話があるんだけど、これとかさ、3日前にザ・グローブのマーケット内にあるステッカー屋さんへ行ったんだけど、そこでこんな感じのステッカーの復刻版を売っていたんだ...こういったステッカーはもはやホテルや外国へ行っても貰えないんだ。だから、こうやって写真でステッカーのオリジナル版を見られるのは感動だよ...話を戻すとその店で復刻版のステッカーを買いまくったんだ。それを参考に、自分バージョンのステッカーを作りたいんだよ。なんせ、このステッカー超レアだからな。

A: ステッカーを現代版にアレンジするわけね。

T: (ページをめくり)このトランクは持っているよ。デカいやつをね。ハンガーとかも付いているんだ。でも、レアで見つけるのが大変なんだ。店もこんなケースを仕入れても置くところがないだろ?"steamer trunk"って呼ばれているんだけどね。steamer train(蒸気機関車)やsteamer boat(蒸気船)で移動する時に使うためのスーツケースだったからさ。「やーべぇ。水の上で18日間の生活かよー」

A: えっ?!どゆこと?

T: いや、18日間の船旅ってことよw

A: あーね。

T: 長旅になるから衣装ケースをまんま持って来ちゃうわけさ。

A: デッカいガウンとか羽付き帽子とかな。

T: これ見てみなよ。トランクに付くのはロゴだけじゃないんだ。所有者の名前も入れて、自画像も描いて貰ったりするんだ。めちゃくちゃ細かいアートワークだろ?

S: すごいね。

T: すげーよ。凄すぎ。情報過多だw マジでありがとうな。

A: ちょっと待ってよ。何それ?コーン用のケース?

T: 連中はありとあらゆるもの用のトランクを作ったのさ。何だって作ってくれるさ。

S: ゴルフクラブ用のもあるね。

T: 「この手袋めっちゃ気に入ってるの!」ってなったら、手袋用のケースを作ってもらうのさ。マジ、ヤバすぎ。ホント感謝してる。

バチン!(ハイファイブ)


からの


ギュッ(握手)

S: もちろん!君の為ならなんでもするよ!

T: ハグするか?

S: うん!!!!!www


ぎゅーーーーーーーーーっ(天国に召すかと思ったwww)


T: いや。驚いたよ。度肝を抜かれた。

S: オフィシャルでPlastic Labとコラボ出来るかな?

T: このブランドって結局なんなの? 

A: もう1人俺の友達が関わってるんだ。そいつの趣味さ。トイ・カーが大好きな奴だね。

S: そう。その人がディレクションしてる。僕は海外マーケティングとセールス。

A: そいつは仕事外ではずっーとトイ・カー作ってレースさせて遊んでるんだよ。趣味が高じてブランドになったんだ。

S: (Plastic Labのインスタページを見せながら)Tylerのカーがウチの最新作なんだけど、こんなのもあるんだ。(別のトイ・カーを見せる)

T: うおっ!これヤベェ!...どれもめちゃくちゃ良い出来だな。これも良いな!

S: 韓国のBalansaとか...これは、今渡したCherry Bombので...

T: いや、すげーイイよ。

S: Anwarにも3つ作ったんだ。

T: (Anwarのカーを見て)これもヤバいな。

S: で、これがウチのオリジナルで、初号機。

T: これに似た車持ってるよ。めっちゃ良い車だよ...良いブランドだな!凄いよ。ガチでビビってる。Plastic Labか...チェックしておくよ!

A: 大人のホビーって感じよ。

T: Anwarが自分のカーをポストしたのを見た時に「カッケェ!」って思ったんだよね。

S: これはポケモンのリザードン風の車なの。で、車だけじゃなくて、コラボTシャツも作ってるんだ。

T: うん。これは確かに...ちょっと考えさせてくれ。考えさせて欲しいけど、すごく良いプロジェクトだと思う。コレクターズアイテムだな。いつも何個位作るの?

S: 大抵は超数量限定なんだけど、Tylerが沢山欲しいなら喜んで作るよ!(会社に許可とってないw)

T: いや、極小の方が良いと思うよ。こういうのは。

A: Tシャツもステッカーもカッコいいんだけど、やっぱりカーが1番ヤバいよな。

T: (机の上に広げられた自分のトイ・カーを見つめながら)...どうやってこれ元の状態に戻すの?

S: ああ。俺が包むよ。任せて!

T: いやー。このトイ・カーはヤバいわ。でもな、あの本にはマジでビビったよw

S: イェーイ!

A: Shoの個人的な想いが詰まってるもんなw

T: Shoはマジで俺の事を理解してる。

S: Tyler!俺は君のファンっていうより、研究家なんだ。インタビューは全部読んだし、動画も全部見てる。君みたいな服装をするのも、君から色のコーディネート方を学んでるんだよ。

A: こいつはコピーしてるんじゃないんだ。自分風に着こなしてるところがイケてるんだよ。

T: 分かるよ。

S: 研究してるんだw きしょいストーカーファンに見えてるかもしれないけど、全部純粋なリスペクトなんだ。

T: いや、すごく嬉しいし、お前マジで良いやつだと思うよ。

A: Shoと初めて会った時にさ、「君は誰?何する人?」って聞かれて、「つか、何で英語しゃべれんの?」っていうw

S: 初めてAnwarに会った時から"Carrots"ってブランドは知っていたんだ。だってTylerがCarrotsを着ている写真を雑誌で見た事があったからさ!

T: 日本のメディアのニッチさってマジすごいよな。Anwarには送ってなかったかもしれないけど、NIGOの家の全貌が分かる動画を1ヶ月前に見つけたんだ。6分バージョンみたいのは、良く目にするんだけど、これは1時間半の動画なんだ。NIGOは世の中にあるもの全てを所有してるんだけど、何故彼がそれを手に入れたのか、一つ一つ紹介して説明してくれるんだ。その情報量がマジでヤバい。

S: Beatlesが実際に演奏した楽器とかも所有しているよね。

A: 全部、思い入れがあるからこそだ。「気持ち」や、「思い入れ」が1番大切だと心底実感するよ。

T: ものの見方が変わるよな。ところで、お前のそのチェーン幾らしたの?(アンワーのゴールドネックレスを指差して)

A: これはコラボした時にタダで貰った。けど、今度新しいのが出来る予定だ。

T: マジで?

A: Alex(Mossタイラーの最近のジュエリーを作っているジュエラー)に頼んだんだ。

T: (Anwarのネックレスのラフスケッチを見ながら)これはヤバいのが出来そうだな。

A: Pharrellが昔着けてたやつからインスパイアされたんだ。

S: レコードにサイン貰えるかな?

T: もちろんさ。

S: Call Me If You Get Lostのレコードは出さないの?

T: じきに出すよ。あれ作るのにめっちゃ時間がかかるんだ...だから春頃かな?

S: コロナでだいぶ生産が遅れたって言ってたよね。

T: ああ。


...サインを書き終える




S: 日本に来たら連絡してよ。Tylerの好みは全て理解してる。ベストワッフルスポット、パンケーキスポット、古本屋、どこにでも連れて行くよ!

A: Tyler、俺はお前を適当な奴に紹介したりしない。Shoはマジで凄いんだ。ミシュラン星レストラン、ジブリ美術館...こいつに任せておけ。シェ・イノとか...Shoには沢山クールな体験をさせて貰った。

S: シェ・イノの井上さん昨日亡くなっちゃったんだ...Shamira(Anwarの奥さん)が妊娠してた時にお腹撫でてくれたじゃない?

A: 覚えてるよ!マジか...RIP。

S: とにかく、通訳だってなんだってするさ。Tylerの為なら!日本に着いたら、連絡してくれたら後は任せて!

T: 日本に早く戻らなきゃ!

A: マジで以心伝心なんだよ。「何でここに来たいって分かったの?」って所に何も言わなくてもShoは連れて行ってくれるんだ。

T: それは本当に凄いな。日本にはちょくちょく行ってるけどさ。そんな待遇受けた事はないわ。

A: Shoに連れて歩いて貰うと毎回新しい発見があるんだ。

S: 仕事無しでただ単に旅行で来なよ。新たな日本の側面を見せてあげられると思う。まあ、Anwarはいっつも「今回はビジネス無しだ!観光オンリー!」って言って、結局いつも10個ぐらいのミーティングに連れて行かれるけどねw

A: そうそうw つい、オファーを受けちゃうんだよねw

T: ...すげぇな。いや、信頼してるよ。すでに。だってあの本を見つけてくれた男だからな。俺だってああいうものを常に探してるんだけど、実際に見つけるのは大変なんだよ。グッチの良い本にもめぐり合った試しがない。グッチの歴史についての本とかさ...。

S: 了解。次会う時はグッチの本用意しておくわ。

T: 本当に用意してくれてそうだよな。一冊持ってるけど新作の写真ばかりで古いものについては載ってないんだよね。確か、そろそろグッチの映画出るよね?あれ楽しみなんだよね。

A: あの映画めっちゃ面白いよ。クライムミステリーだけど。あと、HALSTONは絶対観た方が良い。

T: 何それ?

A: Halstonってデザイナーの話なんだけど、ラルフ・ローレンとヒューゴ・ボスを足して2で割った様な奴でさ。凄いパンク精神の持ち主で、「Studio 54」に入り浸ってた奴なんだ。

T: 服作ってた奴なんだ。

A: 有名になる前にエイズで死んじゃったんだ。でも、NYCで奴は歴史に名を刻んだんだ。凄い人物さ。

T: そいつについては何も知らないわw

A: アメリカ人てさ、アメリカ人デザイナーについてあまり語らないじゃない?ラルフ・ローレン以外は。

T: ハルストンのスペルは?

A: H-A-L-S-T-O-N。Netflixで見れる。

T: マジか。見よっと。てか、2人ともマジでありがとうな。

S: こちらこそありがとう。"Arigato Gozaimas"(ここは日本語で言って深くお辞儀をした僕)...写真一緒に撮って貰えるかな?

T: もちろん!

Reign: ここ逆光だからあっちで撮った方が良いわよ。


Anwarが写真を撮ってくれる。


A: 良し!めっちゃ良いアングルで撮れた。

S: 本当にありがとうございました!

T: いや、Shoこそ分かってないよ。どれだけあの贈り物に俺が感謝しているか。

S: 日本に来たら絶対連絡してね!

T: 次いつ行けるかマジで検討もつかない。8月末まではスケジュールがパンパンだ。でも、マジありがとう!めっーーーーーちゃ長いハグをさせてくれ。

S: うわーーーーー!マジ?(歓喜の涙)

A: 時として、人生でランダムに会った人が自分の人生を変えてくれることってあるもんな。でも、それでいうと俺とTylerの関係性って、長い付き合いの中で築いたものじゃない?

T: 確かに。一瞬で打ち解ける関係もあるし、その逆もある。とにかく、このギフトにはとても感謝してる。言葉じゃ言い表わせないよ。この本食べちゃいたいくらいだw
この子(Reign)が腹ペコだからもう行くわ。お前ら2人とも愛してるぜ!

S: 長い時間本当にありがとう!じゃあねー!

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文字起こしをしながら震えた。本当にこの会話が実際に交わされたんだということを改めて実感したからだ。信じられないが、全ては現実だ。これこそ一生の思い出。実現してさせてくれたAnwarと時間をくれたTyler、そして腹ペコなのを我慢してくれたReignにもう一度感謝したい。



今回の旅が実りあるものになったのはこの日があったからだ。そして、この日のおかげで、僕の人生はまた一段と素敵で、興味深いものとなったのだった。


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