my milli mile #2
YOU LIKE ME JELATO??
Contributed by Yuka Ishiyama
Trip / 2024.04.11
大学生のYuka Ishiyamaさんがフィンランド留学中のあらゆる瞬間を独自の視点で切り取り、出会いのストーリーとして全8回でお届け。
#2
一度だけだ。
あの夏に私の手から、アイスがずり落ちたのは。
あっ……。
…
その一瞬で、自分の目の前だけが止まったような感覚だ。
なぜだろう。
あの瞬間が、今はたまらなく愛おしい。
1人で暑い太陽の下を練り歩く。
一人旅の最中、ポーランドで観光名所としては珍しい岩塩坑へのツアーに参加した。
長い地下までの道を、ガイドさんに連れられてひたすら歩いた。
各箇所で岩塩坑や採掘に関する歴史を沢山説明されたが何だかよくわからないまま、わかったように相槌をして進み続けた。
すると、なんとも神聖な地底湖に着いた。
記憶にある限り、緑と青に照らされたその池は約60%が塩で出来ているらしい。そこにいると、自分の動く音すら宙に浮いて聞こえた気がした。
ガイドさんの“This lake is too salty to swim”という言葉に、我々の静かな笑いがボワーンと大きく響いた瞬間のことは、妙によく覚えている。
地下に広がる岩塩の世界は、地上の暑さからは程遠く、異世界のようになんとも神聖なものであった。
世界遺産のヴェイリチカ岩塩坑の大聖堂
地下深くに息をする地球を感じて涼しくなり、外へ出るとまたすぐに体温が戻った。
涼しさを取り戻そうと駆け寄ったジェラートショップ。
ポーランドの物価の安さから、1つ3ユーロもしないジェラートを慣れた様子で頼んでみた。
ジェラートという響きすら贅沢に感じるのに、この値段はお手軽だな〜なんて浮ついた私を、あの時のキャラメルジェラートは一口分だけ涼しませてくれた。
一瞬で、逆さになって灼熱のアスファルトに溶け出すジェラート。
その瞬間、ジェラートと目が合った気がした私は惜しいはずの二口目をリベンジしなかった。
なんだかその時は、まだ口の中で溶けるジェラートの一口目の甘さと冷たさを楽しみたくなったから。
その日、バスで10時間かけてポーランドの都市を移動した。
車内での長旅からパッと目が覚めた時には、もう目的地についていた。急いで荷物をまとめてバスを飛び出しホッとしたのも束の間、私はこの旅で初めて涙が溢れ出そうになったのだ。
前泊地の街で1時間も入り浸った陶器屋さんで、葛藤の末に選び抜いた家族へのお土産は今頃誰の元へいってしまったのだろうか。
あの時、バスの後部座席に置き去りになった陶器たちのことを思ったら、発進直後のバスを追いかけることは決まっていた。
徐々に離れていくバスを目で追いながら心まで連れていかれそうになる自分の姿と、その背後から唯一味方をするように吹き込んできた駅前のパン屋の香りは、今でも忘れない。
そう、大事に思っていたはずなのに案外ちょろい私。
今頃手元にあるはずだったお気に入りの陶器達
でも不思議なことに、今頃どこの国の誰の元にあるかもわからない陶器たちは、今でも私にとって大切なもの。
あなたには、手元になくても大切な存在はありますか?
あの日、私の手元からずり落ちてしまったジェラートのように、
あの日、一瞬の隙に置き去りにされてしまった陶器のように、
なんだか儚く、それでも愛おしい思い出と共に今を過ごせていますか?
私はそんな1秒の思い出すらも忘れず、大切に大切に、思い出を側に置いておきたい。
そうしたら、自分の知らないところまでも、繋がっていられるような気がするから。
世界はだだっ広い。
だけど、そんな思い出たちは私をいつでもギュッと近くに寄せてくれる。
この物語が、あなたにとってもそんな存在でありますように。
LOVE,
SEE YOU NEXT TIME!
岩塩坑の近くのポーランド料理屋さんでお隣にいたマダム。
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Yuka Ishiyama
東京生まれ育ち、ひとり時間もパーティもコーヒーもビールも大好きな欲張り大学生。ヨーロッパ留学と旅を経て世界の広さと同時にその近さを実感し、誰もが持つ個々のストーリーをエンパワーし、表現したいと活動している。現在は日本のホステルで働きながら、世界と自分との出会いの旅を続けている。