日本が好きな理由

Greenfields I'm in love #71

日本が好きな理由

Contributed by Aya Ueno

Trip / 2022.12.02

兵庫県神戸出身、東京在住のWriter/Photographer。学生時代に渡ったイギリス留学を機に、人や、取り巻く空間を魅せる表現に興味を持ち、現在Containerをはじめ、カルチャー、フードメディアにて発信中。

#71

友達のリアムと遊ぶ最後の日は、彼に連れられてAldgate近くの高層ビルへ。the garden at 120というビルで、屋上へ行くとロンドンを一望できる。この辺は金融街で、ユニークで近未来みたいなビルが並ぶ。また、ちょっと横に目を移すと古い建造物が並ぶ落ち着いた街並みが広がる。こうしてみると、やはりロンドンは色んな顔を持った街だと思う。ゆっくり景色を眺めたりすることなんてめったにない私だけど、その視界は面白くて、飽きることなくずーっとのんびりできた。



そのあとは、ロンドンのウエストサイドの端くれ、Richmondへ。電車で一本だが1時間近くかかる。tubeでは、わたしが最近少し気になっていた、Can'tとCanの発音の違いを教えてもらった。ベーシックな言葉の発音が急に分からなくなったりすることが時がたまにある。リアムは、言われてみれば難しいと言って、何度も発音して考えながら教えてくれた。私が彼に日本語を教えてあげる時もある。言葉って、ほんの小さな順序や音の違いでその意味合いがガラッと変わってしまうのに、母語ともなればそんな些細な違いについて深く考える間も無く、感覚で話せてしまう。話すって、本当に面白いと改めてよく思う。
そうこうしているうちに、Richmondに到着した。駅の近くにあった古いカフェに入って、オーツ麦を固めて作ったようなチャンキーなケーキを食べた。お年寄りがゆっくり時間を過ごすような落ち着いたカフェで、私とリアムは2人だけとっても若かった。

リアムは地元のヨークシャにある、Bettysという有名なカフェの話をしてくれた。一つ一つのポーションが大きくて、安くて、ヨークシャではとても有名だと言った。



Richmondのお目当ては、オレンジツリーという名前の小さな舞台劇のシアターだった。舞台を囲んで見るんだよというリアムの言葉にどういう事かと耳を疑ったが、入ってみると、その言葉通りだった。これまで見てきた、映画館のような舞台ではなく、絨毯のひかれた小さな正方形の舞台を囲むように座席が並んでいた。イギリスでも珍しい、そしてとても歴史のあるシアターらしい。お客さんは着飾りすぎない自然な着こなしで、みんなとってもおしゃれだった。


このチケットは今も取ってある。



とても小さい劇場。


ホールが暗くなった。360度お客さんに囲まれ、どうやって劇をするのだろうと、座席に座った後も依然として想像のつかなかった舞台は、照明や音楽を使って、感心するほど器用に、劇中の場所や時間の設定にメリハリをつけて進行していった。1970年頃の小説がベースになったストーリーで、シュールなジョークが散りばめられたいかにもイギリスっぽい舞台だった。話がさっぱりわからないかもと始めは不安になったが、内容はあらかた理解ができて、とても面白かった。自分の英語力が伸びた事を少し実感できて嬉しかったし、舞台を後にしてリアムとストーリーを確認すると、テンポも速いし、難しいかなと思ったのにと言って彼も目を丸くして、褒めてくれた。
Richmondはすこしハイソな街で、有名な高級スーパーが揃っている。そろそろ日本へのお土産も買いたかったから、私とリアムのお気に入りのWholefoods marketへ行った。ここはとにかく品揃えが多いし、クオリティが高く楽しい!私は、リアムの出身地、ヨークシャーで作られた、彼もお気に入りのピール入りのマンデリンジャムやら、同じくおすすめの茶葉をゲットした。

彼は今大学一年生(年は私より上だけれど)で、3年生になったら日本への留学が必須の学科を専攻している。その留学を何よりも楽しみにしている彼に、そういえばなんでそんなに日本が好きなのかと聞いた。私たちはよく言葉やカルチャーの話をしていたのに、何がそんなにも彼を夢中にさせるのかなんて、話したことがなかったのだ。
日本とイギリスは似ている、例えば他の大陸からポツンと離れた、小さな島国というところだったり…と彼は話し始めた。でも、日本は面白い独自の物がたくさんある、習わしも、服装も、食も、日本には他の国では類を見ない文化が無数にあって面白い、どれも本当に魅力的なんだ、ミステリーみたいなんだ、と、とても優しい顔で、教えてくれた。あまりに嬉しくて、その日ノートに書き留めたくらいだ。
リアムが日本に来たら、彼とたくさんいろんなところへ行きたい。もしかしたら、リアムの方が知っているかもしれない、そして私ももっと日本が好きになるんだろう。


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