ドタバタあめりか縦横断<br>~National Park紀行~

FillIn The Gap #8

ドタバタあめりか縦横断
~National Park紀行~

Contributed by Haruki Takakura

Trip / 2022.08.26

「これからどこまで自分の世界を広げられるだろうか」
この春ファッションの世界に飛び込んだHaruki Takakuraさんが、世界との距離を正しく知るために、デンマーク・コペンハーゲンで過ごした小さくて特別な「スキマ時間」の回想記。


#8

『National Park Zion編』



最初の10日間はグランドキャニオンを含む国立公園など“自然を堪能する旅”。
そう決めていた通り、ラスベガスの高き21歳の壁に弾き返された僕たちは、ヨセミテ以来となるナショナルパークへと向かった。ここからは、ザイオン→グランドキャニオン→セドナというふうに東へと駒を進めていく。
メンバーの中には国立公園を一番の大目玉としてアメリカ縦横断に来た者もおり(ボクとか僕とかぼく)、時計の針が進むのを実感して寂しげな気持ちになった。だがその一方で、「やっと終わる...」と安堵の言葉を漏らすメンバーもいた。よく眠る彼は、はなから旅の終着地であるNYに思いを馳せているとオープンにしていたので特別驚かない。なにせ、このチームにはアンバランスさが満ちている。
だが今思えば、このアンバランスさこそがメンバー間の天秤を保っていたのかもしれない。全員が全員、同じタイミングでテンションの上がり下がりを起こせば(それはそれで楽しそうだが)とんでもないテンションの偏りが現れたチャートが出来上がるだろう。訪れる場所の特徴によって、旅程をリードするメンバーが変われば、具材を最大限に引き出した偏りのない料理が仕上がる。RV車内は、発酵のように色んな個性が互いに作用しあっていた。そう考えると、実はアンバランスさが集団旅をより楽しくする要素にもなりうるのかもしれない。。。と今になれば思える。今になればね。。


さて、ナショナルパーク巡りを控えた僕たちの旅路に話を戻そう。
日の出と同時にラスベガスを発った僕たちは、ユタ州西南部に位置するザイオン国立公園へとRVを走らせていた。途中の国道からは、もう随分と見慣れた荒野が一面に広がる。ドライブし始めた当初は、常連の1人か多くとも2人だった眠り組も、気づけば大半を占めている。だが起きている者には、すれ違うRVの運転手と挨拶を交わしたり、ひたすらに広大な自然を目に焼き付けることができるという特権がある。これは決して譲れない。

ラスベガスから東へと続く国道15号を通れば、ザイオンまではそこまで遠くない。ひたすら荒野を眺め、ハリケーンなどいくつもの街を経て、アメスク一行はザイオン国立公園へと到着した。そこはネオンが煌めくラスベガスとは打って変わって、360°褐色の高い岩に囲まれた自然が織りなす監獄のような場所だった。
「ここザイオンには、峡谷・荒野・砂漠といった色んな環境があるから、400種類以上の生物が生息しているんだ。そのトップにはマウンテンライオンだっているんだよ」
ザイオンですれ違ったトレッキング中のおじさんがそう教えてくれた。





それから「ザイオン」という言葉にも複数の意味があるそうだ。古代ヘブライ語では「聖域」を表すし、エルサレムの古き呼称としても、神の国を指す言葉としても使われる。つまり、その文脈によって意味が変わる不思議な言葉であるようだ。そういや、レゲエミュージックの歌詞でも「ザイオン」はよく目にする。そこには、かつて黒人奴隷としてアフリカからジャマイカに渡った彼らが、当時唯一の独立国であったエチオピアを理想郷と考えて「神の国」=「ザイオン」と呼び讃えたという背景が関係している。こうやって記事を書いていると、当時持ち合わせていなかった知識が備わるため、改めてその土地を再訪したいという想いに駆られる。

ハイカーや写真家にとって憧れの地という前知識のみを持って訪れたザイオン。
そこは雪解け水の川がせせらぎ、さまざまな草木や花が芽吹く、生命あふれる場所だった。大きく息を吸い込めば、生気に満ちた空気が喉を通り体に染み込んでくる。僕たちはゴールを決めずに、雪解け水が流れる冷たい川をスニーカーのまま歩き続けた。この川上りトレイルは「Narrows(細き山道)」と呼ばれており、腰まで浸かるほど水が深い部分も所々にある。そのため、周囲のハイカーたちは半パンに登山シューズという完全装備である。
我々は、履いてきたスニーカーで歩き続ける。そう、完全にこのトレッキングを舐めていたため、裸足で歩こうと思っていたのだ。だがトレイルには岩がゴロゴロと転がっており、下手に裸足では歩けない。スニーカーでのNarrowsトレッキングは、体力が思いのほか削られたため、時々立ち止まっては空を見上げて休憩をとった。すると、高く聳り立つ赤壁の隙間から見える綺麗な蒼が目に降り注ぐ。どこを取っても五感が自然に浸される。上からは蒼と日差し、下からは冷たい水、左右からは外界を遮る赤壁が自然の偉大さを伝えている。




デジタルから距離を置く、ということを無意識のうちにしたくなる環境がそこにはあった。画面の中にはない魅力が僕たちを包み込む。
これが恋焦がれた国立公園の魅力...。渓谷を吹き抜ける涼しい風に流されないよう、耽った思いを抱え込んだ。


Fin.



アーカイブはこちら

Tag

Writer