ENDLESS SUMMER #5
弘法筆を択ばず。
Contributed by Daisuke Endo
Trip / 2019.01.25
適度に深くリーフもなく、ずっと沖のイルカの群れもうっすら見えるほど透明度は抜群で、どこまでも続くプールのよう。
名物みたいになっているビーチ左側の大岩からのダイブもこの時期がベストなので、家族でくつろぐ人、はしゃぐ学生グループなどなどで毎日駐車場は満車。
朝の7時には着かないとなかなかとめられないほどである。
「初めてオアフに来た十数年前からずっと好きなワイメアベイに、ここのところすっかりハマっている水中カメラを携え潜りたい」というのが今回わざわざオアフに立ち寄った大きな目的のひとつだった。
ところがオアフに着いた夜にカメラを取り出してみると、巻き上げレバーがまったく動かない。
長きに渡る潜水で内部の機構にじわじわ浸水してきていて部品がひとつ錆びていたためであるということは日本に帰ってから知ったのだけど、その場ではそんなことを知る由もないためしばらくカメラと格闘し、のちに落胆してぼーっとしていた。
同じ部屋に寝泊まりしていたオーストラリアの学生がそんな自分を見て「ABCストアに使い捨ての水中カメラが売ってるんじゃない?」と声をかけてくれた。「一応同じフィルムカメラだし、なんとかなるんじゃない」と。
自分は彼の言葉に、(いい英訳が思い浮かばなかったため日本語で)「たしかに、”弘法筆を択ばず”というしね」と返す。無論、自分が弘法大師級の修練を積んでいるわけではないので、たとえ道具を選んだとしても大した出来ではないのだけど。
ということでワイキキに1ブロックごとにあるといっても過言ではないあの青いロゴの店に行き、使い捨ての水中カメラをいくつか買ってきた。
(右が愛機NIKONOS-V。レバーが微妙な位置で硬直している。そして左がその使い捨てカメラ)
ともあれ用意はできたので、翌朝早々に車を走らせワイメアベイへ。
着いたのは6時半、しかし駐車場の空きは残り数台。
行く予定のある人は本当に早起きしたほうがいい。
さっそく泳げば裏切らない穏やかさ。5メートル近い深さがあっても水底の規則的に波打つ砂ははっきりと見え、潜ればその砂の波はずっと遠くまで続いて最後は紺色の中に消える。まったく比喩じゃない。ちなみにこの日も沖ではイルカの群れに会えた。ここはイルカやウミガメとの遭遇率が本当に高い。
安物カメラで撮影した写真の仕上りも「これはこれでいっか」という感じだった。
ある意味牧歌的な世界観のノースショアはこういう雰囲気の写真のほうが合うのかも、
と思えばすこしは納得できる。
みんなこの岩からジャンプする。
男子も女子も関係なく次々飛んで、岩の上や水の中からは絶えず飛ぶ人への励ましの声がかけられる。自分も昔は大いに怯えながら(何度か断念したりしながら)飛んだけれど、それは150cmもなかった頃の幼少期の話。とてもじゃないけど自分はいいや、と思いながら、下で歓声をあげる輪の中にいた。
ひとしきりジャンプしたあとはみんな陣地に戻ってスナックに手を出したり、昼寝したり、フリスビーをしたりする。
それだけ。
なのに、とても尊いビーチライフに見えて、簡単に手に入らなさそうに見えるのは何故なんだろう。
結局、ABCストアで買い込んだ安物カメラはよく頑張ってくれて、このあとも行く先々で絶妙にブレたり、ボケたり、ズレたりしていい感じの写真を残してくれた。もちろん、ブレたりボケたりなのはカメラが悪いからではなく、弘法大師ではなかった自分の修練不足によるものにほかならない。
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Daisuke Endo
ブランド、ショップ等の裏方稼業。 さまざまデザイン請負、PRのお手伝いなど。