Couch Surfing Club -西海岸ロードトリップ編- #56
Dead Reckoning
Contributed by Yui Horiuchi
Trip / 2023.08.24
#56
台風一過とはよく言ったもので、前日の大事件(詳しくは前話 #55 Betrayder Joe’sをお読みください)で意識も半ば朦朧としていたものの、一転して一ミリの曇りもない澄み渡った青空のようなお腹加減で朝を迎えることができた。
アメリカ入国初日に人生初コロナ陽性に見舞われるという災難のせいもあり、結果的に一ヶ月近く滞在をすることになったMckinleyvilleで過ごす最後の1日は朝ごはんを町のカフェで食べることにした。
いわゆるモーニングだ。
なんと言っても、朝ごはんに食べた冷食で前日に大変な目に見舞われたこともあり、今日はもう信用ならないので手をつけないでおくことにした(わたしは)。
Arcataまで車で8分、Cafe Brioでクロワッサンを一つ頬張ってみた。
解体しながら食べるクロワッサンはカケラ一つだけ取っても味が凝縮している。
素朴なもので乗り切った昨日の非常食(?)とは打って変わってバターの味が一際美味しく感じられた。
ここはコーヒーで友人とおよそ5週間の冒険について語り合いたいところだったけど、まだお腹に自信もなくハーブティーをチョビチョビ飲みながら窓の外を眺める始末。
外に停めた車の窓から友人の犬がわたし達に気づいてこちらを向いている。
「お腹大丈夫? 食べられそう?」
「うん、今のとこ平気かも、クロワッサンもハーブティーも美味しい、健康って本当に財産だよね」
まるで老人のように背中を丸めてお腹をさすりながら返事をした。
飲みきれなかったホットティーは持ち帰りのカップに移してもらい、少し冷え込む海岸沿いの街の朝を最後にお散歩することにした。
散歩はおなかが本調子でないことが不安要素となり足早に切り上げる。
帰宅して昨日取り掛かる予定だったパッキングに手をつけた。
リビングでの作業中、隣で遊んでとばかりにブヒーブヒーとおもちゃを鼻で鳴らして主張してくる犬。
きっと今朝のお散歩は早めに切り上げてしまったからご不安だったんだろう。
もう滞在中に戯れあえるのも最後だし、日本に帰ったらどんなに会いたくなったって、会えなくなるんだ。
自分に言い聞かせて、あとで遊んだら今日は同じベッドで一緒に寝よう。
私物の整理を終え、オレゴン州のコストコで買い溜めした大量のお菓子を梱包材のように詰め込んでいく。
よくお土産の外箱がスーツケース内で綺麗にテトリスできなくて、この隙間をどうにか! と発狂しそうな時、わたしがよくやるのが一度外箱を開梱するという手段。
まず自分用のお土産の箱菓子の中に割れ物を収納する方法。
グミのパッケージなんかがもってこいでミルフィーユ形式でグミ、瓶、グミ、瓶、グミとかなりスカスカだった外箱もぎゅうぎゅうになり再度フタをガムテープで留めてしまえば、荷物もコンパクトに万が一の割れ物の心配もなくなり一石二鳥。
こういう作業をしているとたまに出くわす珍事件。
個包もされず箱詰めされたグミが溶けて箱の内側にくっついてる。
流石のアメリカンクオリティすぎて友人に見せびらかして笑った。
お店に戻りに行ける距離だったらコストコの場合快く交換してくれただろうけど、そんな余裕はない。
ホットケーキミックスのような粉物系も箱は結果的に捨ててしまうので、中身だけにして他のパッケージとドッキングさせていく。
パッキングの隙間がほどよく埋まっていくので気持ちいいものだ。
箱本体に指示書が印刷されている場合はぬかりなく写真を保存しておくように。
でないと中身がただの粉と化してしまう。
それにしてもひどい箱の開け方、でも原始的な糊付けで全然上手く開けられないことあるよね。笑
紙の重量は嵩張ると結構重いもので、不要になった紙ゴミをまとめると小さい段ボール一箱分くらいになった。
達成感!
箱に再収納する方法以外には、ジップロックなどに圧縮しながら平たく平たく個包のものを整理して並べ、スーツケースの真ん中にある仕切り部分のジッパー収納に入れていく方法。
そこもパンパンになったら、スーツケースの余ったスペースに所狭しと突っ込んでいく方法もあるけど、すぐにいくつかつまむか、帰りの飛行機で食べるように手荷物に分けておけば心配には及ばない。
ひと段落したあたり、お腹のクロワッサンが消えたようで空腹の兆しが。
とりあえず手元に残っていたゆかりを入れて固めのお粥を作ってみた。
お行儀が悪いけど、お鍋からそのまま食べる。
テレビの番組表をザッピングしているとHBO Comedyで面白そうな映画を上映中だったので再生する。
The World's End (邦題:ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!)英国俳優たちが母国イギリスを舞台に一晩で12軒のパブを巡る中でエイリアンに襲われたり、町の人々の様子もだんだんおかしくなっていって、ドタバタコメディで食事を終えた後も面白すぎて見切ってしまった。
まだ見たことない人には痛快コメディだったので是非見てみてほしい。
実はこの時点でまだコンプリートできていなかったミッションがあったので、一度外に出てスーパーのハシゴをしにいく。
友人も買いたいものがあったらしく、一緒にドリンクを探す。
こんなバカでかいチャイの原液はじめてみた、と思わず写真を撮る。
ここまで来て今更なんだけど、昔のスーパーでは店内で写真を撮ってると注意されることがあったことを思い出した。
最近はスマホのシャッター音もしないし、ジャッジしにくくなったことも一因かもしれないけど、いつの間にか店内での撮影禁止サインや、スタッフからの注意を受けることがなくなったように思えた。
目的のジャンクなお菓子はオーガニックスーパーにないと事前調査済だったので、Safewayに移動しFruit Roll-UpsとケロッグのRice Krispiesをゲットしにいく。
なぜか友人が最後のお土産の買い出しのお代をカバーしてくれる。
「これ友達へのお土産なんだけど、いいの?」
「うん、なんかSafewayにメンバー登録してたみたいだから少しお得になるみたい」
ということでお言葉に甘えて、帰国したら友人からのプレゼントというていで、お土産を渡すことにしよう。
パッキングの合間で進めていたScrabble、わたしが再度ネイティブの友人に勝つ結果に!
しかも大差!
Agonyは最近の英単語練習で習得した単語、ここですぐに実用することができた。
後から訪ねてきた友人のお兄さんにHyraxesって何と聞かれる始末。笑
わたしも知りません。笑
単語検索をしたらでてきましたと伝える。
ちなみに『イワダヌキ』だそうです。
イワダヌキってなんだ!笑
検索してみると結構可愛いやつなのでググってみてください。笑
日本で買える物品は持ち帰る必要がないので、一時的にキッチンに広げさせてもらっていた食材やキッチン道具は一式段ボールにまとめておいた。
友人にキープしたいものとそうでないものを後で聞いてみることにする。
2021年の夏に渡米した時は日本食材店など多くのお店がクローズしていたこともあり、今回は状況が分からないままだったので、引き続きたくさん調味料などを持ってきていたけど、今回は別の理由(自宅待機)で買い出しも頻繁に行けず、家にいて何か慣れた味のものを食べられる状況には多少安堵していた。
一ヶ月前にほどよく荷造りをしていた自分を褒めてあげたい。
大型のスーツケースを二つ持ってきていた今回の滞在。
一つは重量を規定の23kgに収めて、ロックをして玄関横にスタンバイさせておいた。
日本の友達へお土産として買っておいた、Rice Krispiesは箱を外したついでに一個つまみ喰い。
事前に友達には少し分けてちょうだいと連絡して承諾を得ておいた。
一年振りに食べたけれどこの食感と味は日本の雷おこしをさらにマシュマロで練ってなんともねちっこくさせたようなお菓子。
日本人の口には結構合うと思う、冷蔵庫で冷やしておくと尚美味しい。
Mckinleyville 出発前夜、最後のホットタブに浸かろうと思って外に出たらこんな綺麗な夕焼けが出迎えてくれた。
この景色も今夜が最後、ゆっくりと夜のとばりが降りていく様子をジャクジーに浸かりながら眺めていた。
わたしが湯船に浸かってる間に友人のお兄さん(長男)がやってきた様子が窓越しのリビングでうかがえる。
後で来るとは聞いていたので、わたしが外にいたらヨロシク伝えといてと言っておいたのだが、上手く伝わってなかったみたいだ。
室内が明るく外はもう暗いのでこちらの様子は目視できないのだろう、待てど暮らせど、なかなかお兄さんが帰る気配がなくわたしもジャグジーの中でそろそろのぼせそうという時、友人がおもむろに外に出てきた。
暗くてよく見えないせいか顔を覗きこみ、
「まだ出てこないの?」
「え、だってバスタオル持ってきてないし、お兄さんが来ちゃったらヨロシク伝えといてってさっき言ったよ」
「あ、ヨロシク言いたい(Wanna say hi)って言ってなかったっけ、ま、いいや、YUIが出てくるまで帰らないでずっと待ってたんだよ」
「え!!違うよ!ヨロシク言っといて!(Say hi for me!)って言ったんだよーーー!」
「OK、で、どうしたらいい?バスタオル持ってくる?」
「あ、うん、はい。じゃあお願いします」
若干謎の登場になってしまったが、びしょびしょの水着にバスタオルを巻いて室内に戻ってきたら
「久しぶりだねー!会えて嬉しいよ!」
そう言って濡れることも厭わずにハグしてくる、この家の家族はみんなスーパーハートフルなので、こちらもぎゅっと抱きつかずにはいられない。
流石にそのままだとまた体調を壊しそうなので、一度シャワーを浴びてくると伝えてから退出した。
だけど翌日着る予定の洋服を残しておいただけで他のものはパッキングし終えて、パジャマは友人に借りるつもりでいた。
いそいそとシャワー上がりに友人の部屋へ移動して、勝手に着れそうな短パンとロンT、フーディーを拝借した。
友人そっくりの格好でリビングに戻ると、兄弟二人がおかえりーと再度出迎えてくれた。
まだビールは飲めそうにないので、コンブチャで乾杯。
「YUIが昨日Trader Joe’sに裏切られて、食中毒になって大変だったって今話してたとこだったんだよ」
「そうなの!それで、Betrayed Joe’sって呼ぶことにしたってもう言った?」
「それ聞いたよ、めちゃくちゃいいジョーク思いついたね、それ今度から使うことにするよ」
まだ2022年の夏はまだ日本が鎖国中だったこともあり、今の入国審査の状況ってどんな感じなのかなどヒアリングされる。
お兄さんは日本にまだ未上陸でウインタースポーツをしに北海道に行きたいのでホテルや雪の感触など知りたいと言っていたけど、わたしは北海道に行ったことがないのとウィンタースポーツは12歳でスキーを滑ったのを最後に雪山は温泉に入ってゆっくりするもんだとばっかり思っていたので、残念ながらなんの参考にもならなかっただろう。
日本に帰ったらいいガイドブック見つけて送るねと言って、オレゴンに行く前に焼いて冷蔵庫に入れておいたチョコレートチャンククッキーをみんなで食べた。
お兄さんは本来の来訪の目的、牽引トレーラーを友人から借りて帰っていったが今日の訪問のタイミングは間違いなく不意打ちだった。
無駄に変な汗をかいてしまった。笑
家族兄弟皆仲が良くて全員合わせると6人兄弟だったっけな、今日会ったお兄さんはもう50歳だし姪っ子甥っ子も含めるともうわたしですら訳がわからなくなる始末。
最近やっと顔と名前と順番が一致し始めてきたところだ。
実は長風呂でお腹が空いていたわたし。
ゲストを見送ってから冷蔵庫のTrader Joe’sの生ハムとチーズを取り出し、オリーブオイル、蜂蜜、塩胡椒もリビングに持ってきた。
昨日友人が買ってきてくれていたライスケーキの上に乗っけて大きいカナッペのような出立ちの夕ご飯を即席で作り、ボロボロと崩れるライスケーキをキッチンペーパーとキッチンタオルを受け皿にして食らいついた。
どうだろう、わたしのこの回復ぶり。
今回のコラムのタイトル『デッドレコニング』はこっちですごく気に入ったロックなタップバーの名前でもあるんだけど、本来は移動経路や距離などから現在地を割り出すことで航行する“推測航法”という意味で、転じて、情報のない中で推測や結果を出すことを指す言葉でもあり、直訳すれば“死の報い”という言葉にもなる。
そこまでシリアスだったわけではないけど、まるでゾンビのように昨日のどうなるか分からないような状況から抜け出して軌道修正できたことのメタファーのようで結果的に生還へと導かれたDead Reckoningのような一日だったと思った。
明日のSF行きの5時間ライドにも少し余裕を感じさせる体調で前夜祭の幕を閉じた。
アーカイブはこちら
Tag
Writer
-
Yui Horiuchi
東京を拠点に活動するアーティスト。幼少期をワシントンD.C.で過ごし、現在は雑誌のイラストや大型作品まで幅広く手掛ける。2015年に発表した「FROM BEHIND」は代表作。自然の中にある女性の後ろ姿を水彩画で描いた。自然に存在する美や豊かな色彩を主題にする彼女の作品は海外でも評価されている。