前髪とフィルムカメラとの出会い

Greenfields I'm in love #26

前髪とフィルムカメラとの出会い

Contributed by Aya Ueno

Trip / 2021.01.29

直感を信じ、ドキドキするものに向かって走り続ける神戸出身の大学生、Aya Uenoさんの連載「Greenfields I'm in love」。自分探しも兼ねたロンドンでの留学生活で、自分の目で見て、肌で感じたありのままの日々の記録をお届けします。

#26

わたしのクラスは午前9時から始まるので、通学時間はちょうどラッシュアワー。おまけに学校はロンドンの中心地のホルボーン。通学時間はだいたい四十分くらい。朝の電車は、飛び込むように乗り込まなきゃいけない。そうでもしないと、一生駅のホームから抜け出せず、いつまで経っても学校には辿りつかないからね!
げんなりするような朝のこの時間、文字通り人の海にのまれそうになりながらもわたしが密かに楽しんでいるのは人間観察だ。着こなされたファッション、可愛いメイク、手すりを握る腕からチラリと覗くタトゥー、密かな存在感を放つアクセサリー。人がいっっっぱいいるからこそ、この電車通学(チューブ通学?)は人間観察にうってつけの時間でもある。ここでは、「仕事は絶対スーツ!」という概念がないからこそ、電車の中も日本よりカラフルで、違った雰囲気が見られる。
ある日、セントラルラインのホームで電車が来るのを待っていた時、近くに立ったとびっきり可愛い女性を見つけた。シンプルな容姿だけど、なんだか特別なオーラがある。そしてなにより、クールな顔立ちと、眉毛がチラッと見える前髪のギャップがとびっきり可愛かった。

電車に乗り込む時、わたしは"前髪作ろう!"と決めていた。
実は前髪はずっとずっと切りたかったのだけどタイミングを逃していた。それで、ちょうどロンドンにいるし、あの人を見て、なにかが降りてきてなんの迷いもなく、今だと思ったのだった。

そのまま、仲良しのたつろうさん(ロンドンで出会った友人で、美容師をしている。お酒が大好き)に連絡し、次の日切ってもらうことに。
学校帰りに、走ったら7秒くらいで着くところにあるたつろうさんの美容院へ。中学生ぶりに作る前髪にドキドキしながら、たつろうさんに「来たよ!」と言う。
決心したくせに、いざとなるといちいちキャアキャアうるさいわたしのために、たつろうさんは1cmずつ切ってくれた。
そうして前髪が完成したのはジャスト1時間後。わたしは自分の新しいヘアスタイルがとっても気に入った! 本当に切ってよかった。たつろうさんも、めちゃくちゃ良い! と何回も褒めてくれて、嬉しかった。今日彼は仕事が休みだったにもかかわらず切ってくれた上に、とても時間がかかったものだから「友達じゃなかったら嫌いになってる」と言われた(笑)

まだまだ外は明るいけれど、一緒にパブへ出かけて乾杯。



前髪を切ってもらったお礼にご馳走した。
テラスで昼間から飲むお酒は、最高以外のなんでもない。


話は変わって数日後、わたしは大英博物館のそばにある古いカメラ屋へ立ち寄っていた。

以前から使っていた亡くなったおじいちゃんのカメラが気付かぬうちに壊れてしまったみたい。ピントが合わない。それで最近はずっとフィルムカメラを探していた。
ノッティングヒルのポートベローマーケットでも売ってたけど、思ったより高い。もたもたして写真を撮る機会を逃したくないし、なんせ留学で来たわたしには時間がない。意を決して買う寸前、ネットでたまたま、このThe Classic Cameraの存在を知り、立ち寄ることにしたのだった。

“The Classic Camera”



着いてみるとこのカメラ屋は、名前通りクラッシックな店構えがとても素敵。20年以上やっているみたい。
フィルムからデジタル、新品もあればセカンドハンドのものもある。古いカメラがごちゃごちゃ積み上げられたよくあるカメラ屋さんとは違い、カメラの台数はそんなに多くはないけど、丁寧に並べられていて一つ一つの状態がとても良い。ライカと書かれたネオンの看板がかかっている通路には、たくさんライカのカメラが置いてあった。いつか欲しいなあ。
店内をぐるっと回ってちいさなコンパクトカメラが入ったショーウィンドウを見つけた。3段ある棚には一段に一台しか入っていない。一番上にあるカメラが可愛い。お店のおじいちゃんに来てもらって、説明を聞く。ミノルタという、日本のブランド(現在は他社と合併して、もうカメラもやっていない)。お尻にJAPANと刻まれている。おじいちゃんがシャッターを押すと、カッシャー! となんとも心地いい音が響いた。その音に完全に心を奪われて、このカメラに決めた。値段は忘れちゃったのだけど、すっごく安かった。

フィルムの入れ方を教えてもらう。



はじめての自分のフィルムカメラに心が躍る。素敵なお店で運命の買い物ができた。わたしはこのあと、The Classic Cameraに何十回も足を運んだ。

週末は、パリに住んでいる親友のまりかと、彼女がパリで出会ったねるが一緒にロンドンへやってくる。わたしは前髪とカメラを手にして、準備万端! 楽しみでたまらない。


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