Come closer! Book calls me.

London, Can you wait? #5

Come closer! Book calls me.

Contributed by Chika Hasebe

Trip / 2024.05.17

ロンドンに来てみた。実際に住んでみたら、自分は何を感じてその先に何を求めるか見てみたかった。ロンドンに拠点を移した会社員・Chika Hasebeさんによる、社会との体当たり日記。現在と過去を交互に綴ります。

#5


今回は本についての話。

イギリスに住み始めてから一番つらいのは、日本語の本が手に入りにくくなったことだ。来る前は、家の近くの図書館の蔵書が新書も含めかなりよかったので、毎週のように読みたい本を借りていた。職場でも雑誌が一通り読めて、結構な活字天国だった。

それが渡英してから一変。日本語の本へのアクセスは乏しく、書籍代もかさむようになった。今のわたしの読書環境は最悪だ。実際、読書量も減り、間接的に心の健康にも悪影響を及ぼしている。


会社の近くのスクエアで芝生に座って本を読むのが至福のひととき


根本的な問題は、ebooksが苦手なこと。デジタルネイティブと呼ばれる世代でも、できないものはできない。どうしてもデバイスを通して文字を見ると情報のブラウジングになってしまい、読書モードに脳が切り替わらないのだ。これにより日本語の本を読む手段が制限されるようになってしまった。

英語の勉強になるからと、最近は街中の書店で書籍を購入することもあるが、洋書だと読める速度が1/2以下に低下する。先日ロンドンに来る友達に川上未映子の本をお願いした。もらった瞬間飛びついて、半日で読み終わったことに自分でもびっくり。日本語だったらすらすら進むのに、どうして英語だと絶望的に遅いんだろうと情けない気持ちになった。


川上未映子の本も英語に翻訳されている。確かに最初に彼女の本について教えてくれたのは外国人の友達だったな


これでもまだ良くなったほう。今の仕事を始める前、イギリスの新聞記事を読むことですらハードルが高かった。すぐわからない単語でつまずいても無視できる間はいい。それが重なると全体の文脈すら掴めなくなって、現在地がわからなくなる。そうなってしまうと話題への興味も、自信も、やる気も、全て消失してしまう。

現在職場では、新聞記事含めあらゆる形態(いずれも堅い)の文字情報を吸収、精査、吐き出しているので、英語のまとまった文章への耐性はだいぶついたと思う。そのおかげで洋書も前よりすらすら読めるようになって、基本的に今では辞書を使わなくても内容を楽しめるようになった。それでも有名な書籍などで既に日本語に訳されたものがあれば、間違いなく翻訳版を手に取るだろう。読む行為へのストレスは少ない方がいい。


誰かのおすすめで知った本。読みたいけれどどこか古本で見つけられないかなと思っていたら、チャリティーショップにあった


日本にいたときのように図書館を駆使することもはばかられるようになった。以前借りていたスパンで本を読み切ることができる自信がない。「途中でもやめてもいい」と自分に言い聞かせる意味でも、本を買って手元にいつでもキープしておくほうが気が楽になる。


そろそろ本棚買おうかな……


ただ、読みたい本を片っ端から買っているために、部屋が徐々に書籍で圧迫され始めてきた。元から狭い部屋がどんどん書籍の山に侵食されてきているのを見ると、どうにかしなきゃいけない気になる。それに引っ越しの頻度が多いロンドンで、手荷物過重は禁物だ。まだ渡英して一年すら経っていないのに、こんなに重い本ばっかり増やしてどうすんだよ、自分。積み上がった塊と対峙しながら頭を抱えることもある。

3月、日本に一時帰国した。帰る前も後も、周囲に「主に何が目的で帰るの?」と聞かれる場面が多かったが、家族や友人の再会以外では、「本を持って帰ること」と答えていた。

この約一年間、日本にいたときに買った画集や写真集、雑誌など「今ここにあったらいいのに…!」と家で一人唸る瞬間が何度かあった。特にアートブックは普通の小説の何倍も何十倍もかさばり重量があるので、渡英時に全て置いてきた。それでも忘れられなかった我が子たちを、帰国のタイミングで救出することに成功! 計50kgのスーツケース二つを引っ提げて、イギリスに戻ってきた。家の収納限界量に圧をかけながら、多分次回の帰国時もたくさんの本を抱えて帰ってくるのだろう。



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