No Sleep Ever #8
Can’t stop entertaining me(vol.2)
Contributed by Chika Hasebe
Trip / 2022.12.02
目標に向かって、自ら道を開拓し続ける会社員・Chika Hasebeさんが、眠れない街NYへ旅に出た。誰よりも好奇心に従順な彼女だからこそ感じる、NYでの新しい発見と、心揺らすできごと。
#8
エンターテイメントが溢れる、眠らない街。昼も夜も遊び尽くせる。
1.Y2Kイベント
実はわたしたち日本人3人組、NYについた初日からハードめな夜遊びをかましていた。夜遊びって言葉、ちょっとダサいのでnight outとしておこう、結局同じ意味だが。さて、その初日night out。正確に言うと、他の2人はわたしより1日早く着いているので、彼らにはウォーミングアップの日が付与されていた。ピザを食べて平和な初日を過ごしていたようだ。わたしの場合は、先述の通りギリギリまで珍しく仕事でバタつき、着いてからはクレジットカードが使えずに久々の海外でパニック。なんとかたどり着いて夜を迎えるという嵐ぶりを発揮したのだった。
そんな初日の夜に選ばれたのは、バーレスクショーである。と言いつつも、実はショー自体は日にちが合わなかったので観ることが叶わず、バーレスクショーで有名な箱「House of Yes」で主催されていたY2Kイベントに行ったのだ。ショーはやっていなくてもそれっぽいものはあるだろうとほぼ何も考えずに向かったのだが、ビンゴ!普通のクラブじゃありえない派手な演出で、時々ショータイムが繰り広げられていた。
時々どこからともなく降りてきては黄色い声援を浴びる演者
Britney Spears、NSYNC、Avril Lavigne、Christina Aguilera、Mariah Carey、Atomic Kitten、Gwen Stefaniなど’00年代周辺に流行った音楽が流れ、ローカルたちがテンション上げながら入ってくる。イメージするバーレスクショーとはかけ離れた景色に圧倒されていたわたしたちも、気づいたら溶け込んでいて、初日から大満足なパーティだった。
演者がメイクしてくれるブースもあった
2.ミュージカル(?)
恐らくわたしが説明するよりもググってもらった方が早いだろうが、「Immersive theatre」というジャンルのショーがある。観客は着席して状態で落ち着いて鑑賞する従来のスタイルからはかけ離れた、観客も劇に参加する体験型シアターのことだ。
スマホは入場前に没収なので、会場内で写真は撮れない
NYでローカルも週末のエンターテインメントとして楽しみにするようなアトラクション『Sleep No More』はその代表格。2011年初演で当初は期間限定予定だったが、話題と人気を呼んだその公演は現在も絶賛公演中だ。ブロードウェイからオフ・オフブロードウェイまで含めたあらゆる舞台作品の中から優秀なものに贈られる「Drama Desk Award」の受賞歴もあり、NYでも認められた公演と言える。
とりあえず、これに関してはブロードウェイとかミュージカルという概念は忘れた方がいい。どちらかというと鬼ごっこ、お化け屋敷の方が感覚的には近いはず。なぜなら、とにかく暗くてよくわからないまま、廃墟のホテル内に放り出されて走り続けるからだ。
入場時に配られるトランプ。これになんの意味があるのかは全くわからなかった
コンセプトを説明すると、シェイクスピアの戯曲『マクベス』がベースになったストーリーが、ホテル内の各所で同時進行的に繰り広げられる。そこにあるのは音楽とセットと演者の踊りだけで、説明のプロットもセリフもない。観客は最初だけ誘導され、気づいたら放置される。そこからは好奇心のままに自ら動かない限り、2~3時間の間中何も見ることができずにただ時間が過ぎるだけ。個人の主体性に全てが委ねられている。
これも日本からの友人と3人で行ったので、最初訳がわからず顔を見合わせていた。会場の重々しい空気に圧倒されて、3人とも何も口に出せない。「とにかくマクベスさえ逃さなければ、話のメインストリームが掴めて面白い」という事前情報をもとにマクベスをひたすら探す。どうやら他の観客も同様の動きをしているが、マクベスどころか演者すら見つけられない。しばらくしていると、マクベスではないキャラがどこからともなく登場し、ひとまず彼らについていくことに。目の前に人ひとり分もない距離で、バレエベースのパフォーマンスを10人程度がじっと見るという異様な光景が広がっていた。
何役なのかわからないサブキャラに導かれるまま、どうやら舞踏会のシーンに突入。するとそこで発見したのはマクベスだ!途端に走る日本人女子3人組。捕まえたぞと言わんばかりに至近距離をキープする。ベタ付きだ。だが次の瞬間、そのシーンが終わったのか猛ダッシュするマクベス。なんと上の階に行ってしまった。そう、このホテル、何階分シアターとして使われているのかわからないほど途中で相当な階段の登り降りがあり、それがとにかくハードなのだ。
なんとか追いついたところで、同じようにマクベス狙いの観客が集まってきた。観客は公演中ずっと白いマスクをしなければいけないので、演者は人だかりの中でもすぐに見分けがつく。そこに自然とできた輪の中心にいるのは、マクベスと妻。どうやらここのセットは彼らの部屋らしく、なんとそこでマクベスは水の張っているバスタブに入浴し始めた!既に色々と衝撃すぎて、もはや目の前に全裸の人がいることにすら驚かない。白いマスクの観客も黙々と見守り続ける。セットには一つもフェイクがなくて、床は濡れた体でびしょ濡れだし、置いてある飲み物も演者に飲み干される。
そうやって演者を追いかけ、時に逃し、走り続けては非現実を目の当たりにし続ける2時間強。入場の際、時計もスマホも全て置いていくので、時間の感覚はまるでない。振り回され続けながら、何が起きているのか必死に整理しながら、でもどちらかというと脳より体を動かして楽しむ。途中、目の前で観客のひとりが演者に連れて行かれた。そういう体験型でもあるようだ。結局その観客はその後どうなったのか知らない。
観客にあり得ない距離まで近づかれて、時に道を塞がれてしまっても動揺しないプロたちはこちら
全てが終わって、途中ではぐれた友人と再会。終始ホテル内は演者とそれを追いかける観客で混沌としているので、友人を見失うことはよくあるようだ。再会したところで始まるのは絶対に完成しないパズルのはめ込み作業。わたしたちは途中からお互い見ていた景色が違うので、自分たちは『マクベス』の中でどのシーンをみて、あのシーンは何を意味していたのか、あの演者はなんだったのか話し合う。場所はシアターの屋上にあるルーフトップバー。3人とも興奮と謎解きへの好奇心が止まらず、明かりもセットも素敵な雰囲気そっちのけで答え合わせをした。
安堵の乾杯
もしこれをみて、面白そうと思ってくださった方がいるならば、これだけはアドバイスとして受け取ってほしい。とにかく走る上に会場は暑いので、それを考慮した服装で。ミュージカルだからといってヒールなんて履いたら、途中で公演そっちのけで、気づいたらセットの中のベッドで休憩しているなんてことになりかねない。
ちなみに今回の連載のタイトルは、この印象的な公演にちょっと似せてみた。眠らない街で、眠れないほど興奮するミュージカル(?)が体験できたのは、さすがNYと言わざるを得ない。
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Chika Hasebe
1998年生まれ。2023年5月よりロンドンに拠点を移し、報道記者の仕事に従事する一方、フリーライターとしてカルチャーについて発信もしている。