編集長。

ビールとウーバー #43

編集長。

Contributed by Kaito Fukui

Trip / 2022.03.28

どんな時も、どんな場所でも。頭の中身はいつだって「旅」そのもの。アーティストKaito Fukuiの日々と、旅のこと少し(おさんぽ)。

#43

目が覚めて、ぼんやりしている。

今日が日曜日だと思ったのは

まだ、この原稿を書き終えなければ!

と、焦らなかったから。

時計を見ずに起き上がる

トイレに行って、顔を洗って、歯を磨いて

まい泉の散歩へ行く準備をする

玄関で靴紐を結ぶとき

「今日はいい日になるかな」

少し願うようにギュッと紐を結んだ。

玄関のドアを開けて、朝日を浴びると

「なってくれ」

それは、もうちゃんと願っていた

特に意味はないけれど。

いつものポイントでまい泉はマーキングをする

大好きなちょいハゲのバスの運転手さんがいる

だから、いつもの時間に起きていると、この時わかった

公園に行くと、日曜日なので

素振りの練習をする子供や、平日は見かけないまい泉の友達に会う

少し前に老夫婦に教えてもらった、大きな木の上の

タカ類の巣を見つめて、ほんの少しだけぼーっとした。

朝からなんだか、ぼんやりしているのは

新しい長編の原稿をどうするか答えが見つからないからだと思う。

けれど、もう少しで何だかいい事思いつきそうだから

いつ、それがやって来てもいいように

あえてぼんやりしているのは自分でわかっていた。

家に戻り、まい泉がご飯を食べ終わるのを見届ける

彼が食べ終わってから、自分のコーヒーを準備して出来上がるまでにマグに残ったコーヒーを捨てて洗う

デスクに向かって、ちょっとお尻の跡が付いてきた椅子でコーヒーを飲む

一昨日、友人から差し入れでもらったチョコレートをリュックから持ってきて2つ食べた。

凄く天気のいい日曜日だ

「何だか、いい事がありそう」

掃除機のモードをハイパワーモードにして

一気に掃除機をかけた

「それだけでは、終わらないわよ!」

最後にいつ使ったか、覚えていない

めちゃくちゃホコリが取れる水モップを探して

ちゃんと、2回

モップ掛けまでした。

個展会場へ向かう為に、シャワー浴びて

いつものデニムにいつものシャツとカーディガンを着て

何冊かの本をリュックに入れて、再び靴紐を結ぶ

「リュックの中の本を読むことがありませんように」

会場に着いて、スタバの行列に並ぶ

ただコーヒーが飲めればいいから

「ドリップのアイス、トールサイズで持ち帰りでお願いします」

10分並んでそれだけ伝えた。

お釣りが渡される頃には、そっと後ろのお兄さんがカウンターにコーヒーを置いた。

流石だ。

しばらく、用意してもらった椅子に座る

「うーん、取るよ?取っちゃうよ?」

リュックから1冊本を取り出した。

控えめに言って、結構キツイ小説。

この小説を読むまで自分の知っている恋愛は青春の恋なのだと知った

社会人の恋愛、大人の恋愛は単に

「髪の毛綺麗で好き♡」
「なんか背が高くて色白で好き♡」
「なんか、わかんないけど好き♡」

なんて単純な事ではないと知った。

現実的に数年、数十年を考えなければならいと。

そんな事を教えておいて、「男と女の関係」も当然あるわよ。

なんて書いてある

心臓とみぞおちのちょうど真ん中が苦しい。

「在廊中に何やってるんだ」

ちょっと今日はもう苦しいから帰ろうと思っていたとき

彼女はやって来た。

最初はふらっと絵を見ている人だと思い

あと1分。

あと1分くらい経ったら、声を掛けようと。

凛としている人、肌が普通よりももっと綺麗だったから

モデルさんだと、なんとなく思った。

彼女は今では珍しい、有線で音楽を聞いていた

自分の勝手なデータだと、有線で音楽を聞いている同年代の女の子は

ちょっと尖っているか、本当にどうでもよくて買った時にたまたま付属品で付いてきたイヤホンを使っているかの2択だ

後者である事を願って、小説の1行を読んだら声を掛けると決めた

しかし、その行がなんとも苦しい行だ

「無理、立てない。今すぐ泣きそう。」

「こんにちは」

だよね、そうだよね。

「あ、ちょっと、あ、こんにちは」

彼女と目が合った。

すぐに誰だかわかった

「あー!こんにちは!」

やはりモデルさんだった。

モデルの人に会うと必ず思うけれど

写真で見るよりも綺麗だ。

それからかなり話をした

(2時間半ほど)

彼女は消えるように帰った

10分ほど、椅子に座りぼんやりした。

本を手に取ったけれど

話した事を忘れないように読まなかった。

駅からは歩いて帰った、自転車を押して

家に帰って、まい泉の散歩へ行く

教えてもらった曲を聞きながら。

「あーあ、最悪だ」

全然受け付けないリズムの曲ならよかったのに。

こういう曲を聞きながらやってきたのか。とただそれだけを思った。

つい、昨日の夜に恋とかしないって雨音の響く小さな部屋でボーっと天井を見つめて思ったのに。

なんて勝手なやつなんだろう

自分の最悪な部分を見た。

昔、編集長に「かいとは電車に乗ったら恋をする」

と、言われたことがある。

編集長、久しぶりですよ。

これが恋かどうかは、わからないし。




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