London Calling! #4
いざ、花の都〜パリコレってどんな感じ?〜
Contributed by Chihiro Fukunaga
Trip / 2024.08.15
そんな漠然とした願いが突如、切符となって目の前に差し出された。ロンドンで新たな生活をスタートさせたフリーランスの編集者・ライターChihiro Fukunagaさんが、生活拠点をつくるまでの様子を全6回でお届け!
#4
ロンドンに住むことのメリットの一つに、ヨーロッパ諸国へのアクセスがイージーなことがある。例えば、フランス・パリにはロンドンから高速鉄道ユーロスターに乗って2時間30分、ベルギー・ブリュッセルには3時間、オランダ・アムステルダムには4時間で行ける。
だからなのか、イギリス人は夏になるとバケーションを取って必ずといっていいほど、近隣の国で日頃の疲れを癒す。しかも、会社も個人のプランをずいぶん尊重してくれるようで、仕事を探していた時に多くの面接で「すでに予約しているバケーションはありますか?」なんて聞かれたのにはカルチャーショックを受けた。期間も2週間くらいもらえるそう。
ロンドンに来て2ヶ月が経った頃、私は2025年春夏メンズシーズンのパリ・ファッションウィークに合わせて初めてパリを訪れることになった。私は日本にいた頃、毎シーズン世界のファッションウィークの話題をしっかり取り上げるファッションメディアの編集部にいた。私もいつか東京以外の都市のファッションウィークを取材できたら……なんて思っていたけど、縁がないまま終わってしまった。
でも、今ならロンドン〜パリは東京〜大阪間くらいのテンションで行き来できる。これは行くしかない! 心を決めてから、がめつく営業をかけて、ショー来場者のファッションスナップフォトをもらってくれるメディアと撮影のアシスタントをさせてくれるフォトグラファーを見つけ、パリ滞在中のミッションも作った。(自分のこういうところは結構好き)
ロンドンからパリへはバスで移動した。Flix Busというドイツの長距離バス会社は、ロンドンの若者に人気の選択肢の一つ。私は1週間前と、かなりギリギリだったけど、往復約1万6000円で予約できた。ロンドン〜パリ間は国境をまたぐためパスポートが必須だけど、それ以外は日本の夜行バスとほぼ同じ。ドーバー海峡を渡る際には、バスごとフェリーに乗り込んだ。フェリーにはパブや免税店、屋外のベンチがあってウキウキ旅行気分!ただの移動以上に楽しんだ。
■パリのファッションウイークの会場へ
世界中のファッション関係者をスナップ
クリーム色の建築物に人の装いや空が映える
古い建物の壁面に現代的な広告(?)をドンとミックスさせてしまう感じ!なんだか新鮮に見えました
パリの大きなバスターミナルの一つであるらしい、ベルシーに到着。パリの街並みは、歩いているだけで刺激的だった。私が主に滞在していたのは、パリの中心街・であるマレ地区周辺。建築物は白〜クリーム色で統一された石造りのものがメインで、優しい色の背景に、通行人の装いが映える。多くは19世紀に建てられたもので、当時から景観を守ろうとする美学があったことが伺える。
ステッカー代わりのタイルを街中で見かけた
楽しげな写真のバージョンも!
また、中心街でも車道の横幅があり、建築物の高さの制限もあるからか、空が広く見える。私の住むロンドンの建築物は基本的に煉瓦造りで、加工しづらい性質なのかシェイプもカラーも退屈だし、ストリートにギチギチに建物が詰め込まれているように見えるので、景色はパリのほうが好きだと思った。
どの会場に行っても見かけたフォトグラファーの男の子。遊び心のある小物がキュート
こちらもフォトグラファーの女の子。オールブラックでいろんな素材を重ねてきていたのがカッコよく、このあと声をかけて写真を撮らせてもらった
さて、私のこの旅のミッションの一つがファッションウィーク来場者のスナップ写真を撮影すること。ファッションウィーク期間中は、どのブランドのショー会場に行っても、世界中のフォトグラファーがスナップを撮るために集まっている。毎シーズン来ている人同士は顔見知りなようで、国籍を超えて久しぶり! 元気にしてたか?と、ハグしていた。そして、フォトグラファートといえば裏方だけど、みんなすごくおしゃれ!
HERMESのバッグに突き刺したフランスパン!日本人の私がイメージする“パリ”って感じ
来場者も来場者で、世界のマガジンの編集長クラスの人やインフルエンサーが集まっていたため、写真を撮られることにも慣れている。写真を撮らせてくれと声をかけたら、多くの人が快く協力してくれた。
もう一つのミッションは、撮影のアシスタント。私はこれまで、編集やライティングをしてきたけれど、取材ものが多くてビジュアル作りの現場にあまり行ってこなかった。なので、ロンドンにいる間にアシスタントとしてビジュアル作りの現場に潜り込もうと企んでいるのだ!
そんな中でゲットしたのは、私も以前から名前を知っていた、日本のファッション業界で売れっ子のフォトグラファーのアシスタント。浮き足立って現場に行ったけれど、ヘアやメイク、スタイリストも含めて第一線で活躍する人たちの現場を見て、自分はまだ学生に毛が生えたような、ひよっこであることを実感し、ちょっと落ち込んだ。カッコいい30代になるために、できることをやらないと。
■旅先で必ずチェックする、本屋と音楽
私がどこか旅に出る時に、必ずリサーチするのはその土地の本屋/古着屋/音楽が聴けるところ/建築物。だけど、この時はお金が入ってくる経路が不安定だったうえに、意外とスナップ撮影やアシスタントなどのミッションのほうに時間を割いてしまっていたので、お金と時間のかからない遊びを探した。
パリのブックカフェ、ANTI PUBLIC LIBRARY。あまりに気に入って、5日間の滞在で2回訪れた。お会計の際に「あんたすごい長いこと居たわね」と店員さんに言われた
ANTI PUBLIC LIBRARYのラインアップ
パリで一番長く時間を過ごしたのは、本屋だった。特にブックカフェのANTI PUBLIC LIBRARYとでとても長い時間を過ごした。そこでは、世界の古い写真集やマガジン、レコードなどがそろっていて、コーヒーやお酒も楽しめる。置いている作品はパンクやギャングや戦争、災害などのテーマが多く、人の満たされない心と反骨精神を閉じ込めたものが多いように見えた。
日本の本も多く、写真集なら荒木経惟や橋口譲二、マガジンでいうと暴走族の読者を想定した「チャンプロード」なんかが置いてあったりした。私は水俣病の被害者にフォーカスした写真集に食らってしまって、2時間ソファーから立ち上がれなかった。ヨーロッパに来ていたって、やはり私は日本人だ。
あと、私が滞在した期間は、フランスの一大文化行事である「Fête de la Musique(フェット ドゥ ラ ミュージック、毎年6月21日)」とバッチリ重なっていた。この日は、クラシックから現代音楽まであらゆるジャンルのプロ/アマミュージシャンが路上で演奏でき、オーディエンスはそれを誰でも無料で楽しめる(←そういうの、大好き!)。日本から取材で来ていたエディターの先輩に教えてもらって、屋外のパーティーに足を運んだ。
みんなが音楽を平等に楽しむことを目指すFête de la Musiqueに合わせた、ストリートでのパーティー!
パーティーは、車通りの多い車道に面した本当に“普通の道”でやっていて、夏至の明るいパリの大空の下に爆音が響いていた。そして、みんなお酒を買ってきてキャッキャと踊りまくっている! なんてことないパリのストリートの一角に非日常の空間ができていた。誰もが平等に音楽を楽しめる、すごくいい日をパリで過ごした。来年もロンドンにいるなら、同じ日の別のヨーロッパ諸国の様子を見てみたい。
ちなみにこの旅では自分にミッションを課して結局バタバタしていたので、最終日には泣きそうなほど疲れていた。帰りのバスを待つ間、ポンピドゥセンターの前の広場に腰を下ろして何時間もぼーっと過ごした。でも、パリのファッションウィークの雰囲気を感じられて勉強になった。ロンドンからパリは簡単に行き来できる距離なので、またゆっくり行きたいな。
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Chihiro Fukunaga
1997年生まれ、神奈川県横浜市出身。幼い頃から手描きの雑誌を作り、家庭内で発表する。高校生になると編集者を職業として意識し始め、大学在学中に編集プロダクションに所属。その後、INFASパブリケーションズに入社し、ファッションメディア「WWDJAPAN」の編集部に編集記者として参加する。2024年春に渡英し、フリーランスの編集者・ライターとなる。ルポルタージュやスナップが好き。美しいだけでないリアルや、多様な価値観に迫りたい。