Home and Away vol.1

No Sleep Ever #13

Home and Away vol.1

Contributed by Chika Hasebe

Trip / 2023.06.02

「NYは毎日どこかで何かしら起きている、本当に忙しい街」目標に向かって、自ら道を開拓し続ける会社員・Chika Hasebeさんが、眠れない街NYへ旅に出た。誰よりも好奇心に従順な彼女だからこそ感じる、NYでの新しい発見と、心揺らすできごと。

#13


東京から1万キロ以上離れたNY。そこで出会った人々から感じる日本がある。アメリカで解釈された日本文化、アートシーンに吹かす日本の風、“移民”としてサバイブする日本人。出会った人、訪れた場所から感じる日本について振り返ってみる。


なんとなくギャルソンのモチーフに似ている?「Dice」というクラブイベントなどの情報サイトらしい。




Westsider Records
どこかの日本の雑誌で取り上げられていたのだろう、行きたい場所としてピン留めされていた「Westsider Records」。名前の通りCentral Parkを挟んで西側に位置し、かの有名なgrocery store「Zabar’s」から少し南に歩いたところにそのレコード店はある。店のウィンドウにはカラフルなトートバッグがぶら下げられ、そこからチラリと見える所狭しと並んだレコードが醸し出すギークな雰囲気をトートがマイルドにしてくれている。

店にはキャッシャーにおじさんが一人。入店時はお客さんと談笑していた。誌面で見たからか、見覚えのある感じがしたおじさんだ。そこまでレコードに詳しくなかったわたしは、おすすめを訊いてみた。彼はわたしが日本人であることを確かめると、日本の昔の映画のことからNYの税金のことまで全て教えてくれた。このとき初めてニューヨーカーと本当の意味で会話できた気がした。



彼は、『日本の青春』『夜叉ヶ池』などわたしが知らない日本の古典映画の名前をバンバン出して畳み掛けてくる。下町の飲み屋でお隣さんと会話している気分だった。挙げていた有名映画のどれだか忘れてしまったが、アメリカでの配給に関わったらしくかなりすごいおじさんであることが判明。自国の映画なのに無知すぎて出直したくなった。

ウィンドウのトートバッグが頭から離れなかったわたしは、最後にアルケミストのトートバッグを購入。「これは衣類として(会計を)打っとくよ」と言われ、はてなが浮かんだが、どうやら衣類は消費税がかからないらしい。確かによくよく考えれば、トートバッグは衣類というよりも雑貨だが、雑貨にすると消費税がかかる。一方、必需品の薬や食品には消費税がない。その理論で衣類も必需品だから消費税が免除されているそう。衣類=必需品なのか?という疑問はあるが、アパレル業界はロビー活動が強い産業らしく、それもあって消費税が免除されているというサイドストーリー付きだ。

おじさんに実質ディスカウントしてもらって退店。またいつか喋りに行きたいなと思ったレコードショップだった。





NYのアートブックショップ
普段アートブック専門書店でアルバイトしているからか、いざ自分が写真集や作品集を買うとなるとかなり躊躇するようになった。以前は雰囲気を見て気に入ったものがあればスパスパと買っていたのだが、いざ売る側になって毎週新刊に触れていると、世の中にはこんなに素敵な書籍がたくさんあるんだと圧倒されてしまい、なにを本当に買うべきなのか迷ってしまうように。だから、買うならば自分にとって記念になるもの、ビビッときたものを求める傾向がある。

「Karma Bookstore」「Mast Books」などNYのアートブックの書店を回った。このあと紹介する店も含めて、どの書店もラインナップの4割程度は自店で置いているものや日本で見たことのあるものだった。意外と国内にいても世界の本に手が届くってことらしい。





Dashwood Books
ダウンタウンにある写真集メインのブックストア「Dashwood Books」のマネージャーは、日本人の須々田さんだ。ここの書店に友人がzineを置いていたこともあり、一度話してみたいなと思っていた方。日本だけでなくNYでもさまざまな媒体で取り上げられ、写真集のアワードでは審査員にも選ばれるなど、NYで活躍するすごい女性というイメージだったが、お話しをしてみるとかなりチャーミング。書籍のことだけでなく、わたしが絶賛悩み中の大学の選び方もアドバイスしてくれた。



ラインナップとしては、写真がメイン。新品と中古品が並び、一角にはzineコーナーもある。NYに来る前から興味のあった、ボランティアのアートコレクティブ「8-ball Community」の元代表が作ったというzineシリーズも出してくれた。インディペンデントマガジンの有名団体の元代表が出すzineといっても、装丁はホチキス留めでコンビニ印刷のような手触り感。カラーは白黒で、ノリで1日で作ったような身軽さがあったのも、意外だったけど親近感が湧いて結構好きだった。





そのほか、NYの人や街並みについての書籍が集まっているセクションはユニークで印象的だった。その中から、塗り絵の絵本のような白黒で太めの線で描かれたイラストのzineを購入した。





ちなみに須々田さんはDashwood Booksのマネージャー。オーナーと言い間違えたら、丁重に訂正された。確かにマネージャーは店長を指し、オーナーはちょっと大袈裟だが簡単にいうと社長。英語にするとどちらも同じように聞こえてしまったが、日本語にすると違いに気づく。職業でも、Project Managerなど〇〇 Managerは個人的にはなんとなく上の階級、上司を指す雰囲気を感じる。でも職種を表すときは〇〇をマネージメント(管理)する人という意味なので、平社員的立ち位置でもそのjob titleになることは一般的。わたしだけかもしれないが、それに耳馴染みがない意味で不思議に思っていた時期がある。


道を歩けば見つけるかわいいアート。子どもの落書きではなく、Disha(@reallydisha)さんの作品らしい




Miriam Gallery
誰かに勧められて訪れたい場所としてピン留めしていたアートギャラリー兼ブックストア『Miriam Gallery』も思い出深い。ここはシティから離れて、Williamsburgのエリアにある店。どちらかというとzineメインで、奥にはギャラリー機能もある。


店の前からパシャリ。意外と中は広々としている


ここで出会ったのはNozomi Yamashitaさんのドリーミーなzine。何より装丁がたまらなく可愛くて、ハンドメイドの良さを語っている。帯の部分にはビーズで作られた渦巻きの模様が描かれていて、サイズはコンパクトに文庫本サイズより一回り小さいぐらい。Dashwoodで買ったzineと同じく、写真はコンビニプリントのクオリティだが、被写体のレトロでありふれた日常の感じと、うまくマッチしていてチープな感じはしない。クッキングシートみたいな素材の紙(トレーシングペーパーかも)に写真が貼られているので、めくるたびにパリパリと音がするのもキュート。図書館で昔、本を借りたときに誰がいつ借りて返したかの記録カードがあったと思うが、zineの最後の方にはそれが貼られていた。見た目はドリーミーなのに扱う対象はちょっとノスタルジック。優しくも媚びてない感じにとても惹かれたのを覚えている。





作者の名前が日本人なので、NYでわざわざ買わなくても日本で見つけられるのかなと思いつつ、一期一会だっ! と勢いよく購入。店長さんに作者について聞いたら、日本の会社とやりとりしているから詳しくはわからないとのこと。どうやらそのレーベルを調べたら茨城にあるらしく、茨城とNYのショップが繋がっていることに可能性を感じた。



NYで感じる日本。文化を通して対話できるっていいよね。





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