Couch Surfing Club #6
ついにグッゲンハイムへ
New York
Photo&Text&Illustration: Yui Horiuchi
Trip / 2019.09.24
どの猫だったか覚えていないけど、朝私を起こしにきてくれた子がいた。8匹いる中の1匹が夜中にずっとわたしのベッドの中で丸くなっていたのは覚えている。
家主より早く目が覚めてしまい、アリソンの作品や旦那のウィリアムソンのアトリエを撮影しておく。前夜の暗闇の中で撮影した時よりも自然光の中で空間をきれいに撮影することができた。
部屋の窓から賑やかになってきた外の通りに目を向ける。昨日見ていたライトは消され、プロジェクトの前に代わりに大量のゴミが置かれていた。ゴミの収集日なんだろうと自分に言い聞かせた。(笑)
起きてきたアリソンが庭でプランターの世話をしている。隣の家に目を向けるとドクダミの葉で一面覆い尽くされていた。彼女はその庭を指差して、「この葉は日本の植物だよね?」と言った。中華系の父親を持つ彼女は、日系の植物にも詳しいのだ。「日本ではお茶っ葉にして市販で売ってるよ」と話した。
リビングでみんなの支度を待ってる間、また猫が腕にまとわりついてきた。十分すぎるくらい猫からの愛と抜け毛をもらって家をあとにした。
駅に向かう途中、ニューヨークの引っ越し風景を目にした。玄関に階段があるのはこの街のお決まりだけれど、路駐したクレーンから荷物を運び入れるとは! アームが家にぶつからないように巧妙に操作され、クレートが玄関に運ばれていた。
駅に着き電車に乗ると、私たち以外全員黒人だった。だからといって危ないというわけではないんだけど、たまたま乗り合わせた車両にちょっと怪しそうな人がいて、親切なおばさんが「次の駅で降りるから、一緒についてきて。気づかれないように隣の車両に移るのよ」。そういって、事前に危険なシチュエーションから回避させてくれた。どこにいても肌で感じる異常とかはやっぱり万国共通で気を回してくれたおばさまに感謝したい。
ホテルに立ち寄る前に画材屋に立ち寄ってシャーピーを大量に買った。学生割引を狙ってみたけど、店員さんをうまく欺くことができず、すべて定価で購入した。
荷物を置きにホテルに立ち寄り、向かった先は早朝のグッゲンハイム。先日、長蛇の列を見てすぐにUターンを決心したあの美術館。滞在期間中には絶対行きたくて、タイミングを狙っていた。やっぱり早起きは三文の徳、これほんと。
サンフランシスコで買ったお気に入りのビヨンセTを着て、ガードのお姉さんに「ライブどうだった?」なんて聞かれながらスイスイ入館。まだ来場者も少なかったので、クロークに行き、ゆっくりと用事を済ませて、鑑賞時間に備えることができた。
エントランスに入った瞬間、「マシュー・バーニーがクレマスターシリーズで撮影したあのロケーションだ」などと一人で興奮した。今回の企画展自体はグッゲンハイム初の試みとして、アーティスト6名にコレクションをキュレーションさせるという趣旨のもので、入ってすぐに巨匠達の初期のドローイングやスケッチ、立体作家のペインティングなどタブローで埋め尽くされた壁があり、そこだけでも見応え十分。
ハンドアウトを片手にじっくりとどの作品がどの作家の初期の作品なのか目に焼き付けてきた。
もちろん写真も撮りつつ。
私がひと通り作品を見終えた頃、会う約束をしていた日本人の作家の齋(イツキ)ちゃんから「美術館についた」と連絡が入った、その頃ちょうど最上階にいたけど、下を覗き込んでみたらあまりにもすぐに彼女を見つけることができた。
隠し撮りしてたつもりが向こうにも隠し撮りされ返されたりしながら合流、彼氏が毎日フルーツしか食べさせてくれず、炭水化物切れで腹持ちが悪いというのでお腹にたまるものといえば! 的な観点から、先日行ったZaber'sのスモークサーモンサンドをまた食べに行くことにした。
スーパーのすぐ隣にカフェがあり、冷えたドリンクを買ってサンドイッチを食べようとしたんだけど、試し買いしたルートビアはめちゃくちゃマズかった。本当におすすめできない味。
飲みきれなかったルートビアを残し、二人とも赤い1番のラインに乗ろうと、セントラルパークを横切ることに。
ただどういうわけか似たような道で迷ってしまった。なかなか公園の西側につかないと思ったらそれもそのはず、実はひたすら南下し続けていて、途中で軌道修正したのがタイムラインに残っている。
余裕を持って向かったのはブルックリンのウィリアムズバーグにある、LetaとWadeのスタジオ。Letaを紹介してくれたのはHishamさんで、始めて日本で会ったのはもう3年前になる。
美術館や建築巡りが趣味でいつも刺激をもらっている同い年の彼女には、デザイナーユニットとして活躍している旦那のWadeがいる。今回、機会があったら二人のスタジオには絶対行きたいと思っていた。
アーティーな倉庫が立ち並ぶ通りを疑心暗鬼のまま進んでいたら、それらしき建物が見えてきた。「着いた」と連絡したら、ちょうどドアが開いてお互いぶつかりそうになりながらの再会。
シェアメイトの日本人で、モーショングラフィックデザイナーとして活動しているレイナさんも紹介してもらい、ひと通りのインタビューをさせてもらう。
撮影の合間に、彼女たちの作風に欠かせないカラフルなウィッグや全身タイツなど風変わりなプロップの一部も見せてもらった。「シャーピーが日本では買えない」って話したら、プロップの中から使わなくなったシャーピーを一本一本試し書きして譲ってくれた。
夕飯の約束をしていたので、ごはんに行く前に屋上を見せてくれると言う。ついていくとほのかにスモッグ感ある工業地帯に、ブルックリンの空が広がっていた。
拳を突き上げてLetaが『welcome to Brooklyn!』と叫んだ。まさに言葉にするならそんな空。
方角あてクイズをしたり、雪の滑り止め用の塩がむき出しになっている倉庫などを見つけたり、ひとしきり屋上を満喫したあと、夕食に向かうことにした。
Wadeが重い鉄扉を閉め、スタジオの裏通りに出た。そこには巨大な一蘭ラーメンが。一杯2000円もするらしい。(笑)
でも日本と同じラーメン、同じ仕切りらしい。どうしてもバリカタの福岡とんこつラーメンが食べたくなったら来るといいかもしれない。
他の友人を待ってる間、Letaおすすめのイタリアンピザのお店でブルックリンラガーのピッチャーを一人で飲み干した。
遅れてやってきたのは、インテリアデザイナーのマイクとこの前一緒にハングアウトしたフォトグラファーのナオコちゃん。彼の写真を仕事で撮っていたこともあり、奇遇にもピザ屋で東京×ニューヨーククルーの同窓会みたいなことになり、さらにビールが進む。
(C) Micheal Yarinsky
楽しいご飯を終えて駅に着いたら今時の可愛い男の子が声をかけてくる。話を聞くと、携帯の充電が切れて待ち合わせてる友達に連絡できなくなっちゃったから携帯を貸してほしいという。ナオコちゃんが気前よく携帯を差し出してくれて一件落着。地下鉄に降りる階段で『可愛い子だったから貸した』ってオチを聞いてみんなの爆笑が地下鉄のホームにこだまする。
ホテルに戻ると鼻がムズムズしてきた。どうしようかと思ってるうちにアリソンがくれたスペシャルな塩の存在を思い出して、鼻うがいをした。鼻もすっきりして、ついでに拾ってきたスポンジの消火栓のおもちゃも洗面所で洗った。
ただお塩の容器をデコレーションしただけのものだけど、ある意味とても効き目が強そうな雰囲気を醸し出す塩をくれた、アリソンに感謝して6日目は就寝。
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Yui Horiuchi
東京を拠点に活動するアーティスト。幼少期をワシントンD.C.で過ごし、現在は雑誌のイラストや大型作品まで幅広く手掛ける。2015年に発表した「FROM BEHIND」は代表作。自然の中にある女性の後ろ姿を水彩画で描いた。自然に存在する美や豊かな色彩を主題にする彼女の作品は海外でも評価されている。