Giant walk

Couch Surfing Club -西海岸ロードトリップ編- #52

Giant walk

Contributed by Yui Horiuchi

Trip / 2023.07.27

海外へ何度行ったって、旅慣れなんてない。旅で出会う全ての人にフランクに接し、トラブルだって味方につける。着飾らず等身大で、自分のペースで旅を楽しむアーティストYui Horiuchiさんが、サンフランシスコからポートランドまでの旅の記録。

#52

Fitton Green Natural Areaには友人が小さい頃からよく来ていたというトレイルと最近整備されたトレイルができたという。
「この4月に実家に帰ってきたら新しいトレイル沿いにめっちゃいい休憩場所ができてたんだよね」
まずは川沿いにあるという最初の休憩スポットに向かうことにした。
入り口で電波が通じなくなった時のために所在地の分かる地図を撮影しておく。
念のため。



西海岸は夕日が沈むのが遅くて一日が長く感じることもあるけど、太陽が東から登るわけだから盆地や山沿いに住んでいると朝はすこし日の出の時間が遅く感じることがある。
それもあってか、日が高いと感じるのは正午より午後2時くらいだった。
今日もそんなタイミングでトレイルを始めようとしているところ。
太陽を遮るものがないトレイルは熱いというか燃えそうって言えば通じるかな。
乾いた風とカラッとした大気に包まれてハリハリと音がして肌が焼けているような感覚だった。

友人が空を見上げて
「あの雲って飛行機雲だと小さい頃から思ってるんだけどどう思う?」
「え、どの雲のこと?」
飛行機雲は見当たらない。



「ほら風がなびいたあとみたいになってるところ、あれって元々長いはっきりとした飛行機雲に風が吹いてああいうデザインに変わっただけだと思うんだよね」
「あー言いたいことは分かったけど、それって飛行機雲だって証明されてるの?」
「いや調べたこともない」
「まあ気にはなるけど、、」
2人の会話も消えてく雲のように曖昧だった。

より森の中に進み綺麗な沢を通り抜けるタイミング。
「ほら水飲み場だよ」
そう言って犬に水を飲むように促した友人。



わたし達もそうだけど、犬も喉が渇きそうだ。
それに人間は靴を履いているけど、肉球でそのまま歩いてるんだからさらに熱そう。
水嫌いな友人の犬は少し遠慮して前足だけ水辺に添えて水を飲みに行った。

「もうそろそろだよ」
最初に休憩しようと思っていたスポットが近くにあるらしい。
大きな川があるらしく少しだけ体感気温が下がる気がした。

「on your left!」
後方からトレイルライドをしながら犬を連れて爆走してくる女性。
アメリカの高速と同じルールで追い越しは左から、エスカレーターや階段の追い越しも同じシステム。

「げ! 最悪! 先越されたら絶対あの休憩所とられる!!!」
少し足早で先を行く友人。
でも速度に時差があったおかげで私たちが到着する頃には向こうが休憩を切り上げて戻ってくるところだった。

第一休憩ポイントは、貨物列車に使われている線路と交差して流れる川を望む絶景のロケーションだった。
川が流れている土手にデッキが1セット設置してある。



「あーよかった! 誰もいない! 前に来た時はまだ冬で寒かったから休まなかったんだけど、絶対夏にまた来て休んだら最高だと思ってたんだよね」
ここは確かに夏場の休憩所としてふさわしい、絵に描いたようなロケーションだった。



木漏れ日に照らされながら、朝ごはんの残りのブルーベリーマフィン、タッパーでメープル漬けにしたフレンチトースト、私が焼いたチョコチップクッキー、おうちの庭で出がけに採った洋梨、2016年にポートランドを訪ねてから愛用しているハンカチの上に広げて遅めの昼食にした。



ダイソーで買ってきた除菌ワイプはどこでも持ち歩いているけど、フォントやレターが日本語なのが珍しいのでドライブスルーなどで車内に置いたそれを見つけてお店の人から
「それ外国のお尻ふき?」
なんて声をかけられたりした。

「洋梨だけはいいセレクトだったけど、こんなに炭水化物ばっかり持ってくるんじゃなかった」
どうやらここからが一番キツい上り坂らしい。

食べ終えたタッパーの中をワイプで綺麗に拭ってから川の水で洗ってゴミをまとめて犬用のゴミ袋に詰める。
心の準備をしていなかったけど、聞いていた通りかなり急勾配のキツい丘が待ち受けていた。
さっきの友人の一言が思い出される。
わたしたち以外いない山に二人と一匹のゼエゼエハアハアがうるさくてこだましそうだった。
辛すぎたんだろな、カメラロールを見返しても上りの工程で撮った写真が一枚もない。

ようやく目の前に多少平坦な道が広がる。
「あと少し!!!」
喋るのもキツかった。
丘の頂きに着いた。
右手奥にガゼボが見える。
すぐに方向転換はできなくてその場で腰に手を当ててのけぞるように仁王立ちして息を整えた。



ガゼボに向かう途中、切り株のお茶会テーブルが用意されていた。
一旦休憩してみたものの座り心地はまあまあ。
やっぱりガゼボに行こう。



目的のガゼボがまでは軽い下り坂。
ようやくたどりついたガゼボでもワイプが活躍する。
しばらく人が来てなかった証拠だろう、虫の死骸やなにかの糞がところどころにあったので友人と手分けして綺麗に拭いてからピークを望む絶景を二人と一匹占めして残りの継承をいただいた。
確かに今ここで食べたいものは炭水化物じゃなかったかも。



ここまで上ってきた分、これからの帰りは下り道だ。
荷物も心持ちもだいぶ軽くなって膨れたお腹をさすりながら立ち上がった。

日本にいて日本語を喋ってる時はいつもの口癖で「よいしょ」と言ってしまうところ、英語脳になってるせいか何も言わないでいられることが少し不思議だった。
英語に“よいしょ”って表現があるか今度日英の分かる友達に聞いてみたいと思う。



前に内陸部の話を少し書いたけど、太陽を遮るものがなくて潮風も吹かない大地は木になるものは元気だけど、山の斜面を覆う草原は完全に乾き切っていて悲しいけど山火事が起きてしまうのも頷ける。
虫眼鏡なんかあったら一瞬で火が広がってしまいそうな様子だった。

犬も流石に全身に陽を浴びて手足はさらに熱かったのだろう。
帰りに立ち寄ったせせらぎでは両手足首までジャブジャブと水の中を歩きながら水を飲んでいた。
「すごいえらいね」
犬を褒めながら友人が教えてくれた
「こんなに長く、しかも深く水の中にいたのこれが初めてだよ、見たことない」
わたしも水の上に浮かびたいくらい。
友人がいろんな川辺で行水したくなる気持ちがようやくわかる気がした。



最後、変形したまま倒れきらずに育った木がゴールテープの上にあるバルーンみたいにわたし達を出迎えてくれ、いよいよ3時間のトレイルを終えて無事駐車場に戻ってきた。



帰りの車で
「5時からキックオフが始まっちゃうんだよね、ゲームに間に合うようにドライブスルーか何かピックアップするか、急いで回転寿司に行くか」
3時間のトレイルの間そんなことを気にしていたのかと思うと可笑しい。
「わたしだけスーパーで下ろしてくれたら食材買って帰るから家で作ってもいいよ」
「えーなんでよ、一緒に家に帰る方が楽じゃん」
「まあそうだけどその回転寿司って美味しいの?」
「悪くはないよ」
「じゃあ席が空いてるかだけ見に行ってみよう、ダメだったら自炊ね」
「よしそれで決まり」

回転寿司その名もsugoi sushiに到着。
友人はすぐに着席し店内に4台もあるテレビの一台をSNFのチャンネルに切り替えてもらえないか店員さんに交渉していた。giant walkの直後、大好きなお寿司にもありつけてキックオフにも間に合うことができて気分上々の様子の友人、お寿司をペプシで流し込んでいた。
そもそもわたしはコーラやペプシが飲めないので理解以前に想像し難い組み合わせだが、幸せそうだからヨシとしよう。



ここの回転寿司、出国前に初めて食べてみたくら寿司とは比べものにならないくらいちゃんとお寿司が美味しかったので結構びっくりしてしまった。
価格も手頃で二人でたらふく食べて$40。
アメリカではSushi boatって言うと伝わる回転寿司、サンフランのチャイナタウンではお客さんが一人もいない店の生魚を頼むのが怖くてアボガドロールをしかも持ち帰りでオーダーして$12だった。
初めて訪れた街だったけど、やはりどこでもロコ達が知っている魅力的な場所を紹介してもらうのが間違いない。
コーヴァリスがさらに好きになった。



20分間のハーフタイムを利用してスーパーに寄り道してから帰宅した。
わたしはデッキから一日のメインイベントを過ごした稜線を眺めながらブラッドオレンジのビールのプルタブを手の感覚だけで開けて、視線を上げたまま口元へ流し込んだ。

「プッハァーーーーーー」

これだけはどの国でも何語を喋っていても出てきてしまう、ビールが美味しいっていう合言葉。



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