Sole, Pizza・・・ e Amore #01
はじまり
Contributed by Aco Hirai
Trip / 2023.11.20
#01
空港からタクシーに乗り込み、Airbnbで見つけたトニーというイタリア人が経営する「Charming House」という可愛らしい宿へ向かった。座席にゆったりと座り、背もたれに背中を預ける。タクシーの小さな窓から流れてくる外の景色は、想像していた以上に美しくて、ポジティブとネガティブが混在する私の複雑な心をスッとクリアにしてくれた。それは、新たなスタート地点へ向かう私の背中をそっと押しているかのようだった。
というのも数ヶ月前に、日本を離れるという理由で、同棲していた彼と別れたからだ。何度も訪れる人生の分岐点は「周りと比べないこと」、「時に非情に振る舞うこと」が大事だということを改めて心に刻んだ。だから、希望に満ちた新生活の中にも、身勝手な自分に罪悪感を感じる部分がなかったわけではない。
だからこそ、新たな土地に飛び込み、色々なものを吸収し、経験を積み、成長しようと心に決めた。
そして、私の暮らす「Charming House」は、ピンクというよりローズの方がしっくりくるような薄桃色の壁に、温かみのある木目のベッドが置かれ、気持ちの良い風が吹くとアンティーク風のレースのカーテンが揺れる、まさにチャーミングなお家だった。海外生活の満足度を大幅に左右するであろうシェアメイトは私を含めて4人。ホスピタリティに満ち溢れたオーナーのトニーは、時々顔を出して、私たちに料理やワインを振舞ってくれた。そんな彼の人柄のおかげもあって、いつも家中に笑い声が絶えなかった。シェアメイトのヘンリーは、みんなをまとめて引っ張っていくようなリーダー気質で、頼り甲斐がある奴。ユウミは、歳も近くて、信頼できる、しっかりした女性。母国の韓国で婚約者が帰りを待っているという幸せ者。そして、ブライアンは、ジェントルマンで、コミュニケーション能力に長けた、絵に描いたようなモテ男で、一緒にナイトクラブへ行くと、そのモテっぷりを目の当たりにすることができる。国籍も年齢もバックグラウンドもバラバラな私たちだけど「学生」という新しい肩書きは、予想以上に親近感を抱かせ、仲良くなるのにあまり時間はかからなかった。そして、その親近感は、緊張をほぐし、心に余裕まで与えてくれた。
だから週末は、友人たちが「Charming House」へ集まり、みんなで食事をするのがお決まりになりつつあった。あの日もいつも通り、ヘンリーがみんなに声をかけて集まった。ユウミとドクター(麻酔科医だったのでみんなからドクターと呼ばれていた)が得意の韓国料理を作ってくれて、リンは食後のデザートを用意して、ブライアンとルカはワインの買い出しに行ってくれた。
食事の後、タバコを吸いにベランダへ出たヘンリーが戻ってきて言った。
「大家が上の階に新しい入居者が入るって言ってたけど、今下に着いた人たちじゃない!?」
ニューフェイスの登場に興味津々な私たちは、バルコニーへ駆け出て上半身を乗り出した。すると、アパートメントの下に止まったタクシーから大きなスーツケースを下ろす2人の男性の姿が見えた。
メンズが2人。
私も含めてなぜか女子たちのテンションが上がったことに気づいた(笑)!
1人はキャップを被っていて顔がよく見えない、もう1人はくるくるヘアで、これもまた顔がよく見えなかった。
「確か、イタリア人って言ってたよね!?」と、ユウミ。
「多分、彼らだね」と、ヘンリーが核心付いた顔をする
バルコニーで話す私たちの話し声が聞こえたのだろう。スーツケースを下ろし終えた2人は、バルコニーから体を乗り出す私たちを見て、軽く手を振って挨拶をしてくれた。
悪い人ではなさそうだ。
これが、この2人に抱いた私の第一印象だった。
たかが、上の階に入居者が越してきただけのことなのに、ざわつく家の中。この平和で、なんだか心がほっこりするようなやりとりまでもが、たまらなく楽しかったのだ。この年齢や性別を特に意識しない感じも、色々な国籍が混じり合う部分も、ゆっくりと流れる時間も、「学生」という新しい肩書きも、東京での多忙な生活をおくっていた私にとって、すごく新鮮で心地良かった。
そして誰かが言い出した。
「今度、挨拶がわりに2人を招待して、手作り料理を振る舞うのはどう?」と。
そんなことからイタリア人2人とのご近所(アパートメント)付き合いがスタートすることになった。
そして、これが私とイタリア人パートナーとの最初の出会いでもあった。
つづく。
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Aco Hirai
2004年オーストラリア移住、2005年帰国、2019年マルタ島留学、2020年イタリア移住。 海外で活躍する日本人を取材したImhereマガジンを不定期で発信しています。(インタビュイー募集中)