煙越しに見るトルコの街 Vol.1

Fillin The Gap

煙越しに見るトルコの街 Vol.1

Contributed by Haruki Takakura

Trip / 2023.04.14

学業の終わりと就職の始まり。何者でもない、この「スキマ期間」に経験した旅をHaruki Takakuraさんが綴る連載『Fillin The Gap』。今回からは番外編としてトルコでの旅日記をお届け。いろんな視点から見るトルコの街には面白い発見がたくさん。


ケバブ・マスター 前編

世の中には、あらゆる種類のマスターがいる。
トルコはイスタンブールにて、僕は「ストリート・ケバブマスター」に出会った。屋台のイメージが強いケバブには、どうやら高級路線とストリートの2パターンがあるようだ。



現在、2022年の2月、僕は友人と卒業旅行でトルコを訪れている。トルコでは The Inoue Brothers の2人とその友人アリさんと落ち合う予定だ。イスタンブール、イズミール、パムッカレ、カッパドキアを移動も合わせて約10日間で周るという非常にタイトな旅程。

計4都市を周るわけだが、とりわけイスタンブールには最初の3日間と最後の2日間という、サンドイッチスタイルで多めの旅程をわりあてた。多くの日程をイスタンブールで過ごすことにしたのは、京都でトルコシーシャ屋さんを営むケマルさんに強烈なオススメを受けたからだった。

ケマルさんは、日本で流行中のエジプシャンシーシャ(エジプトのシーシャ)ではなく、トルコシーシャを京都・二条城付近で提供している。彼の生まれはイスタンブールで、学生の頃にはイスタンブールからバスで約6〜7時間下った街、イズミールで働いていた経験があるとのこと。

彼のお店には、いたる所にトルコのかけらが散見される。シーシャのみならず店の内観にも、すべてトルコ製の家具や照明を取り入れるほど、トルコ愛とこだわりの強い店主。彼が淹れるトルココーヒーやチャイはたまらなく美味い。間違いなく「質」にこだわるプロフェッショナルだ。

そんな彼が歴史を感じるならばイスタンブールだというからには、なるだけ多くの時間をイスタンブール探訪に使いたくもなるわけだ。

そうして、無事に日程を決めた僕たちは、スカスカの飛行機でイスタンブールへと向かった。


(Anadolu Nargile / イスタンブールにある霊廟をアレンジした水タバコ屋)


トランジットを含み、日本から約20時間の旅路。いつもそうだが、時差の影響で日本よりも時間が巻き戻される国へ訪れると、人生を得している感じがする。
そう、完全に勘違い。だが、それでもいい。
感情もひっくるめて異国情緒もみくちゃにされるのが旅の醍醐味だ。

イスタンブールに着くと、僕たちは空港を出て2人で3泊8,000円という格安ホテルにタクシーで向かった。

「タクシー、タクシー、タクシーーーーーッ!!!」

品川庄司ばりに同じフレーズを繰り返すタクシーコーディネータが叫んでいたので、とりあえずそこに向かう。念のために、値段の見えるオープンメーターかどうか、大体の相場はいくらぐらいかをチェックしてから黄色のオフィシャルタクシーに乗り込む。

これは10日間の滞在を経てから分かったことだが、現地のタクシー価格は、ほとんどが言い値である。たとえ、オープンメーターが指す値段が200トルコリラでも、トルコ語しか話せないフリをして、言い値で250トルコリラ払えといってくる。(1トルコリラ=8.2円)

ここでは、彼らが放つ言葉こそが “ルール” となる。

イスタンブールのタクシー運転手は渋滞をすり抜けるプロだった。イスタンブールトラフィックと呼ばれるカオスな大渋滞を、野良猫のようにすり抜ける運転技術は、まさにプロフェッショナル。多少は値が張っても、その技術があるなら...と、つい彼らの言い値を払ってしまう。
ある種のパフォーマンス代だと思うことで、自分は騙されているわけではないんだと心に言い聞かせる。


(人懐っこくないタイプの野良猫)


ゲストハウスに到着後、すでに待ち合わせ場所にいるというThe Inoue Brothersの元へと向かう。もちろん移動手段はタクシー。あの運転技術がみたい!という理由のみである。そうして、急いで飛び乗ったタクシーにてこの旅1人目となるマスターに出会った。

彼の名前は、カンメル。27年もの間、タクシー運転手としてイスタンブールの道を走り続けている。彼は少し英語を話せたので、タクシードライバーになった経緯やトルコ事情などの話を聞くことができた。

「釣り人でふんぞり返るガラタ橋はかつて木製だったんだよ。そこで食べられるサバサンドはB級グルメとしても有名でおすすめさ。」

「車は高いから、友人と半分ずつお金を出し合って、ようやくこのHondaを手に入れたんだ。」

話の盛り上がりとは逆さに、あっという間に過ぎていく時間と街並みになんだか焦りが生まれてくる。しっかり味わっておくために、窓から旧市街の街並みを眺めようとすると、すぐ横のタクシー乗客が“ET”ができるくらいの距離に見えた。



「え、ぶつかるんちゃう?!」あえて、日本語で友人に話しかける。

日本語はわからないはずのカンメルさんだが、バックミラー越しの表情が「もしかしてビビってんの??」と言っている。それと同時に、なぜか少し楽しそうな表情でもある。

僕はとっても嫌な予感がした。

目の前の信号が青に変わる。
そのとき、すでにバックミラー越しのカンメルさんからはさっきまでの楽しそうな表情はなくなっていた。
彼の表情を確認した瞬間、ギュイーンっと進み出した車体に体が置き去りにされる。そして横に並んでいたETカーの前にスッと入り込む。するとすかさず、ETカーにクラクションを鳴らされる。ならばとカンメルさんも後ろのETカーに向けてクラクションを鳴らし始める。

だが、もちろんクラクションは基本的に目の車に鳴らすものである。当然の流れで、カンメルさんの前の車は「何にも悪いことをしたわけではないのに!」と後ろのカンメルさんに向かってクラクションを鳴らす。

「クラクションは挨拶だからね;) 」

当然のごとく引き起こされたクラクションの大連鎖をよそに、カンメルさんは通常運転である。

とんだ異国情緒を目撃したことで気分が上がってきた僕たちは、ギリギリでバスの間をすり抜けたりとスリリングな運転をするマスターに右手を突き出して「フゥーーッッ!!」と叫ぶようになっていた。同時にバックミラー越しのマスターは嬉しそうに目尻にシワを寄せている。

そして、ファンキーな運転をした後、彼は決まって「プロフェッショナル、プロフェッショナル。」と唱える。好きな言葉なのかと思い、「プロフェッショナル!」と返すととても喜んでいた。おそらく30分の道のりで10回は口にしたが、この魔法の言葉を唱える度にクシャッとした笑顔がミラー越しに確認できた。

30分ほどで渋滞をすり抜けた僕たちは、マスターに「テシェクレ (ありがとう) !!」と伝えてお別れのハグをする。マスターは目尻にシワを寄せてニコッと微笑んでいた。

僕たちがストリートのケバブ・マスターに出会ったのは、次の日に訪れた大通りを外れたストリートにあるケバブ屋での事だった。


続く



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