The Route #6「anna magazine編集長の取材日記」

ポテトサラダ・グレイビーソース

anna magazine vol.11 "Back to Beach" editor's note

Contributed by Ryo Sudo

Trip / 2018.05.15



ポテトサラダ・グレイビーソース



3/23。

朝5時半に起床、ビッグベンドへ向かう。朝日を撮影したかったのだ。サマータイムなので、日の出は午前7時50分と遅めだった。

7時くらいから山の稜線がうっすら見えてくる。それまでは漆黒の闇。太陽の光が少しずつあたりを照らしはじめると、恐竜時代のような原始的な雰囲気だ。ディズニーランドのウエスタンリバー鉄道の最後に登場する太古の地球のイメージ。



だんだんと明るくなる空。さぞかし清々しい気分になるだろうと思ったけれど、意外と冷静だった。サンセットというのはどんな場所で見てもドラマチックで気持ちがせつなくざわめくけれど、朝の光というのは、とにかく真っ直ぐというのか、もう単純に気持ちがいいという感じ。

夜が明けたところで、フォウフォウとコヨーテの声がする。僕たちもものまねをしてみると、コヨーテも声を返してきた。何度も、何度も。それはちょっと、感動的なやりとりだった。

日が昇った瞬間よりも、夜明け前の暗闇の方がワクワクした。真っ暗な道を走るトレイルランナーがいて、「ああ、自分もここを走ってみたい」と心から思った。
草いきれというのか、草の匂いがすごい。鼻から入った匂いが、体の奥の方まで直接届くように感じた。

その後一旦ホテルに戻り、ホテルの部屋やまるでマッドマックスのような朽ちた車や建物の残骸などを撮影する。



近くのガソリンスタンドでの朝ビュッフェはなんとなくパス、コーヒーだけ購入してもう一度ビッグベンドへ向かう。まずはビジターセンターへ。

anna magazineの取材には、僕なりのルールがある。それは、事前にあれこれリサーチをし過ぎない、ということ。たいていの場合、前の日の晩にホテルでガイドをパラパラとめくりながら、できる範囲のリサーチをして、次の日の行程を本当にざっくりと組む。あたり前のことなのだけど、自分自身がその場所の空気を直接感じながら臨機応変に取材を進めないと、ただリサーチした情報を確認するためだけの取材になってしまうから。旅をしながら、チームであれこれ話したり、地元の人々の話を聞きながら、自分の感覚を「その土地のあたり前のこと」にフォーカスしていく。そうして自分が本当に感動したこと、そしてそこで偶然出会った人たちが僕に本気で勧めてくれたこと、そんなことをすべて記事にしたいと思っている。だから前の晩になんとなく決めていた行程はころころ変わるし、誰かの意見にすぐに乗っかったりするのが僕の取材スタイルなのだけど、その「思いつき力」と、「目の前のあたり前の、本当の価値を知ろうとする力」が、anna magazineの個性を形作っている。



ビックベンドのビジターセンターは、人でごった返っていた。バイクのツーリストには年配の人が多い印象だ。仕事を引退したアメリカ人は「大人の自分探し」のノウハウを良く知っている。みんなとても楽しそうだ。

キャンパーには若い人が多い。乾燥しているからなのか、日本のキャンプ場よりも清潔な雰囲気だ。レズビアンの女の子2人に声を掛けたが、「写真はやめてね」と言われ、なんとなくへこむ。

くねくねとした道を下って行く。

しばらく同じような光景が続いたあと、「パリ、テキサス」のロケ地だったマラソンという街へ到着。クールすぎる。近くの他の街と同じように街そのものが朽ちかけているのに、どの建物もセンスが良くてかっこいい。ヴィム・ヴェンダースがロケをしたからそうなのか、もともとこういう雰囲気だったから彼がロケをしたのか。RVパークのサインもかっこよかった。街を散歩するだけで、「パリ、テキサス」の出演者になったような気分だった。ずっとこのままだったらいいのに。あんまりかっこいいので急遽マラソンという街のページを作ることにした。思いがけず時間を使ったけれど、大満足だ。



今日の最終目標はニューメキシコ・ロズウェル。ここから450kmのロングドライブなので、先を急ぐ。

途中、これもまた「パリ、テキサス」のロケ地、フォートストックトンのモーテルへ。看板も変わってしまっていたし、隣の三角屋根のスタンドもラスタカラーに塗られていて、がっかりだった。

ランチはケンタッキー。コンボのサイドメニューだったグレイビーソースがかかったポテトサラダには手が出せなかった。グレイビーってそんなにおいしいかな。



そのあとはずっと国道を走り続けた。砂埃を巻き上げながら。窓の外では、オイルをくみ上げる機械が動き続け、煙突からは火が出ている。まるでジェームス・ディーンの名作「ジャイアンツ」の世界だった。テキサスは石油の国なんだ。

街と街の間に境目のない日本と違って、隣の街が見えるまで「ほんとうに何もない原野」が広がる。いつものことなのに、なぜだかその事実を必ず忘れてしまう。

ロードトリップというのは4日目くらいに一番疲れが出て、なんとなく間のびするものだ。車内の会話も少なくなりがちだし、この日記も、本当のことを言えば少し億劫になっていた。普段日記をつけ慣れていないからか、書き出すとあれもこれもと、ちゃんと書きたくなってしまう。その「ちゃんとしなきゃ」な気持ちがプレッシャーになって、手がつけづらくなる。ジョギングと同じだ。

到着までの道のりは長く、会話もないので、ロードトリップ中に車で流す音楽について少し。運転中、音楽は本当に大切だ。音楽がなければ、車内の雰囲気はあまりにも人と人の関係性に左右されてしまうだろう。とはいえ、主張の激しい、エッジの効いた曲は合わない。みんな気持ちは周囲の風景と向き合いたいから。だから「なんとなく流れててもいい感じ」の曲を探す。当然といえば当然だけど、エレクトリックなものより、アナログな音作りのものがおすすめだ。それも、誰もがどこかで聞いたことのあるような曲。例えば、アメリカ南部のロードトリップでは、意外にもビートルズがぴったりだった。



途中、田舎だというのにひどい交通渋滞にはまった。原因はよくわからなかったが、それだけでみんなの体力は削ぎ落とされてしまった。



ロズウェルの街では、世界一有名な宇宙人「グレイ」があちこちで迎えてくれた。マクドナルドまでUFO型になっていて、普段ならテンションが上がりっ放しのシチュエーションにも関わらず、今ひとつ盛り上がらない。疲れというのはあらゆる感情を簡単に奪い去るってこと。けれど、なにひとつ期待せずに飛び込んだタイ・レストランが思いのほか美味しくて、4人のメンバーの心は再びひとつになった。あっという間に。

人の気持ちは単純だ。


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