ACME Buying Diary #1
家具ブランドACME Furnitureの買い付け日記
Contributed by Kenichiro Tanaka
Trip / 2020.03.11
#1
アメリカに入国する時はいつも緊張する。 万が一、入国審査で何らかのトラブルが生じて入国が出来なかったら? 買付け業務自体が出来なくなり、向こう数ヶ月間の商材が不足してしまう。そんな心配を頭の片隅に置きながら入国審査所でインタビューを受ける。旅行ではなく、ビジネスとして、ましてやヴィンテージ家具の買い付けという特殊な目的で入国する日本人に対して、容赦なく質問責めを浴びせてくる。しかし今回はラッキーだった。 必要書類の提出と2〜3点の簡単な質問のみで通してくれた。
無事に入国して空港の外に出られたのは現地時間の朝9時。 日本では夜中の2時。つまり、通常ならとっくに布団の中で気持ち良く眠りに着いている時間だが、時差によって1日の始まりの時間に逆戻りしていることになる。眠気と長時間フライトの疲労で頭がボーっとする。
アメリカに到着して真っ先に向かう場所は、レンタルトラックを扱うU-Haul(ユー・ホール)。ここで15フィートサイズのトラックを借りる(日本の4トントラックぐらいのサイズ感)。今日からこのトラックを使って、カリフォルニアの各地で買い付けた家具を荷台に積み込みながら駆け回る旅が始まる。
レンタルの手続きを終え、トラックに乗り込み、真っ先に向かったのは事前にアポイントを取っていた家具ディーラーの倉庫。
日常生活で乗ることのないサイズ感のトラックに加えて、日本の道路とは逆の右側走行のため、乗り始めはいつも緊張して肩の力が入ってしまう。
それでも車内から見渡す広大な青空と、どこまでも続くフリーウェイを一望すると同時に気分が一気に晴れる。
空港から目的地まで約一時間。ハリウッドの丘を越えて、さらにフリーウェイを北上すると馴染みの町に到着する。
家具ディーラーの倉庫はこの町外れの簡素な建物が並ぶ一角にある。ディーラーのマイロは倉庫のシャッターを開けて明るい笑顔で迎えてくれた。
倉庫内は家具や装飾品などが所狭しと積み上げられている。さて、ここからが大仕事。自分たちのスタイルに合った家具をこの中から探し出し、山積みの中から引っ張りだしてひとつひとつコンディションをチェックする。 大抵のヴィンテージ家具はリペアが必要な状態である。各所キズや破損が目立つが直せるのかどうか、抽斗の取手や付属のパーツはオリジナル品が付いているかどうか、塗装は剥離して再塗装が必要かどうか。再塗装したらどのような木材の表情に生れ変るかどうか、リペアに掛かる時間やコストは仕入れに見合うかどうかなど、家具をひとつひとつ吟味する。 10年以上も前にヴィンテージ家具のリペア作業を専属で行なっていた頃の自信の経験が今に生きる。
倉庫内を一通り見終わった後は建物裏のバックヤードに通してくれた。 そこで直ぐに目に付いたのはこの子供用の乗り物。
グラスファイバーで形成された車体は、運転席に子供が一人座れる座席が付いている。ハンドルは付いているがブレーキがない。
「これは、ソープボックス・ダービーといって、1930年代くらいからある遊具で、子供達がこれに乗って坂道で速さを競い合うレースカーなんだよ。」とマイロが教えてくれた。関連する書物も見せてくれた。楽しそうに丘の上から猛スピードで下り降りている様子が描かれているが、ブレーキが無いのにどうやって止まるのだろうか。きっと事故や怪我も多かっただろうな、とネガティブな想像が頭に浮かんだ。
プロダクトとしては面白いけれど、はたしてこれは買い付けるべきなのだろうか。日本に輸入して顧客様に紹介することを想像してみる。
日常生活に必要か? 子供向けの遊具としては? あれこれ想像してみたが、実用性を考えると商材としては難しい。 少し迷ったが、買うのはやめた。 アメリカでの買い付けの目的は、買い付けた物を顧客様に紹介して評価をしてもらい、その結果で対価を頂戴するためにある。 マイロにお礼を言い、次なる目的地を目指した。
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Kenichiro Tanaka
2004年にACME Furnitureに入社。ヴィンテージ家具のリペア職人、バイヤー、商品開発担当を経て、現在はディレクターとしてブランド運営を行う。