WAGON’S PLACE

ドイツの片田舎で出会った現代版ヒッピー。

Contributed by anna magazine

Trip / 2017.11.15



友達のキャロラインに会うために向かった初めてのドイツ。首都フランクフルトから3時間のゲッティンゲンという街のホームにひとり降り立った。キャロラインが迎えに来るはずだったのだけれど、そこに現れたのはフィリップという知らない男の子。キャロラインの用事が終わるまで家で待つように言われた。そんな旅の始まりだった。

「サーカスみたいな場所に住んでいるんだ」と緊張している私に向かって彼は言った。

そんな彼の背中を追いかけてずんずんと歩いて行く。川沿いの道を歩き、草むらをかき分けて坂道を上りきると急に視界が開けた。そこは草むらの中の広場みたいな場所で、カラフルなペイントを施したキャンピングカーがいくつも輪を描く様に並んでいた。よく見るとキャンピングカーだと思っていた物は、列車の車両で、なかにはワゴン車のパトカーもあった。



彼らはここをスクワットしているらしい。“スクワット”という言葉は不法占拠の事だと雑誌で読んで知っていた。けれどスクワットとは廃墟を不法占拠する事だと思っていて、まさか野原の中でスクワットしているとは思わなかった。

彼らは18人でそこに暮らしていた。今は新しい場所をスクワットはできないのだけれど、80年代にスクワットされた場所は国も認めていて、それを受け継いで住んでいるという。個人の部屋となっている車両の中心には大きなテーブルがあり、みんなのダイニングテーブルの役割も果たしている。映画をプロジェクターで観るテントは小さな移動映画館のよう。電気も水もガスも通っていないので、電気は太陽電池でジェネレーターに貯めている。そのため、昨夜の映画会の電気が足りなくなってエンディングが観れなかったと言っていた。キッチンも二部屋。ひとつは普通のキッチン、もうひとつはベジタリアン用と分かれていて、みんなで食料を買う。水は近所の共同墓地の水道に汲みに行く。説明を聞いていると、後ろでは薪割りが始まった。まるで毎日がキャンプ。そしてフィリップが言ったようにサーカスのキャンプサイトみたいな場所。そこに居るだけでなんだかワクワクした。



興味津々でその広場を見学しているうちに、ようやくキャロラインが迎えに来てくれた。

久しぶりの再会。彼女もここがお気に入りの場所で、ワゴンがたくさんある場所という事で“ワゴンズプレイス”と呼んでいた。ヒッピー精神が大好きな彼女もここに住みたいのだけれど、厳格な両親がヒッピーみたいな生活は許さないという事で彼女は街中の小さなアパートをほかの女の子とシェアしていた。

私たちは毎日のようにワゴンズプレイスに通った。日曜日はここでランチをする事になり、みんなで食べ物を持ち寄った。家ご飯というよりは、まさにピクニック。そう、毎日がピクニックなのだ。ドイツの黒くて酸味の効いたひまわりの種が周りに付いているパンに、野菜、スプレッド、ジャムをはさむ。青空の下のランチ。小さな赤ちゃんを連れている若い夫婦も住んでいる事を知った。そういえば、お風呂がない。どうしているのかと聞いてみたら、夏はビニールプールに水を溜めて水浴びをしていると言われて驚いた。

「楽しいだけじゃないんだよ。夏はいいんだけどね、冬は寒いから大変だよ。ストーブのある部屋にみんなで集まって暖をとったり。まぁそれはそれで楽しんじゃうけどね。でもリッチな生活はいらないんだ。必要最低限の物があれば十分。だからこそ自由でいられる。」彼らは口々にそう語った。

数日後の夜、キャロラインとワゴンズプレイスのみんなはコンサートに行くと言った。パンクやハードコアのコンサートらしい。私は少し疲れていたのでひとり残る事にした。そこで、ワゴンに住んでいるイラン人のザラという女の子が、自分の部屋に泊まるといいと提案してくれた。彼女はペルシャ語とドイツ語は話せるけれど、英語はほとんどと言っていいほど話せなかったけれど、会ってすぐになぜだか心が通じた気がした。身振り手振りで会話をする。同い年だという事がわかる。ドイツ人のみんなはどうやって私達が会話をしているのか検討がつかないと首を傾げたが、私は彼女の家に一晩お世話になる事にした。



ザラの家、というか廃車になった列車の中はとても綺麗にリノベーションされ、掃除も行き届いていた。床も綺麗に木が張られ、大きなストーブがあり、ロフトが作られていてその上にベッドがあった。ここがドイツだと忘れてしまうような乾いた砂漠の国の民族音楽が流れていた。窓にはかわいい女の子の写真。3才になる彼女の子どもだと言っていた。“アラーの神を信じていない”と言っただけで、国を追われたという。

「子供は祖国にいる。国には家族親戚合わせると200人はいて、そのうち半分の人たちはアラーを信じていないけれど、言ったら殺されるから。でも、神はひとつじゃないでしょ? 私は自分のハートを信じる方が大切だと思う。」彼女は英語の単語を並べながら、強い意志をもった吸い込まれそうな眼でじっと見つめ、一生懸命気持ちを伝えてくれた。その夜私たちは同じベッドで姉妹や幼なじみみたいに並んで眠りについた。

数日後、私とキャロラインは旅に出た。そこからワゴンズプレイスにハガキを出そうという話になったのだけれど、そういえば、あんな野原に住所があるのかと疑問がわいた。「もちろん住所はあるよ! 当たり前でしょ!」と住所がない場所がこの世にあるの?とでも言わんばかりに笑われた。だって野原だし……と思いつつ、そんなドイツの自由さに驚かされた。彼らも一生ワゴンで過ごすわけにもいかず、人が出て行っては、また新たな人が入ってくる。ワゴンズプレイスは自由を絵に描いたような場所に感じられた。それでも時が経って、それぞれの生活が変化し、そこを出なくては行けなくなった時、みんな大人になるのかな、なんて思って少し切なくなった。そして、あの場所で過ごしている人たちのことや、ザラのことを思って、私たちは旅先からハガキにメッセージを書いた。■

写真・文:田尾 沙織

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