FillIn The Gap #13
ドタバタあめりか縦横断
旅の終わり
Contributed by Haruki Takakura
Trip / 2022.12.09
この春ファッションの世界に飛び込んだHaruki Takakuraさんが、世界との距離を正しく知るために、デンマーク・コペンハーゲンで過ごした小さくて特別な「スキマ時間」の回想記。
#13
スカイスクレイパーをすり抜ける
ニューヨークに着くなり、僕たちはとうとう約3週間を共に過ごしたRVに別れを告げる。間違いなくRV車中でアメスクメンバーとはしゃぎまくった日々が、この旅を数十倍にも楽しくしてくれた。
「くっそお世話になりましたあああああ!!!」
これだけはしておかなくてはいけない儀式である。
3週間を共にした仲間とのお別れもあり、少し放心状態だったアメスク一行。。。
だったはずが、気づけば皆、宿泊するハウスに備え付けてあった1/2サイズのビリヤードに明け暮れていた。
翌朝、僕たちは 9 時頃にニューヨーク市内へと出た。タイムズスクエア42st駅まで地下鉄で向かった。
観光客の僕たちは、川に流される落ち葉のように人混みに押し出され、すぐ近くにあるカフェの方まで流された。そして、そのままカフェ内へと逃げ込む。
外の喧騒をよそ目にカフェの中はとてもアットホームな空気が漂っていた。みな揃って、前の人が頼んだのにならってベーグルとホットコーヒーを頼む。朝食のほんの数分間で、今日のプランを練った。結局、僕たちは2つのチームに分かれ、夕方にタイムズスクエアで集合することだけを決めて、各チームそれぞれの一日をはじめることになった。
僕はというと、ブルックリンやソーホー地区を自転車で巡る組に。もう一組は、マンハッタンを中心に自由の女神やハドソンヤーヅなどニューヨークの色々な建物を周るとのこと。
一言にニューヨークと言えどかなり広範囲に渡るので、時間が限られた滞在ではチームの中でも趣味趣向が分かれた。せっかく一緒に来たのにとも思うが、それもこのチームの面白さの表れだと思う。むしろ2チームに収まったのが奇跡なのかもしれない。
早速、街中にあるレンタサイクルのアプリに登録してサイクルステーションを探す。
ニューヨークの街中には自転車専用の通路があるため、乗り捨てスタイルで街中を巡ることができる。
自転車を手に入れた僕たちは、早速マンハッタンから南下してソーホー地区へと向かった。スニーカー好きなメンバーがいたので、道中のスニーカー・ファイトクラブやあらゆるかっこいいスニーカーが目にとまる店に寄り道をしていく。
こういう時、簡単にストップ&ゴーができるのはチャリンコライダーの特権である。
ある程度のスニーカー巡りに満足すると、さらに東の方向に位置するブルックリン地区へと自転車を漕ぎ進める。マンハッタンからブルックリン地区に向かうには、二つの地区を隔てるイースト川を渡らなければいけない。僕たちは、いくつかある橋からウィリアムスバーグ橋を選んだ。本当はブルックリン橋を渡りたかったのだが、一分一秒が惜しかったのでこの橋を選んだ。
橋を渡るとそこにはマンハッタンの騒々しさとは反対の閑散とした空気が漂っていた。それは、おそらく橋をまたいで一気に変わった建物の雰囲気が原因だろう。
橋の西側に位置するソーホー付近にはスカイスクレイパーやイケてるニューブランドがひしめき合っているのに対して、東側には倉庫をリノベーションした建物や古めかしい古着屋などが集結している。
新陳代謝が激しく、見た目に派手なビジュアルを持つ橋の西側。それに対して、かつて倉庫街や工業地帯だったという背景も相まって、土地柄が反映された旧ニューヨークスタイルを感じることができる東側。
慌ただしいマンハッタンを自転車クルーズした後だったので、この対比がより身に染みたような気がした。あくまでたった1日、自転車でニューヨークを回り続けたひよっこニューヨーカーの感想であるが、僕の目にはそう映った。
この対比は、自転車というそこそこ広範囲かつスポット的に景色を見ることができるツールならではの気づきかもしれない。良し悪しという文脈では語ることができない最高の移動ツールである。
橋の向こう側
The mending co, Rugged roadなど、橋付近の古着屋をいくつか訪れる。年季の入った建物にミリタリーやカレッジスタイルのスウェットが積まれた店内に心が踊る。値段も日本で見るビンテージなんかよりもずいぶん安かったと記憶している。だがしかし、旅にほぼ全財産をつぎ込んだ僕にそれらを手にする余裕はない。
ただただ、古着屋特有のどことなく甘い匂いを深く吸い込むという変な楽しみ方をした。
今となれば、僕のように制服がない仕事をしている人間にとって、ビンテージのつなぎやオーバーオールを最高の制服代わりにできたんじゃないかとも思う。制服探しとお酒に関する後悔は、次回の旅をより楽しむための宿題である。
一日中ガタガタの石畳を走り抜け、新旧交わる様々な店巡りをしたチャリンコライダーたちは、疲れ知らずのうちにあっという間に約束の夕方を迎えた。だが、待ち合わせをするアメスクの片割れたちが待つタイムズスクエアに戻らなければ行けないと思った途端、急に足が重たくなる。
それでも、みんな急いだ気持ちで自転車を漕ぎ続ける。
せわしく過ぎたアメリカでの一ヶ月間は本当にあっという間だった。中盤ではあんなにも長く感じた一日の長さが、今ではその半分ほどに感じる。
あと一踏ん張りのサインであるウィリアムズバーグ橋に辿り着いた頃には、相当足に疲れが溜まっていた。だがこれから最後の楽しい夜がまっている、そう思うと元気が湧いてくる。
これまでに通り抜けてきた街を思い出しながら、残り少しの縦横断旅を噛み締める。
残りの力を振り絞りながら傾斜10°ほどの坂を猛ダッシュで漕ぐメンバーたちの背中越しに、僕はこの旅で一番きれいな夕陽を見た。
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Haruki Takakura
1999年大阪生まれ。ロックダウン中に経験したコペンハーゲンでの休学ライフなど、隙間期間に目を向けた「FillIn The Gap」をContainerにて連載中。ビールが好きで好きでたまりません、なのに、お酒に弱い。