Couch Surfing Club -西海岸ロードトリップ編- #54
I miss Oregon
Contributed by Yui Horiuchi
Trip / 2023.08.10
#54
行きに見逃していたユージーンに差しかかった。
昔、従兄弟たち家族が住んでいた街だ。
帰りの道中は寝ないで目を見開いて凝視しておいた、証拠写真がこれ。笑
他にもたくさん看板はあったのだけど、思わずこの歯医者の広告に目が行った。
なぜかというと、隣の運転席に座っている友人の実家に飾ってあった幼少期の頃の友人の写真にそっくりだったから、歯が抜けているところまで。笑
いつも私が写真を撮りまくるのに慣れているのか特段気にかけている様子もなかったけど、実はそういう理由があってのチョイス。
そのまま南下しユージーンの街の外れまでやってきて、友人の父行きつけだというゴルフショップに途中下車。
すぐに済むと言っていたので、友人が新しいゴルフクラブを探している間わたしは衣類コーナーで地元のカレッジフットボールの応援アイテムを物色していた。
ようやく靴下を見つけて精算していると店内のどこかにいるはずの友人が見当たらないので、一旦駐車場に戻ってみたが、車内の犬と一緒に車もロックがかかったまま停車中。
仕方がないのでもう一度店内に戻りエントランスで待っていると入れ違いで出てくるとこだったおばさま達が
「見て、彼女みたいにスタイルがよかったら絶対似合うわよ(Look, she’s in shape, that must be look good on her)」
と、通り過ぎざまわたしの身体のフォルムになぞるように両手を上下させるジェスチャーでおしゃべりをしながらウインクをして出て行った。
わたしも脈絡なく、なんのことについて彼女達が会話していたのか分からず笑顔でドアを押さえているに留まってしまったが、きっと買おうと思ってたウェアを試着したら似合わなかったとか、かな?
なんて、そういう想像をするしかなかった。笑
ただ、向こうの人が言う”in shape”というのが、わたしにとっては最上級の褒め言葉だったので、ニヤニヤが止まらない。
この場合の“スタイルがいい“は身長が高く足が長いっていう意味よりは、ある程度鍛えられている健康体のようなイメージ。
同じような表現で、健康的な体型を表す英語では「She's fit(彼女は健康的な体型)」とか、「athletic(引き締まってる)」、「toned legs(引き締まった脚)」とかとか言ってもらえると非常に嬉しい、ワークアウトも頑張れちゃう。笑
なんでこういう言葉のチョイスが嬉しいかと言うと、日本では今でも『太りすぎだ』『痩せる気ないの?』『おっきくなったねー』など日常的にネガティブなワードで容姿を形容されることが多いわたしの背景がある。
(ここにプラスして、ブロンドショートだと『髪伸ばした方が絶対かわいいよ』『なんで髪黒くしないの?』が追加される)
さすがに卑下されていることと悪気なく心配して言ってることの境目は容易に気付く。けど、自分のことは自分が一番分かっていて、日本女性の平均値を押し付けられても、肌のコンディションや身体的な機能、血液検査の結果ではわたしはまず同年代に優っている点の方が多いという実感がある。
だからってそれを引き合いに出して、相手の方が劣っていると弱点を見つけ出して指摘しようとしてるわけじゃない。
ただ、申し分ない健康体なのにケチをつけられてるようで、画一的な美の基準を誰も彼も当てはめないで欲しいと思っていた。
サイズを基準に、人々について想像を勝手に巡らすボディ・シェイミング(体型批判)が組織や団体に帰属しがちなアジアは個人を尊重せず、このようなことが起こりがちのように思う。
個人的に、今どう見られるか、よりも、どう歳を重ねたいか、っていう視点で自分と対峙していることも周囲は気づかないだろう、だって“今”の評価を気にしすぎてるから。
他人と違うことが個性っていうエピソードは以前にも触れたけど、人と違うことがユニークで“あなたはあなた、わたしはわたし”っていう、概念が未だに日本に広く浸透していないことに辟易とすることも多々ある。
ここでマイナス面の話をほじくり出てしまって、わたしも申し訳ないけど、現に、先進国の中で子ども達の自己肯定率の低さ、精神的な幸福度がワースト2位、自殺率1位の日本の現実が浮き彫りになったのは、私たちを取り巻く“〇〇であるべき、それ以外は異質”的な環境に順応しすぎた結果であることは否めない。
みんながみんなに納得してもらう必要性を感じなくて良いんだよ、っていう自分が居心地よくいれるマインドを形成するのが難しいのが日本の教育の欠点かも。
おばさま達の発言に起因して、ずいぶん尺を取ってしまったけど、男女構わず同じ容姿に関した発言でもいい、側面を見てポジティブワードで形容してみて欲しい、わざわざ発言するのだから言い換えで人を傷付けない方が誰だって良いのでは。
話をゴルフショップに戻そう。
しばらく経っても友人が現れないでいるので、ゴルフクラブ売り場にいたスタッフに声をかけた。
「あの、すいません、さっきまでここに赤毛で髭面の男性がクラブを探してたと思うんですけど……」
「ああ!彼なら試し打ちスペースにいますよ!」
と、ここでも唯一無二な友人の風貌がとっても特徴的なので助かった。
指さされた方向に、半屋外へとつながるアルミの扉が目に入った。
ドアを開けてみるとそこで数本のクラブを試し打ちしながら吟味していた友人がいた。
ホッとして、
「見失ったかと思ったよ!」
「ごめん!つい熱中しちゃって!でもようやくこれっていうクラブ見つけちゃった、しかもここめっちゃ安いんだよ、実家から近すぎて盲点だった」
選りすぐりの一本を手にレジに向かった友人。
会計を済ませ、車に戻る間店先であったおばさま達との出来事を話したら、友人は笑って
「よかったじゃん、体調壊して筋トレできてなかったから気にしてたもんね」
そうそう、こういうリアクション。
セルフエスティームが自然と上がって自分をさらに好きになれた。
(余談だけど、嫌なことがあったらドラッグに逃げるっていう手があるという違いも大きい。日本の友人から聞いた話では、国民の幸福度指数の高い国ほどドラッグユーザーも比例して非常に高いという背景があると言っていた。そのことによる、副作用ももちろんあるので単純にストレスフリーに生きることの難しさは感じてしまうだろう)
犬の散歩にAlton Baker Parkへと立ち寄る。
着いてすぐ鴨が日陰に涼んでいた様子が目に入った。
それぐらい今日は晴天に恵まれて散歩日和だったので、公園に立ち寄れたことはわたしも嬉しい。
こちらの公園もオレゴン州西部を縦断するウィラメット川に面していて、犬の水飲み+散歩スポットとして実家訪問の往復でよく立ち寄っているそうだ。
行きには寄らずに来たわたしにとっては新鮮。
友人と川はいつでもある一定の方角(方位)に向かって流れているっていう話題になった。
またこうした日常の問いかけで、あ、自分が知らないだけで自分の中にあった固定観念に偏りがあって一瞬で容易に覆されることになる。と気付かされる。
「川は勾配に従って高いところから低いところに向かって流れるものだとしか思ってなかった。島だったら川は東西南北あらゆる海へと面するもので、川の流れに方位なんて関係ないでしょ?」
「もちろん末端の海へと通ずるところはそうだよ、でも大きな主流で見ると確かある決まった方角へと地球上の川は流れていたはず、半球によって条件は反転するかもしれないけど」
「まじか、考えもしたことなかったよ、自然のデザインってすごいね」
『なんじゃそりゃ!!!!』
これがわたしの内心、格好は両手を逆ハの字にして困ったポーズ。
犬は友人に諭されるまま川の水飲み場で喉を潤していて、わたしの脳内の『???』なんてお構い無しだ。
川べりから流れてくる涼風に吹かれて、親子連れやカップル、友人とのお散歩やピクニック、ジョギングにと駐車場代もかからない公園が地域にあってユージーン住民は羨ましい限り。
公園内にはパブリックアートもたくさん。写真に写っているのはその一部。
いつかユージーンにもゆっくり滞在してみたいと思った。
公園を後にしたところで、バーの看板が目に入った。
「お誕生日おめでとうダン〜!」
とわたしが言っていると友人が
「え?ああ、あの看板か!HBDってハッピーバースデーか」
「えっと、バースデーじゃなかったらなんだと思った?」
「How Bout Dat(How About That), go go congrats Danだと思った」
「それって『すごえ!でかした!イケイケ!ダン』だけど何がって感じじゃんそれ 笑」
「まあ確かに」
HBDが“Happy BirthDay”以外に変換できるなんてさすがネイティブ。笑
オレゴンでの最終タスク、州境を越える直前に〇〇のコストコで買い出しに向かう。
消費税のかからない州でアップル製品を買うというお使いだ。
無事アップルタグを購入。
国際線での預け荷物の紛失がたて続いていて、この秋に入れ違いで出国するヨーロッパツアーを控えていた友人のリクエストだ。
当日のレートが$1=145円だったので、合計約13,015円。
日本国内で正規品を買ったら19,120円するようだったので、6100円くらいお安いみたい。
友人からメッセージで『ユイちゃん日本でエアタグ売る商売すれば?』と連絡が入り、笑ってしまった。
一同いざカリフォルニアへ帰郷!といったところで想定外の渋滞が。
何かと思えば、例の鉄道に貨物列車が走行中。
分割して本数を走らせることをしないようだ。
空のカーゴをたくさん、先頭車も最後尾も見えないくらいの長蛇の列車が遮断機が降りた踏切の中をガタゴト進んでいた。
しばらく待ちぼうけ、と思って犬の様子を伺おうと後ろを振り返るとこの満面の笑み。
もうしばらく待っていても大丈夫そう。笑
無事に列車の通過も見届けて、行きに立ち寄ったお肉屋さんにも今回のオレゴン州へのロードトリップのエンディングの地として選んだ。
行きにあまり店内の様子を撮影できなかったのでここで紹介したい。
入店して、動線に従って右手に続くコの字型の通路は左右を冷蔵庫で囲われたお肉ダンジョン。
曲がったとこにある冷蔵庫には、このまん丸なハム。見た目の破壊力がほんとにすごい。笑
特にバターのパッケージが、銀のホイルに印字しただけのものと比べて可愛いかった。
ビーバーズのアイスクリームも発見!
チョコレートファッジピーナッツバター味。
絶対美味しいよね、フレーバーがちゃんとチームカラーのオレンジとブラックのミックスになってて感心。
柱にかかっていた写真はテイラー家5世代に渡る仕事場での様子。
しばらくここの味の伝承はされそうで安心だ。
店内のイートインスペースもこの充実ぶり。
左下に少し写っている赤いチップスの袋がこの旅で出会ってしまった最愛のお菓子、POPCORNERSのSWEET&SALTY。
程よい甘さとしょっぱさの塩梅で、一度袋を開けたら最後、完食せずにはいられない。笑
帰り道ジャーキーにかじりつきながら、カリフォルニア州最北の州デルノルト郡へと到着。
カリフォルニア州に入境した瞬間、友人が一言。
「I miss Oregon」
「もう!?」
でも分からなくもない。
きっといい滞在をした証しだろう。
霧が重く、断崖絶壁のハイウェイは土砂崩れの影響で交通整備がしかれていた。
道幅が狭くなってるため一時的に車が詰まっていたが、ここを抜ければもうすぐで友人の家だ。
わたしも心の中で「アイ・ミス・オレゴン」と呟いた。
ー
余談:
実は旅の途中から車内がなんだかエビくさいなあと思ってたわたし。笑
帰宅して事の顛末が明らかになった。
後部座席に置いておいた冷凍の海鮮ミックスが5時間の長旅で解凍され、座席シートはまさにエビ出汁染み込む塩水(+磯臭)の溜まり場と化していた。
解凍は進むだろうと思っていたので念のために銀色の保冷袋越しに生活防水のエコバッグに入れておいたものの、5時間びしょ濡れ状態に晒された袋はおそらく使い回しすぎてくたびれてしまっていたのだろう。
そんなことに気も付かず大量の冷食を詰め込まれた保冷袋には穴が空き、数時間に渡って液体をホールドしていた生活防水付きのエコバックという砦も虚しく、座席のシートがずぶ濡れになってしまったのだ。
後部座席から買い物袋を全て取り出し、急いでキッチンに持って行った。
外袋もエコバックもエビ臭く、取り急ぎ全部洗ってしまおうとシンクに突っ込む。
乾いたタオルを持って車内に戻り、叩きつけるように水分を取り除いた。
その後、消臭剤、熱湯、ベーキングソーダ、食器用洗剤、臭いと水分が取れそうなものを全て試したが、まだ手強いエビ臭。
もう家にあるものでは手の打ちようがないと判断し、その日は潔く諦め、エビの匂い消しに有効そうなアイテムをググってから翌朝に再度取り掛かることにした。
念のため夜の間、窓は開けて車を停めておく。
疲れ果てて屋内に戻ってきた時、友人がピザ箱を振って耳を寄せて音をきいていた。
「どうしたの?」
「まだピザ残ってないかなと思って」
「あ、ごめんわたしが全部食べちゃった」
旅の最後のハプニングで疲れ果てたわたし達であった。
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Yui Horiuchi
東京を拠点に活動するアーティスト。幼少期をワシントンD.C.で過ごし、現在は雑誌のイラストや大型作品まで幅広く手掛ける。2015年に発表した「FROM BEHIND」は代表作。自然の中にある女性の後ろ姿を水彩画で描いた。自然に存在する美や豊かな色彩を主題にする彼女の作品は海外でも評価されている。