Mis Pato aventuras #1
Beginning
Contributed by Ayaka Suita
Trip / 2024.01.05
#1
空気に砂が混じって、しょっぱく感じる。
信号が青になるのを待っていると隣のおばあちゃんがこう言った。
「あなたのTシャツ、どこで買ったの? かわいいじゃない! 私も欲しいわ。」
そのおばあちゃんはスターウォーズのTシャツに、
手には肉汁が溢れたタコスを持ってツバを飛ばしながら私に話しかけてきた。
信号はすぐ青になって、おばあちゃんは人混みに消えていった。
なまぬるい空気に油が混じった匂いが、今私はメキシコにいるのだと実感させる。
数日前にパートナーの都合でメキシコに住むことになった。
メキシコに来るなんて、1年前は想像もしていなかった。
しかし、もともと海外生活は好きで、カナダやアメリカ、ベトナムには住んだことも。
ヒッピーに憧れて、カナダでサーフィンをしながら車中生活をしたりもした。
アメリカ西部をロードトリップしたときもあった。
昔からあまのじゃくで社会を否定的に見ては、はみ出した生活を好んだ。
世の中にはいろんなコミュニティがある。
サラリーマンとか、経営者とか、ヒッピーとか、ホームレスとか。
当時は、なるべくいろんなコミュニティに関わって
自分にない価値観を吸収することが生きるエネルギーだった。
日本人だとか、どんな仕事をしているだとか、性別とか
どんなことに対しても「線や枠」をひきたくなかったし、それは今でも心がけている大切なこと。
いろんな生き方や価値観を知って、自分にしかできない生き方を探したかった。
誰かに決めつけられるのが嫌で、
自分の幸せってなんだろう? という答えも自分で探したかったのだと思う。
でも、30歳を過ぎた今でもよく分からない。
本当の幸せとか、やりたいこととか、自分のこととか。
おそらく、この問いは簡単には見つけられないもので
なんなら、死ぬときに あれだったのか と気づくものなのかもしれないと最近は思う。
そんなことをずっと考えながら
時には考えることを諦めたりもして日々を過ごしていたときに
メキシコと出会った。
メキシコに来て、1週間が経ったある日
仕事も知り合いもいない状態で少し寂しさと孤独みたいなものを感じ
その孤独感によってメキシコでの自分の存在意義を考えさせられた。
今までのキャリアや経験がさほど意味をなさないこの土地に放り出された今
誰もいない高原にひとりぽつんと立たされた気分だった。
「これからどう生きていこう」
この時はまだ
これから自分の運命を変える出逢いや奇跡が起きるなんて想像すらしていなかった。
【つづく】
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Ayaka Suita
1991年生まれ奈良県出身。メキシコオアハカ在住。オアハカ先住民の色彩感覚に魅了され、現在民族とインテリアブランドづくりに奮闘中。先住民が作ったチョコシェイクが大好物。