What is New New Thailand? #2

About COFFEE

Text:Taku Takemura

Trip / 2020.03.27

2019年12月にトゥーヴァージンズより出版された「New New Thailand 僕が好きなタイランド」。本書はアメリカのストリート・カルチャーに精通する竹村卓さんが見た、タイの「いま」を切り取ったカルチャー・ガイドです。

かつて多くのバックパッカーたちを魅了していたタイは、私たちの想像以上に面白いカルチャーが溢れている。そんなタイの”新しい”魅力を、全5回の連載でお届けします。

#2

「New New Thailand 僕が好きなタイランド」の本編の第一章はコーヒーの話。タイのコーヒーに興味を持ったことが本を作るきっかけになった。僕にそのコーヒーのことを教えてくれたのが、バンコクにあるカフェ「CASA LAPIN」のオーナー、タンタだった。彼との出会いは、実は2013年に出版された「anna magazine」第一号目の取材で彼のカフェを訪れた時。





その前年チェンマイへ行ったとき、コーヒー豆やエスプレッソマシーン、ハンドドリップなどコーヒーの淹れ方にまで徹底的にこだわったカフェ「Rist8to」を初めて訪れ、当時のタイ、しかもチェンマイでここまでコーヒーにこだわったカフェがあることにとても驚いた。それまでタイで飲むコーヒーと言えば、オーリアンという甘い練乳の入った濃いコーヒーだったから。その後、東京でカフェに入るとバンコクから来たというタイのお客さんがいて、「Rist8to」の話をした。連絡先を交換し、次回バンコクでその人お気に入りのカフェに連れて行ってもらうという約束をした。そして「anna magazine」の取材でバンコクを訪れた際、東京で知り合った彼と連絡を取り、連れて行ってくれたのが「CASA LAPIN」だった。バンコクのトンローというエリアは小さなデザイン事務所やフリーランスで働く人が多いエリア。大通りから迷路のような路地をバイクタクシーでくねくねと走る。この道は絶対に覚えられないな、と思っているととうとう行き止まりに突き当たった。「ここだよ」といわれてバイクを降りると看板もないひっそりとたたずむ小さな建物が「CASA LAPIN」だった。どこへ行っても雑音が聞こえ、人々が行き交うのがバンコクだと思っていたから、街の真ん中にこんな場所があったなんて、なんだかとても特別なところに連れてきてもらったような気がした。そこで初めて出会ったタンタ。この店は少し前にオープンさせた2号店だという。彼とはコーヒーの話から、前職の建築家だった頃の話、東京のことなどいろいろと話すことができた。翌日に急遽「anna magazine」の取材をさせてもらえることになった。異国の地でこうして出会える旅はうれしい。次の日に取材をさせてもらい、当時まだ営業していた「CASA LAPIN」の1号店にも案内してくれた。





そこはトンローの大通りに面した古い雑居ビルの一階。中に入ると、小さなギャラリーや誰かのアトリエ、手作りで作ったものを売っている店などが入ったビルの廊下にコンクリートのブロックを積み重ねて作った小さなカウンターがある。カウンターにかけられた布を取ると、手動式のエスプレッソマシーンやドリッパーが現れた。「ここが1号店だよ」とタンタ。彼がいるときにだけオープンするこのカフェ。それを知ってか、常連っぽいお客さんや友人たちが入れ替わり立ち替わり彼の淹れるコーヒーを求めてやってきた。飾り気のないミニマルな雰囲気としっかりとコミュニティの交わる場所になっている感じがとても良かった。取材をするために英語のわかる通訳を探していることを伝えると、コーヒーを飲んでいるお客さんたちみんなで候補をリストアップしてくれて、あっという間に手伝ってくれそうな人を見つけてくれた。









それから僕はバンコクを訪れると、行動の起点が「CASA LAPIN」となった。次に訪れると店には焙煎機が導入されている。どうやら焙煎も始めたようだ。その時に北タイでコーヒー豆が採れることを教えてくれた。その豆に適した焙煎方法を研究しているタンタ。ふたつの豆を差し出してこう説明してくれた。「同じ豆、同じ焙煎。だけれどこのふたつの豆は生豆にするプロセスが違っていてひとつはでウォッシュド、もうひとつがハニーなんだ」僕はまったくその意味がわからず、ふたつのコーヒーを飲んでみると味が違うことに驚いた。収穫した果実を水で洗い、実を剥がす。そうすると豆の表面にヌルヌルとした膜のようなものが残る。時間をおいてもう一度水洗いをしてそのぬめりを取り、豆にしてから乾燥させる方法がウォッシュド。ヌルヌルをのこしたまま乾燥させた豆がハニーだと説明してくれた。そのほかに実がついたまま乾燥させ、パリパリになった状態で実を剥がし生豆にした物をナチュラルプロセスと呼ぶ。その方法の違いでこんなにコーヒーの味が変わるんだ。面白い! タンタは、その時すでに北タイにあるコーヒー農園に通って、自分の焙煎やコーヒーに合った豆を農園の人と一緒に勉強していた。その頃、アメリカや日本でも豆の原産地や淹れ方にこだわったコーヒースタンドやカフェが注目され、美味しいコーヒーが飲めるようになった。でもタイではさらにコーヒー豆を栽培するところにまで携わることができるなんて日本やアメリカではなかなかできない。コーヒー豆の栽培、プロセス、焙煎、そしてカップに注がれた一杯のコーヒー。そしてそんなコーヒーを飲ませる空間作りまで。日本ではすべてのことを1人の手でやることはとても難しいけれど、ここタイではそれが可能だ。コーヒーの歴史は他の国に比べたら浅いけれど、これから未来を考えるととても夢があるなと思った。





タンタのまわりにもコーヒー作りに熱心な若者たちがたくさんいて、当たり前のように北タイの農園へ通っていると言う。それを知った僕も北タイのコーヒー農園を訪れたくて、タンタに農園を紹介してもらえることになった。ひとつはアカ族の家族が営む「Akha Ama Coffee」、もうひとつはバンコクで政府の仕事をしていたワンさんが経営する「Nine One Coffee」を紹介してもらい農園を訪れた。北タイでのコーヒーの歴史と今、そしてさらに思ってもいなかったストーリーまでも聞くことができた。「New New Thailand」の旅はこうしてスタートした。コーヒーがきっかけで旅は始まったが、実際にその地を訪れ、人と出会うことでさらに新しいストーリーにも出会えた。コーヒーの章ではコーヒーとさらに旅をしなけれは知ることができなかった話も紹介している。

次回はタイのスケートボードについて。タイを代表するスケートブランド「Preduce」やそのほかスケートボードを愛する人たちの話を紹介したい。

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NEW NEW THAILAND 僕が好きなタイランド
Amazon:https://www.amazon.co.jp/NEW-THAILAND-僕が好きなタイランド-竹村-卓/dp/4908406251/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=カタカナ&keywords=new+new+thailand&qid=1583140648&sr=8-1

協力:タイ国政府観光庁 公式サイトAmazing Thailand

https://www.thailandtravel.or.jp

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