ドタバタあめりか縦横断 ~Welcome To BAGDAD~

FillIn The Gap #4

ドタバタあめりか縦横断 ~Welcome To BAGDAD~

Contributed by Haruki Takakura

Trip / 2022.06.24

「これからどこまで自分の世界を広げられるだろうか」
この春ファッションの世界に飛び込んだHaruki Takakuraさんが、世界との距離を正しく知るために、デンマーク・コペンハーゲンで過ごした小さくて特別な「スキマ時間」の回想記。


#4



Welcome To BAGDAD
時を「イマ」に戻す。現在、2022年6月。

新天地に飛び込んではやくも2ヶ月が経つ。ようやく研修が終わり、実践に移れる喜びに耽る友人からのメッセージが、夏のミツバチみたく激増している。ミツバチの女王蜂は、そこそこに巣が出来上がると、半分ほどの仲間を連れて次の巣を作りに行くそうだ。女王蜂が仲間と共に新天地を探す様は、新入社員たちが必死に自分の居場所を築こうとする様に似ているのかも知れない。

さあ今日は、アメリカ横断中にバグダッドカフェ(BAGDAD CAFE)で出会ったイケおじについて綴ろうと思う。

ゆうに日本のマイクロバスを超えるサイズのキャンピングカーとの出会いが、ロス市内でのこと。およそ30フィートものキャンピングカーは、現地ではRVと呼ばれている。僕たちは、脳内の危険度センサーを無理やり押し下げた上で、この巨大RVの運転を始めた。普通は危険度センサーを上げなければいけないのだろうが、そんなことしていては20〜30km/hで走る羽目になってしまう。
途中、危険度センサーを下げすぎたメンバーがマクドナルドの高さ制限バーを破壊しそうになったり、高速道路出口の急カーブを爆速で駆け抜けようとしたせいで横転しそうになったりしたが、そこはご愛嬌ということにしておこう。


ともかく、そんな巨大なRVをロス市内で借りた一行は、アメリカ西地区ではほとんどが無料の高速道路を使い、旧ルート66へと向かった。

ルート66とは、1926年に創設された国道であり、南西のロサンジェルスと北東シカゴの距離を200マイルも短縮したとして凄まじい人気を得た。「旧」という言葉を使ったのは、現在ではルート66は廃線となっており、現存の全く関係ない66号線との混在を避けるためである。



そんな旧ルート66に向かった目的は2つあった。それは、この有名なマークを見ること。それから、映画にもなったバグダッドカフェで名ばかりの休憩をするためであった。

ロス近郊を抜け、だだっ広い荒野をただひたすら走ること約2時間。
我々、アメ横スクワッド(アメリカ横断チームをアメ横スクワッド、もしくはアメスクと呼んでいる)は、旧ルート66に到着した。サクッと、かのマークとの写真を撮り終えた僕たちは、次の目的地に向かう前に少しだけ、映画の舞台にもなったバグダッドカフェに立ち寄った。映画は見ていないのだが、ドイツ人旅行者である女性がバグダッドカフェに偶然行き着き、そこで出会う人々とストーリーを紡いでいくという内容で、日本でもミニシアターブームを引き起こした人気作だったそうだ。



僕らを迎え入れてくれたのは、身長190cm以上はあろう髭モジャイケおじ。
彼から漂うアメリカ歴うん十年っぽいオーラは、しっかり「あ、僕らは今アメリカにいるんだ」と思わせてくれる。



ほら、NIKEのスニーカーだって格好良く履きこなしている。

望んでもいない程のビッグサイズのコーラやらコーヒーやらがテーブルにサーブされ、髭モジャイケおじが暇になったのであろう、僕らに話しかけてきた。

イケおじ「どこから来たの?」
「日本です!」
イケおじ「何でまたこんな田舎に来たの?笑」
「映画にもなったって聞いたし、ルート66にも来たかったんですよ〜」
イケおじ「そっかー!ニコリ」
みたいな、たわいもない会話が行われる。

色々聞いてくれたので、僕たちも質問を返してみた。

「いつから、お店をしてらっしゃるんですか??」
イケおじ「わっかんないけど、古いんじゃない? 僕は、4ヶ月前からここで働き始めたばかりだからねえ」

「…ほえ??」

僕らはキョトンとした。てっきり、この店のマスターをうん十年続けているオーラを放っていたものだから、この返答に驚きを隠せなかったのだ。だが、ドリンクサーブのスピードを見ていると、納得がいく気もする。いや、それはこの広大な地で暮らす人間の性だろうか。

少しして、もしかすると、観光客に「今僕私たちはアメリカにいるんだ!!」と思わせる要員で採用されたのではないかとも思えてきた。
僕らは、彼が4ヶ月前に雇われたという件について、日本語で盛り上がり始める。あまりの「うん十年、マスターやってます」オーラを放っていたが故に皆の顔はキョトンだ。



だが今になって振り返ると、このイケおじも新天地に飛び込んだ女王蜂のような果敢さを持つ、正真正銘のイケおじだと気づく。
新しいことにチャレンジするのに年齢は関係ない。齢いくつであろうが、新天地に踏み込んで行くなんて最高じゃないか。

僕は大学在学中にギャップイヤーを取得したから、同期と比べると1年遅れていることになる。行きたい大学に行くために浪人した人、留年した人もいわゆるストレート組よりかは幾分かは遅れることになる。その他にも、転職で新天地に飛び込むなど、様々な世間一般の何かをする際の年齢とはずれている人もいるだろう。

だが、どの環境に飛び込むにしたって、年齢を重ねているというだけではできない理由にはならない。挑戦に年齢は関係ない。いつまでも、灯火が消えるまでは冬眠などしている暇はない。悩んでいる人がいるのならば、間違いなく僕は「共犯者」となり、背中を押し出す。
バグダッドカフェのイケおじは、僕らの帰り際にオーラでそう語っている気がした。
少し妄想癖のすぎる話な気はしているが、アメリカかぶれはここまで進行している。


オーラは、アメリカに来て感度が高くなっている僕たちのような人間を相手にする場合、非常に都合の良いものである。ただ、アメリカに来ている感を強めたのも彼であるとすると、彼の仕事っぷりは半端じゃない。
シンプルな仕事、ドリンクを作るとかはすんごく遅いのだけれども。

帰り際に、何人かのアメ横メンバーはパーカーやTシャツなどのお土産を買っていた。
「Thank you!」と気持ちの良い笑顔で送り出してくれた彼。
店を出て、レシートを見ながらしかめっ面になるメンバー。

どうした? と聞くと、チップをしこたま取られているとのこと。
仕事のできる人間だな〜彼は(笑)とつい、また笑顔にさせられる。

苦い思い出も、アメリカに来て感度が高くなっている僕らの前には塵に等しい。新天地に飛び込んだ自分にとってもそうだ。これからの恐怖よりも、したい事や直感に惹き寄せられるように道を選ぶ。とんだ真っ暗な隙間であっても、その道を切り開くために一歩踏み出す。


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