Couch Surfing Club -西海岸ロードトリップ編- #48
Swing by
Contributed by Yui Horiuchi
Trip / 2023.06.29
#48
リビングの時計はもうすぐ午前9時になるところ。
昨日のおさらいで今朝の朝食の目星は付けてある。
PDX滞在の最終日は重量級の朝ごはんでスタートしてみよう。
滞在先から車で6分、Cadillac Cafeとその名の通りパールピンクのキャデラックが正面を向いて鎮座したダイナーに到着。
今にも車内からエルヴィス・プレスリーが聴こえてきそうな佇まい。
案内されたボックスシートのクッションは柔らかくて、キャデラックの座席もこんな感じなのかもしれないね、とメニューを見ながら友人と話す。
座席の色はずんだ色とマスタードのバイカラー。
まるでエドワード・ホッパーの絵の中に紛れ込んだよう。
メニューに所狭しと並ぶブレックスファストの種類とアルファベットの波間をさまよっていると
「YUIポーチドエッグ好きだよね、メニューにエッグベネディクトあるよ、気づいた?」
「あ、ほんとだ! 見落としてた!」
2週間に及ぶ自宅軟禁中に一度ポーチドエッグを作っていたことを覚えていたようだ。
サイドにはフルーツ盛り合わせと生搾りオレンジジュースを頼むことにした。
料理が運ばれてくるまでの間、店内を見渡す。
おじいちゃんカップルや子供連れ家族にお一人様まで、長年の人気店なのが伺える。
人種のるつぼと呼ばれるアメリカを縮小したような何気ない日常の一コマ。
今回の旅の中で、自分の中にも拭いきれない偏見があることに気付き、ショックを受けることもあったけどノンバイアスでいることの再認識させられるような空間だった。
店内のあちこちで交わされる会話に耳を傾けているとウェイターがやってきて
「エッグベネディクトのお客様」
「わたしです!」
「プレートが熱くなってるので触らないように」
そう言われてテーブルに置いてあった手を下げる。
熱々のプレートの上でまだ蒸気をあげている大量のポテトと一緒にエッグベネディクトがオープンサンドの状態で二つ、目の前から眼下にある卓上へスローモーションで移動していく。
開いたイングリッシュマフィンの片割れにもしっかりもう一個エッグベネディクトが乗っかっている。
嬉しくってつい笑顔になってしまった。
完璧な火加減のポーチドエッグにナイフをスッと刺し入れる。
レモンイエローのビネガーソースに黄金の黄身がマグマみたいに溢れ出てバンズで一滴も無駄にしないようにぬぐい取りながらナイフとフォークでいただいた。
それを見ていた友人が
「ほんとに綺麗にご飯たべるよね、見てて気持ちいいよ」
と言う。
「いや、この量を完食できるのは珍しいと思うけど、とにかく美味しくてさ!」
どういうわけか、カットフルーツにはストロベリージャムがついてきていて
「これって何用にジャムもらったんだろ?」
「こういうことじゃん?」
と言って、ナイフで取ったジャムをいちごに塗って食べる友人。
一応食べてみたけど、あっまいイチゴと酸味の効いたフレッシュなイチゴの味がした。
つまりはどこまでもストロベリー味。
冗談か本気なのか分からないが、友人はサイドにエクストラでオーダーしたポテトがあまりにも多かったせいか炭水化物の波状攻撃に胃袋がおかしくなってた模様。
(このジャーナルを書いてる今でさえ『あの時ほんとにサイドにポテトなんて頼むんじゃなかった…人生最大の過ちだ』とずっと言い続けている 笑)
口直しに取っておいた生搾りオレンジジュースを食後に口いっぱい潤して飲み込んだ。
帰り際、満腹だったけど出入り口に置いてあったミントキャンディーはためらうことなく一つ口に入れ店を後にする。
Airbnbに戻り帰路に立つ準備をして荷物を車に積みこんでいるとPDX最終日が雲一つない青空になっていたことに気が付く。
ポートランド、というか、オレゴン、ワシントン州はほんとうに年間の降水量が多くて、8月の夏場が一番天気がいい時期だと言ってもやっぱり過言ではない。
そんな夏場でも朝晩は冷えこんで雨が降ることはなくとも曇っていることがほとんど、洗濯物はまず乾かない。
コーヴァリスへ戻る前にどうしても寄りたいところがあって、友人にNob Hillにあるアイスクリーム店のロケーションを伝える。
ポートランドに来たら絶対に外せないSalt & Strawに立ち寄って朝食後のデザートをゲットできた。
ポートランドでアイス作りに変態的情熱を傾けている創業者のラボでは日々実験のようなアイス作りが繰り広げられていて、コオロギとミールウォームのアイスや牛の脊髄液から取ったスープで作ったアイスとか、、実験〜試食の工程はYouTube で見れたはず。
常人には思いもつかないアイス作りをしていることは確か。
すでに準備万端だった別腹にパンプキンブレッドキャラメルのアイスが染み渡る。
犬用のアイスも一緒に購入し、友人の犬も犬生初のアイスクリームを気に入ったようだった。
時刻は正午前。
コーヴァリスまで戻るのに約1時間半、道中は行きと比べて溶け始めたアイスを食べるのに忙しくしていたらあっという間だった。
PDXへの訪問の達成感が大きかったのも一つの要因だろう。
友人の実家に戻るまでの間、ついでの寄り道もたくさんした。
アルバニーとコーヴァリスの間にある、小さな小さなゴルフ場ではチャレンジングなショットを大成功させて大はしゃぎしながら足を伸ばした。
ゴルフ場に併設されたパブのメニューを見つけて
「TOTS & FRIESのTOTSって何?」
と聞くと
「TOTS食べたことないの!?」
と大真面目に驚かれたり。
太陽の下でほんの少しお遊びのようなゴルフをした後のマイルールといえば、やはりビールでしょう。
コーヴァリスに戻り、タップルームで休憩。
フレイトを3つずつ頼み、わたしはyuzu、beach life、shake chock porter とフレイトならではの普段とは少し違うフレーバーも楽しむことにした。
そろそろおやつの時間。
朝食にあんなに食べたのに不思議なことでもう小腹が空いてきてしまった。
街で一番人気だというタコス屋に立ち寄って、ちょっとスペシャルっぽいモヒートと一緒にソフトシェルタコとチップスで二軒目の乾杯。
クラシックなトラックで食べるタコスとは違う上品でモダンだけど納得の味でリピーターが付くことも容易に想像できてしまうクオリティだった。
コアな時間だと行列で入れなかっただろうと思うと変な時間ではあるが、いいタイミングで行ってみたかったお店に立ち寄れて期待どおりの味に大満足◎
さあ、帰ろうか!
という手前でFred Meyerに立ち寄りたいと言う友人。
翌日に観戦予定のカレッジフットボールのサポートアイテムが欲しいらしい。
だけど、残念ながら戦利品には巡り合えず実家のお父さんのワードローブを見てみることにするらしい。
ようやく帰宅したのが、午後4時半過ぎ。
ランドリールームに必要なものを持って行ってシャワーを浴びてすぐに洗濯機を回した。
「洗濯機回してる間犬の散歩行かない?」
そう、わたし達人間があっちやこっちや寄り道してた間ずっと待ちぼうけを食らってた子がいるのだ。
かわいそうに、簡単な散歩はPDXで済ませてきたけど“散歩”というワードを聞いて即玄関近くに行ってソワソワしていた犬にリードをつけてあげた。
わたしはコープの買い出し、友人は近くの公園を散歩。
レジで精算を終えて商品を詰めていると嬉しそうに尻尾を左右にフリフリ陽気な足取りの犬と友人が戻ってきたのが見えた。
コープの前で大きく手をふるとわたしに気づいた犬がリードを目いっぱい引っ張って猛ダッシュでお迎えに来てくれた。
あとでちゃんとご褒美におやつをあげないといけないな。
20:30、ただいま。
今度こそちゃんと帰宅。
コープで買ってきたプロシュートで夜食をこしらえた。
移動自体は短かったもののたくさん寄り道をした一日になった。
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Yui Horiuchi
東京を拠点に活動するアーティスト。幼少期をワシントンD.C.で過ごし、現在は雑誌のイラストや大型作品まで幅広く手掛ける。2015年に発表した「FROM BEHIND」は代表作。自然の中にある女性の後ろ姿を水彩画で描いた。自然に存在する美や豊かな色彩を主題にする彼女の作品は海外でも評価されている。