HIKER TRASH

ーCDTアメリカ徒歩縦断記ー #8 前編

Contributed by Ryosuke Kawato

Trip / 2018.12.07

この世界には『ロング・ディスタンス・ハイキング』と呼ばれる、不思議な旅をする人種がいる。イラストレーターの河戸良佑氏も『その人種』のひとりだ。ロング・ディスタンス・ハイキングとは、その名の通りLong Distance(長距離)をHiking(山歩き)する事。アメリカには3つの有名なロング・ディスタンス・トレイルがある。ひとつは、東海岸の14州にまたがる3,500kmのアパラチアン・トレイル(AT)。もうひとつは西海岸を縦断する4,200kmのパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)。そして、コンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)。

CDTはアメリカのモンタナ州、アイダホ州、ワイオミング州、ニューメキシコ州を縦断する全長5,000kmのトレイルで、メキシコ国境からカナダ国境まで続いている。
この連載は、そんな無謀とも思える壮大なトレイルを旅した河戸氏の奇想天外な旅の記録だ。


9月1日、僕はワイオミング州を歩き終えてコロラド州に入り、その3日後に最初の街スチームボート・スプリングスに到着した。


州境のスケッチ
9月1日、コロラド州に入る

スチームボート・スプリングスは小規模のリゾートタウンで、補給にはもってこいの場所だ。
僕はこの街に局留めで荷物を送っていたので、まず郵便局に向かった。
ハイカーは局留めの荷物を送ることが多く、その中身は主に衣服や登山用品だ。必要に応じて道具を箱の中から取り出したり、逆に不要になったものを箱に戻したりする。そして、再び次に受けとりたい街の郵便局へ送る。この荷物のことをバウンスボックスと呼ぶ。


バウンスボックス、ハイカーが多い時は見つけてもらいやすい様にマークをつける

郵便局には客が1人もいなかった。僕は受付で男性職員に荷物の受け取りに来たことを告げ、パスポートを渡すと、彼は「少し待っててね」と言ってバックヤードへ下がっていった。5分ほどしてから、ボロボロになった大きな箱を抱えて戻ってきた。

箱を持って廊下まで移動し、ナイフでバウンスボックスを開封する。ぎっしり道具が詰まっている中からガイドブックとチェーンスパイク、そしてウールのシャツとタイツを引っ張り出す。


CDTのガイドブック、必要なところだけ持ち歩く

ガイドブックは必要な部分だけをちぎり取り、残った分はまた箱に戻す。そして、テープで蓋を閉じ、送り状に2週間後に到着するであろう街の郵便局の住所を書いて、発送した。

郵便局を後にした頃には、時刻は16時を回ろうとしていた。今からガスや食料等の必要物資を買い揃えて、暗くなる前にヒッチハイクでトレイルに戻るのは難しそうだ。この街に一晩滞在しなければならないが、安宿がないこのリゾート地で、寝るためだけに100ドルも払うのは馬鹿馬鹿しく思えた。いっその事、どこか適当な場所で野宿してしまおう。どこか良い場所がないか歩いてまわるが、なかなか都合の良い場所が見つからずに徘徊し続ける。

薄暗くなり始めた18時ごろになって、ようやく一つの空き地を見つけた。そこは動物病院の横にぽっかりとあった空き地だったが、道路側に背の高い木が並んでいた為、一度通った時には気が付かなかった。


街の中の空き地でこっそりと野宿をする

周りに人がいない事を確認して、そっと空き地に足を入れる。通りからは死角になっているので、明日の早朝までは誰の目にも止まる事は無いだろう。僕は思い切ってテントを設営して、さっと中に潜り込んだ。閉鎖された空間で身を丸めていると、次第に不安は無くなった。

ここに来る途中に買ったピザとビールで、ささやかな街の食を味わい、寝袋に潜り込む。明日の朝は早く起きて、カフェでのんびりと過ごしてからトレイルに戻ろう。
そんな事を考えていると、いつしか深い眠りに落ちていた。


ヒッチハイクで車に乗せてくれたヒッピー風の男性


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