Vol.4 ストリートシェフの宝庫

Fillin The Gap

Vol.4 ストリートシェフの宝庫

記憶を記号に残す旅

Contributed by Haruki Takakura

Trip / 2023.11.10

ギャップイヤーやバケーションといった人生のスキマ時間。何者でもない、この「スキマ期間」に経験した旅をHaruki Takakuraさんが綴る連載『Fillin The Gap』。


記憶を記号に残す旅(タイ編)

HIP-HOP、スケートボードにスプレーアート。
ストリートでは、DIY的に先人の知恵や細かな工夫が詰め込まれた文化が多く生みだされてきた。時を経た今でも、ストリートの文化は常に変化しつづけている。そして、それはタイのストリートフードにも等しい。
名もなきシェフが集う場所、それがタイのストリートである。
2014年ごろ、タイのストリートフード界にもあらゆるストリートカルチャーが直面する排除のムーブが押し寄せた。それは、ストリートフードのメッカと呼ばれるバンコクの道路や舗道の整理キャンペーンの一環としてのことだった。実際に、違法にゴミの放棄をする商人たちの影響で、街の衛生面がカオス化していたという事実もあったそう。

だが、屋台はあらゆる階級や職種にかかわらず、人々が交流できる数少ない場所。みなが同じプラスチックのスツールに座り、誰もが使い古された箸や曲がったスプーンで同じヌードルスープをすする。まさに、カルチャーがもつ「人々の壁を取っ払う力」が発揮されてきた舞台だ。
そんなカルチャーが少しずつ減少の方向を辿っているという記事を見たときに、なんとか今在るストリートフードや屋台に集う人たちの写真を残したいと思った。もしも今後、街の変化に伴ってストリートフードが高級化してしまえば、屋台は階級や職種に関わらず様々な人たちが集う場所ではなくなり、多様性は失われていくだろう。もしかすると、屋台というカルチャー自体がなくなる可能性だってある。
その前になんとか、屋台という舞台で、見えない壁を取っ払い続けてきた「名もなきシェフたち」の写真を納めたい。そんな想いと共に撮影してきた写真とともに、タイのストリートフードをシェフとセットで紹介していく。


ガイトート(フライドチキン)




in Phuket


日本国内を見ても様々な味付けがあり、韓国風、台湾風など、今や世界中の共通言語とも言えるフライドチキン。さしづめ、様々な味付けは方言といったところだろうか。
ガイトート(タイ風のフライドチキン)は、ナンプラーとにんにく、こしょうで下味がつけられていて、香ばしさと塩味がたまらない。甘いスイートチリソースは必ずセットで出てくる最強のお供で、気づけば次の一手が……追い打ちをかけるように、満遍なく振りかけられたカリッカリの揚げカスがアディクションを加速させる。
いろいろな部位が売られていて、それぞれ手羽先であればピックガイトート、足先であればティンガイトートなど、部位によっても名前を変える。ぼくは、女性シェフのおすすめだったもも肉のノンガイトートをいただいた。

照りつける日差しにジメッとした湿度。そんな中、サッカーのユニフォームらしき服を着て、灼熱の油を相手にガイトートを揚げ続けるストリートシェフ。タイのストリートフード界を先導するガイトートと、そこに彩りを加える店頭の色あざやかな生野菜たちは見た目にはコントラスト、味の面ではいいコンビネーションを生み出していた。







世界中でも稀を見るほど、ストリートフードが豊富なタイ。排除の風にも負けず、ストリートを食で支え続けているシェフの勇姿をぜひ見ていただきたい。
この一流の味をプラスチックのスツールに座って、その勇姿に惚れ惚れとしながら食べる幸せたるやいなや。お腹をすかせてこの記事を読んでしまった人には、大変申し訳ない言葉や写真を並べてしまった気がする……。
ような、しないような。



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