anna magazine vol.11 "Back to Beach" editor's note

「君たちはくら寿司の店員なのか?」

anna magazine編集長の取材日記

Contributed by Ryo Sudo

Trip / 2018.05.10


「君たちはくら寿司の店員なのか?」



3月20日。

ポートアーサーの朝は、湿地帯にも関わらず意外と爽やかだった。
部屋でいつものように筋トレしてから、取材スタート。

とりあえずWAFFLE HOUSEへ。
昨日一日の食事ですでに胃がもたれていたので、サイドメニューにトマトをオーダー。
トマトは食欲を増進してくれる、魔法の食べ物だと思う。

ポートアーサーを散策する。グアダルーペのマリアがいる教会へ。
ステンドグラスを見たかったのだけれど、新しいし、妙にモダンでなんとなく印象に残らない教会だった。
今回の旅の裏テーマはジャニス・ジョップリン。
彼女は教育熱心かつエッジの効いた両親に育てられたようで、小さい頃は教会で歌い、パブリックライブラリーに連れてかれていたらしい。

ポートアーサーは本当に「何にもない」街。
テキサスの外れ、ルイジアナの文化にやや近い。

昨年の大きなハリケーンで、ジャニスが通っていたらしいパブリックライブラリーも破壊されてボロボロだった。

ジャニスの生家に行く。
新しく建て替えられていて、建物には何の感慨も湧かない。
けれど、裏庭まで足を伸ばしてみると、なんだか胸がきゅっと締め付けられた。
彼女はきっと、この景色を見て育ったんだなって。



今回の特集“Back to Beach”なので、とりあえず海に向かう。

ポートアーサーの海は運河と人工的な湾だ。
茶色の海はどこまでもさみしく、黒人の少年がひとり、釣りをしていた。



街の博物館、ガルフミュージアム。
ジャニス以外にも、この地域出身の有名人をキュレート。
もちろんジャニスは特別扱いだったのがちょっとうれしかった。
彼女が乗っていたサイケなポルシェのレプリカは、本物よりもグレードの高い車種らしい。
ここの学芸員の女性に海へのアクセスを聞いてみると、40分ほど先に美しいビーチがあるとのこと。
僕としてはジャニスも見ていたはずの、港のさびれた雰囲気の海をみたかったのだけど。
やっぱりanna magazine的な視点というのは、伝わりづらい。



この街のダウンタウンは、ところどころ管を埋め込んである。
水害対策の工事だ。そして、再びヒューストンへ。

まずはビールの空き缶で作った、Beer Can House。
風が吹くとビール缶がカラカラといい音を立てる。
思いのほか清潔で明るいのに驚く。

次に、アメリカの偉人のでかい顔の彫刻を作っているアーティストのアトリエへ。
事前にリサーチした住所はすでに引っ越していたが、隣のデザイン事務所の人たちが親切に転居先を調べて教えてくれた。
こういうとき、アメリカ人はとてもいいやつだ。たいていの場合。
でかい彫刻がたくさん並んでいるのは、ばかばかしくて最高だった。



その後は、昨日見つけた大学の付近の、ミッド・メインという街角を取材。
カフェに入ってコーヒーを飲んでいると、店のオーナーが「君たちはくら寿司の店員なのか?」と話しかけてきた。
この付近は最近急にいろんな店が増えたとのこと。
このカフェはまだ7年目なのに、結構いい味が出てる。
アメリカ人は、アンティーク上手だ。街をあれこれ撮影してまわる。



やっぱりローカルの人たちと言葉を交わすだけで、状況は視点は鮮やかに変化をする。

リチャード・リンクレイターの「6歳のぼくが大人になるまで」のロケ地、ヒューストン大学と公園へ向かう。
どちらもこれといって特徴のない場所だった。

リンクレイターは「なんでもない風景」を印象的に切り取るのが上手だし、きっと本人もそういう風景が好きなんだと思う。
行きの飛行機で観た「スクールオブロック」は全然好きじゃなかったけど。



スタッフが友人から聞いた、”Screwed up recoads&tapes”へ。
ヒューストンの南のはずれ、ちょっとあやしい地域にあるレコード屋だ。
一歩足を踏み入れて観たら、衝撃的!DJスクリューがオリジナルだという、けだるい歪んだリズムが流れる倉庫みたいながらんとした空間には、でかい体の男2人がいて、ほんとうに無造作にTシャツを並べているだけ。
「どこにレコードが?」と思っていたら、入り口近くに置いてあったカラオケの歌本のようなファイルに、ミックステープのリストが書いてあって、そこから好きなものを選ぶと奥でミックスCDやテープを焼いてくれるシステムだ。
たぶん地元のギャングの溜まり場なんだと思う。
香ばしい匂いが漂う店は、まるで高校生の部室の延長のようだ。
“WHO IS ORIGINAL?”と大きくプリントされたTシャツが印象的だった。
「日本からわざわざ来たのか?」と驚かれて、iphoneでムービーを撮られる。
Youtubeにアップするのだという。



夕方、日本から移住した友達に会いに行く。
彼は10年ほど前は日本のアパレルブランドのプレスとして活躍していたのだけど、今はヒューストンで、“BEAUTY EMPIRE”というウィッグの専門店を経営している。
店は、とにかくでかかった!
黒人女性向けのウィッグを売っているいう話は以前から聞いていて、いまひとつイメージできずにいたけど、実際に来てみてはじめてその仕事を理解できた。
黒人女性にとって「パンツよりもウィッグが大切」というほどウィッグは大事なアイテムらしい。
友人も自分がこの世界に身を置くまで、こんな業種があるとは少しも理解できなかったとのこと。

世界は広い。

日本人の彼がこの仕事をするのに、どれだけ苦労したのかと聞いてみた。
「いや、全部普通なんです。なんにも考えず、目の前のことに対応していたら、こうなっていました」

うーん、すごいカッコいい。

こうした街ならではの豆知識をたくさん聞く。
カルチャーショックだ。



会社のスタッフがハイウェイを運転中に寝る。
2車線ほど斜行して、事故寸前だった。
たいていのことでは動じないカメラマンが焦っている姿を初めてみた。

ヒューストンを出発して、オースティンへ向かう。

途中ガソリンを入れに立ち寄った巨大ガソリンスタンド、Buc-ee’sが最高だった。
ビーバーのキャラクターの充実しまくった商品展開も最高だけど、それよりもトイレのきれいさが半端じゃない!
常にスタッフが掃除している。
アメリカとは思えないきめ細かいサービスも最高。
あたりまえの業種でも、ひとつのサービスを極め抜くだけで、こんなに魅力的になるんだね。



夜はオースティンモーテルへ。

フロントで渡された鍵を使ってライターが部屋に入ると、驚くことにすでに別の人が寝ていたらしい。オースティンは数日前から無差別の小包爆弾テロで大騒ぎなのに、そんな感じで目の前には牧歌的な日常が広がっていた。





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