LATVIA
光を祝い、闇を尊ぶ バルト海の村で過ごした夏至祭
Contributed by anna magazine
Trip / 2017.11.15

全く日が沈む気配のない17時過ぎ、祭りの会場に到着すると、各地域の特色ある民族衣装を纏った老若男女が集まりはじめている。山積になった摘みたての花から思い思いの色を選んで、楽しそうに花冠を編む女たち。手製の飲み物を振る舞ってくれる紳士たちの頭は、おおきな柏の葉で編んだ冠で飾られている。植物を身につけた人々の姿は格別に自然と融和しているから、何も飾りのない自分がなんとも味気なく、無機的な存在に思えてくる。そんな私を見て、すれ違った女性が「あなたもどうぞ」とマーガレットをあしらった可憐な花冠を私にくれた。

初老の女性伝承団が、アコーディオンやバイオリンを奏でる。楽しい音にあわせて、人々が輪になって踊る。二列になってアーチを作って、その中をくぐりあったり、相棒を早く見つける競争をしたり。言葉が通じなくてもすぐに輪に入れるような踊りが延々とつづく。皆、汗をかくほど踊りまくっている。
ひとしきり踊ったあとは素晴らしい御馳走を食べながら乾杯。豚肉の薫製、チーズ、果実酒、どれも手作りで香り高い。宝石のように輝くベリー、香草を練り込んだパン、森のキノコなど、夏の豊かな食材を余すところなく活かした手料理だ。
食べたら、又踊って、歌って……それを繰り返すうちに辺りが青白く暮れ始めた22時過ぎ、人々がそろそろと移動をはじめた。皆、海辺に向かって歩いている。さっきまであれだけ騒いでいたのに、この時は粛々と、足音をたてるのもはばかられるような特別な空気が、歩く人々の中に流れている。
浜で松明をたいて、火を囲み、みんなで海に向かって、一年でいちばん長い日を祝う歌をうたう。肌寒い潮風が流れる。「自然の神々よ、ありがとう。今年も美しい夏を我々に与えてくれて」人々の思いをのせた歌声が、白くて長い浜に漂う。バルト海の波が、それを大らかに受け止めて絡めとっていく。

ついに日が落ちた。さっきまでいた祭りの会場に戻ると、長老が大きな火を焚いた。今度は若い男女がギターを弾きながら歌う。火を囲んで座っている人たちは、静かに語らいながら、二人の歌声を聴いている。やっと酔いがまわって来たのか、体格のいい若者がふらつく足どりで火に近づいて、大きな炎に見とれていた。あと数時間で闇が明ける。今日から少しずつ長い冬のときに近づいていく。
写真,文:在本 彌生
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