Couch Surfing Club -Seoul Art Walk編- #4
Urban maze
Contributed by Yui Horiuchi
Trip / 2024.08.20
#4
2日目、朝8:30 の出発。
初日の移動の疲れもあって爆睡したので、目覚めはよかった。
10:00のリウム美術館の開館に合わせて、朝ごはんの調達と散歩ついでに早めの出発だ。
昨晩、帰り道に見つけた川縁の歩道を散策しつつ広蔵市場に向かう、通勤か朝の日課かたくさんの人が歩いていた。
歩きながら聞こえてくる川のせせらぎと涼風が心地よく、目覚めに最適だ。
時刻は朝9時、市場はすでにたくさんの利用客で賑わっている
朝イチの市場は活気に満ちていて、友人に頼まれていたエゴマ油のお店を見つけたり、自分の欲しかった韓食器のお店も見つけテンションが上がる。
今日はこれから美術館なので、明日またお土産を買う目処を立てつつ、目に入ったキンパ屋で食事中のおばちゃんに「マシソヨ〜」と言われるがまま、そこのキンパとシッケ(お米のジュース)を買った。
最寄りのチョンノオガ駅に向かい、地下鉄でイテウォンへ
地下道に続く出入り口には、空き箱と一緒に鎮座する玉ねぎと大量の卵……またなんかすごい状況を目の当たりにする。
6番線に乗りハンガンジン駅で降りると、早速パブリックアートがお目見え、Ugo Rondinoneの作品だ。
リウム美術館へ続く道にはPACEギャラリーが、後で寄る予定
リウム美術館のサインが見えてきた
ここに来るまでも結構な急な坂を登るので、歩きやすい靴は必須
いよいよ美術館の入り口が見えてきた、人のいる辺りを右に曲がると美術館のメインエントランスがある。
📍 Leeum(リウム)美術館
Leeum(リウム)美術館は、世界的な建築家であるマリオ・ボッタ、ジャン・ヌベール、レム・コールハースがそれぞれ1棟ずつ設計したことでも有名。
サムスングループの創始者イ・ビョンチョルさんが生前に集めたコレクションを公開するためにオープンした美術館で「Leeum」という名前は、ビョンチョル氏の名字の英語表記「Lee」と「Museum」を組み合わせたものらしい。
宮島達男の作品が敷き詰められたスロープを降りて入場だ。
上部の回転するロゴは館内の螺旋階段の一部を彷彿とさせる。
エントランスの右手屋外では、アニッシュ・カプーアの作品《Tall Tree & the Eye》が堂々とお出迎えしてくれた。
現在、この屋外設置作品は12年間の役目を終え、2024年2月に開催されたフィリップ・パレーノの最大規模の個展を機に《Membrane》という塔の作品に入れ替わっているらしい。
レム・コールハースの棟に反射するカプーア、でかい
ジャン・ヌーヴェルの棟にはLaurent Grassoの作品《Memories of the future》
開館時間まで15分ほど余裕があったので、「世界的アートと建造物に囲われながら」という贅沢な空間で300円のキンパを頬張った。
ちびっ子たちのアート教室だろうか。
芝生の上に転がって楽しそうだ。
こうやって幼少期に水準の高い教養に触れられることは貴重だろう。
わたし自身初の現代アートとの出会いは高校生の頃、オペラシティアートギャラリーで衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えている。
いざ入館
読めない案内はパパゴで画像翻訳するとこんなかんじ
未予約者なのでチケットカウンターへ。
右手奥に見えるのがチケットカウンター。
レセプションエリアには企画展示中のWillow Book Oriole展からKang Seo-kyungの作品。
チケットカウンターの右手奥に返却式のロッカーとお手洗いがあったので、大きい荷物があって利用したい方はおすすめ。
現代美術館の施設は隅々まで一味も二味も違うことがあるので個人的にはトイレが要チェックポイント。
流石にクリア便座はわたしも想定外だった。
変わらずトイレの注意書きは翻訳してみることに
✔️古美術館(M1)コレクション展
展示の順路が決まっているみたいなので、案内に従い最初は4階の古美術館(M1)コレクション展へ。
マリオ・ボッタの設計した展示空間では朝鮮白磁や高麗青磁の常設のコレクションを見ることができる。
写真はわたしが一番気に入った15世紀の水筒。
虎のベルトの留め具も可愛かった
国宝級の茶器が並ぶ展示に至っては什器やディスプレイも含め美しい。
ちなみに常設展や恒久設置の作品は無料公開だそう、さすがサムスン、太っ腹。
国立美術館以上のレベルと囁かれるサムスンのコレクション、現代アートに興味のない方でも常設展は一見の価値ありだと思います。
照明をグッと抑えて静謐な空間を演出している古美術の展示から順路に従い展示室を抜けて光の世界へ導かれていく。
視覚的にも触覚的にも魅力的なベンチがあったので、少し腰掛けてみた。
座り心地も良くて変化していく展示空間に個性的なアクセントを加えている。
展示室を出ると真っ白な空間
自然光が差し込み光がキラキラと遊んでいる。虹のような影もちらほらと
見上げると天窓にはキム・スージャによる《To Breathe》の特殊なフィルムによって虹が見える構造になっている。
闇から光、古典から現代へと螺旋階段で展示室の切り替えを図っているコントラストが美しい。
真下にはレセプションがありエントランスで見た作品が中央に鎮座していた。
展示室はさらに未来的な空間演出の際立つ、恒久設置作品のオラファー・エリアソンのインスタレーション作品《Gravity Stairs》へと続く。
M1からM2への空間移動、圧倒的なラストを飾るに相応しい未知の宇宙へと誘われるかのようなインスタレーション。
彼の一貫したテーマである自然現象や物理的原理の探求を感じさせる作品としてとても印象的で、天井と正面の鏡ばりも相まって、確実にフォトスポットとして人気を博していた。
1階に戻りM2へ移動する。
エントランスで見かけたWillow Book Oriole展の続きだ。
✔️Willow Book Oriole展
私設美術館でいろんな協賛がついてることはよくあるが、ボッテガヴェネタの協賛がついているのは初めて見た。
展示室のフロアは実質的に地下1階となっているが、2階部分までの吹き抜けと大きな採光用の窓から自然光が差し込む地下空間は、外観の腐食した鉄壁とガラスが与える冷たい印象とは対照的に温かみのある雰囲気が創り出されていた。
ちなみにこちらが外観。
ネオンの作品が設置されていた建物の別角度だ。
作品に使用されている毛糸やラグのような作品の表層も相まってかさらに温かみの伝わってくる空間になっているようだった。
この展覧会は、Kang Seo-kyungの最大規模の美術館での個展であり、既存のシリーズ作とともにそこから発展した多様な形態の彫刻インスタレーション、さらに新しいビデオ作品を展示していた。
最後にレム・コールハースが設計した児童教育文化センターの展示室に移動する。
このどでかいブラックキューブの中が展示室になっている。
✔️How to become a rock展
ここではKim BeomのHow to become a rock展を開催中。
美術館やギャラリーの展示空間を指す用語で、通常、白い壁と均一な照明が特徴的な展示空間のことを総じてホワイトキューブというのでレムらしいアイロニカルさを感じた。
児童向けの展示空間をネーミングから想像していたがすでにかなりディストピア感が漂っている。大丈夫か?(笑)
展示空間のど真ん中を貫くのはエスカレーター。
スロープで地下の展示空間に歩いて降りてきてから、このエスカレーターで先ほどのブラックキューブの中へ吸い込まれるデザイン。トリッピー!
展示室はというと床面の水平を測っている女性が、学芸員さんだろうか、大変ご苦労さまです
Kim Beomは韓国の主要な現代アーティストであり、この大規模な回顧展では、70点以上の作品が展示されており、韓国では初めて見る作品や海外のコレクションからの作品も含まれている。
目を引いた作品の一つ、タイトルはストレートに『Pregnant Hammer』この作品は、ハンマーと受胎を結びつけ、物体にも生命が宿るという考えを表現しているらしい。
「生む」の曖昧さを示し、彼の物体にも生命が宿るという考えに基づいた物質主義的信念をユーモラスに描いた初期の作品だそうだ。
個人的にツボった《Objects that Learn to Be Just Tools》という2010年作の作品
自分達がただの道具であることを学ぶ様子を再現したインステレーション作品だ。
こう見せられるとただの物体やツールでさえも個性を持っているように見えてくるので可笑しくもあり、可愛さすら感じさせられる。
キャンバスに鳥のエサでメッセージが書かれたこの作品のタイトルは《Scarecrow》納得
テキストの内容はこうだ
『朝に藁帽子をかぶり、このキャンバスを畑に持って行ってください。
そこでキャンバスを地面に置きその前に立ち、腕を広げたまま動かないでください。
たとえ鳥がこの粒を食べても動かないでください。
夕暮れにこのキャンバスを持ち帰り家に戻ってください』
つまり人間がカカシになるよう仕向けたインタラクティブ(?)な作品だった。
実際、指示通り実践されたことがあるかどうかは未知だが、想像してみるのは楽しい。
ブラックキューブを後にしようと出口の写真を撮りたかったのだが、お姉さんが何度も行ったり来たり、彼に写真を撮ってもらっていて映えたいのはよく分かるがなかなか居続けるので居るまま写真を撮ったら逆にびっくりされた、エッとなったその瞬間。
ミュージアムショップのアイテムをコレクションする韓国の若者たちがいるという噂は聞いていたが、ここにも素敵なアイテムがたくさんあったので、その噂が本当であることは容易に確認できた。
余談だが、常設展示が会議室などある地下通路にも。
くまなく美術館のアクセス可能なエリアを散策すると予期せぬ発見があるかも。
大充実のリウムを後にして次は先ほど通過してきたPACEギャラリーに向かう。
📍 PACEギャラリー
ギャラリーの本展示の前にPACEギャラリーの運営するカフェで一息つく
カフェでもDavid Byrneの展示が開催中だった、昔原宿のVACANTで開催された個展を手伝ったことが懐かしい。
一緒に水炊きをつついたのも今となっては幻のようだ。
値段もおしゃれ(!?)な抹茶ドリンクと韓国の伝統菓子薬果(ヤックァ)をいただいた。
糖分摂取をしてギャラリーへ移動。
✔️Tornade Rose展
1階ではRobert NavaのTornade Rose展を開催中。
新作にあたる6点のペインティングが展示中。
1階部分のギャラリースペースは作品より展示空間の贅沢さに目がいってしまった。
2階へ移動中、ローレンス・ウェイナーの作品を壁面に発見する
2階に上がっていく階段のファサードがカッコ良い
2階では奈良美智の陶器の作品にフォーカスを当てた個展が開催中だ。
エントランスでは作品の安全性のために手荷物やジャケットを置くように指示された。
徹底されていて素晴らしい。
✔️Yoshitomo Nara: Ceramic Works展
たくさんの壺
の中に魑魅魍魎つぼ
彼の作品は特に女性に親近感を抱かせるような少女の顔の作品が特徴的で、多くの人に親しまれており、温もりのある家具と共に展示されることで人の手で成形された陶器の暖かさととても調和していた。
一階のコンクリート打ちっぱなしの展示空間とは対照的に木目の温もり漂う2階のスペースが印象的。
PACEを後に、道路を挟んで向かいにあったコムデギャルソンに立ち寄る。
建物が面白いデザインで、階段がない代わりに最上階までエレベーターで上がることができ、そこからひたすらスロープで1階まで螺旋状に降りていく仕組みだった。
撮影禁止で入店時からピッタリとイケメン店員さんに付き纏われていたのでカメラロールには撮影禁止と知る前のこの写真だけが残っていた(笑)。
聞くところによるとアイドルの練習生やモデルの卵がこの街でアルバイトをしてそこからレッスンに向かったりもするんだとか、気にかけ始めたらスラッと高身長の男の子や絶対もう既にモデルだろうという感じの女の子もちらほら。
その後も少しイテウォンを散策。
リウムに向かう道もそうだったけど、狭くて細い坂が目抜き通り沿いにたくさん派生して伸びていて剛脚になりそうな街並みだ。
ヒーチャンが以前手伝っていたというPost poeticsに立ち寄る。
坂道に建っているのがよく分かる写真。
写真や建築まで貴重な本がセレクトされているので興味のある人はぜひ立ち寄ってみてほしい。
いわゆるアート系の書店だが雑貨やカレンダーなどお土産を探しに行ってもいいかも◎
📍 WWF(working with friend)
上のフロアにWWF(working with friend)というギャラリーがあると聞いていたのでエレベーターで移動。
コラボレーションすることを前提に運営されているスペースらしい
✔️Pygmalion Project
Cho Hyunseoの個展、Pygmalion Projectを開催中
シルクスクリーンの作品を見ることはたくさんあるが版をそのまま屋外に展示していて新鮮だった。
メイン通りのイテウォンロに戻るとポップアップのフセイン・チャラヤンの展示も見かけたのでついでに立ち寄ってみた。
学生の頃によく美術館などに作品を見に出かけていたことが懐かしく鮮明に蘇った。
少し歩くと大きな空洞が目立つ建築物が
車メーカーで有名なヒョンデの運営する会員制の音楽ライブラリーだった。
知らなかったが、ヒョンデがクレジットカードも発行しており、ここはクレカ所有者のみが入店することのできる会員制の音楽ライブラリー、2階がラウンジになっておりラグジュアリー感を醸し出していた。
(クレカ所有者となら2名までゲストで入場することが可能らしい)
地下フロアはライブハウスになっている模様
地上にボックス上のかわいいチケットカウンターがあり、週末はここに若者が並ぶんだろうなんて想像した。
外壁のファサードを彩る壁画は5年に一度変わるらしく、開設当時の2015年にはJRに始まり2023年10月時点ではLAベースのアーティストAlex Pragerによるものになっている。
並びにはVinyl and Printという系列のレコード&CDショップもあるのでそちらは自由に入店可能なので気になったらぜひ立ち寄ってみてほしい。
📍 Lehmann Maupin
道路を渡り、友人がセールスを務めるLehmann Maupin(リーアン・マーピン)に立ち寄る。
2021年に移転したというSoA: Society of Architectureがデザインした新スペースにはテラスが付いており、テラスでも展示をすることがあるそうだ。
✔️World People
Lehmann Maupinソウルでは、アメリカのアーティスト、著者、キュレーターであるデヴィッド・サリーの新しい絵画展「World People」を開催中。
ギャラリー中央の階段は壁面を生かして展示がされていて、空間を隔てた2へと進むと小作品が展示されている。
各作品は広々とした空間に巧みに配置されており、充実した展示配分となっていた。
Seoul Art walk #4の話は一旦ここまで!
#4~#5でめぐった場所はMAPをご参照ください。
アーカイブをチェック↓
NY編はこちら
西海岸ロードトリップ編はこちら
Seoul Art Walk編はこちら
Tag
Writer
-
Yui Horiuchi
東京を拠点に活動するアーティスト。幼少期をワシントンD.C.で過ごし、現在は雑誌のイラストや大型作品まで幅広く手掛ける。2015年に発表した「FROM BEHIND」は代表作。自然の中にある女性の後ろ姿を水彩画で描いた。自然に存在する美や豊かな色彩を主題にする彼女の作品は海外でも評価されている。