The Route #6「anna magazine編集長の取材日記」

500gリブステーキ、バンズ添え

anna magazine vol.12 "Good old days" editor's note

Contributed by Ryo Sudo

Trip / dec.20.2018


500gリブステーキ、バンズ添え」



9/21
Anchorage

1939年に建てられたというアンカレッジの「クーパーホエールイン」はこじんまりしていて最高だった。外壁の赤とグレーと組み合わせがチャーミングで、50年以上も前の建物なのに、とにかく清潔なのがうれしい。友人の家に遊びに来たような気分。



「フィッシャーマンの女の子知らない?」

朝ごはんを食べながら、ホテルのスタッフにと話しかける。自分もサーモンを釣りによく出かけるらしく、あれこれていねいに相談に乗ってくれて嬉しかった。実は昨日フライショップのオーナーに紹介してもらったフライフィッシャーの女の子と、突然連絡が取れなくなってしまったのだ。ちょっとインスタグラマー的で派手なムードの女の子だったので、こうなることも何となく予想はしていたのだけど、やっぱり少し残念だった。

昨日は別行動だった「プロ給油師」が、昨日のドライブ中にフライフィッシングのポイントを見つけた、という情報を信じて、「クーパーランディング」というアラスカのフライの聖地まで行ってみることにする。



ガードウッドという街を過ぎて、ターナゲン入江沿いを走る。
ホテルで教えてもらったアラスカ・ワイルドライフ・コンサベーションセンターへ。アラスカの野生動物をまとめて見られる施設だ。スクールバスで遠足に来ていた小学生たちと一緒になって、ムースにクマ、イーグルに狼まで、図鑑でしかみたことのないような動物を驚くほど近い距離で見た。「つまりは、動物園ってことだよね」とそれほど期待していなかったのだけど、バッファローを見つけると、僕たちのクルーは小学生たちを押しのける勢いで走り出すのだった。柵の有刺鉄線には、電気が流れているようで、ぱちぱちと嫌な音を立てていた。1時間程度でアラスカのワイルドライフ的風景をざっくりと体感できた。





…これでいいんだっけ?

入江の一番奥で道を折り返すと、風景が一変。美しい紅葉がどこまでも広がる森の中を延々と走る。紅葉に赤い色が少ない。ぼうっと車窓の風景を見ていた僕は、キアヌ・リーブス主演の映画『スイートノベンバー』を思い出して、意味もなく寂しくなる。携帯電波もぜんぜん届かないし、どうせなら格好つけて感傷に浸ることにした。たまにはいいね。



クーパーランディングに着くと、確かにフライフィッシングを楽しんでいる人々がポツポツといた。若い人が多いのが意外だったけれど、思った通り男ばかり。女の子の釣り人を探して、どんどん奥まで車を走らせた。ここで見つからなかったらあきらめよう決めていたポイントで、奇跡的にカップルを発見。とても気さくな人々で、川べりでボートを出すところを撮影させてもらう。思ったより川は流れがとても早くて、少し怖かった。





フライフィッシングをモチーフにしたロバート・レッドフォードの『リバーランズスルーイット』って映画はかっこよかったっけ。ストーリーはほとんど覚えてないのに、やけに強く印象に残ってる。映画の魅力って、そんな感じなのかもしれない。

帰り道、あやしげなBBQレストランに立ち寄る。思いのほか店内は清潔だった。にこやかな大男の店主が、常に動きながらあちこちを綺麗にしている。その細やかな動きに「ふむ」と感心していると、やっぱり料理も美味しかった。ポークフィレサンドとリブサンド、あとはマッシュルームのピザ。全部美味しい。ちなみにリブサンドはもはやサンドイッチじゃなく、「500gリブステーキ、バンズ添え」といった風情だ。アラスカの地ビール、キーナイブルワリーのドラフトも軽やかでおいしかった。

少し酔いながらみんなで話したのは、カメラマンとライターがアメリカに来たばかりの頃の話。2人ともほとんど英語が話せないのにも関わらず、アメリカ人ばかりのコミュニティに飛び込んだらしい。「寂しくなかった?」と聞くと、どこにでも必ず面倒見のいいヤツがいて、ほとんど英語が話せなくてもなんだかんだと声をかけてくれるから、全然大丈夫だったらしい。

「その代わり、もしそういう親切なヤツらに誘われたり、何かを頼まれたら絶対に断らなかったな。例えどこに行くのか、何をするか全然分からなかったとしてもね」

仲間に入れてもらう、というのは誰にとっても、何歳になっても、どんな状況でも嬉しいこと。だから、自分のコミュニティに新しく誰かが加わったら、できる限り自分からあれこれ誘うべきなんだと思う。それは理解しているのに、僕は全然同じように振る舞えない。「もしかして誘ったら相手に迷惑なんじゃないか」とか。自分だったら間違いなく嬉しいのにね。うん、これからはできるだけ声をかけよう。誘おう。そして誘われたら、できる限り断らないようにしよう。

帰りに例の入江沿いを走っていると、でかいサーフボードを抱えて歩いているグループを発見した。潮の満ち引きで入り江を海水が逆流して起きる波でサーフィンを楽しんでいたらしい。1日に一回、30分とか45分とか、そんな長い時間波に乗り続けられる“TIDAL BORE SURFIN”という遊びだ。エクストリーム好きな人というのはどんな自然現象でも遊びに変えてしまう。女の子もいたので少し話を聞いてみる。あれこれ教えてくれてとてもいい人たちだったけど、どことなく内向きな感じがした。僕らを見ているようでいて、実際は自分たちのコミュニティしか見ていないような。昨日会ったスケーターのテッドとは対極的だった。

「ドレッドの白人は信じちゃいけないね。だって“自然”じゃないじゃん」

そんなカメラマンの一言に、なんとなく納得。

ガイドから教えてもらった、ローラースケートリンクが最高だった。まるで、バッファロー66の世界。70年代にタイムスリップしたのかと思った。ティーンエイジャーたちがたくさん集まって実に楽しそうにリンクをぐるぐる。かわいいブロンドの子にはイケメンの彼氏がいて、少しナイーブそうな子と、眉の太い、気の強そうな女の子。それと、オタクのような太った男の子。

1分見ていたら誰でも簡単に相関図を書くことができるほど分かりやすい世界だった。僕がずっと小さい頃から見ていたアメリカの縮図。誰もが幸せそうだった。古い映画のセットみたいだけど、ここに集まる人たちにとってこの場所は全然古くなんてなくて、「今」そのものなんだ。うん、やっぱり捨てたもんじゃない。

アンカレッジ唯一の日本料理店「やまや」でチョイスしたのは、焼き魚定食。あたたかい味噌汁はかなりの薄味だったし、お店のおばあちゃんは何度も同じ話をしていたけど、なんだかホッとした気分になった。

アンカレッジ最終日は、少し高級なホテルに決めた。

Tag

Writer