ロング・ディスタンス・ハイキングという旅。

HIKER TRASHーCDTアメリカ徒歩縦断記ー♯01

Contributed by LUKE magazine

Trip / mar.06.2018



この世界には『ロング・ディスタンス・ハイキング』と呼ばれる、不思議な旅をする人種がいる。
僕も『その人種』のひとりだ。ロング・ディスタンス・ハイキングとは、
その名の通りLong Distance(長距離)をHiking(山歩き)する事である。



アメリカには3つの有名なロング・ディスタンス・トレイルがある。
ひとつは、東海岸の14州にまたがる3,500kmのアパラチアン・トレイル(AT)。もうひとつは西海岸を縦断する4,200kmのパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)。そして、これから僕が歩こうとしているコンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)。
CDTはアメリカのモンタナ州、アイダホ州、ワイオミング州、ニューメキシコ州を縦断する全長5,000kmのトレイルで、メキシコ国境からカナダ国境まで続いている。どのトレイルも、とてつもない距離だ。

難易度はAT、PCT、CDTの順番に上がる。あまりに長いので、セクションに分けて数年がかりで歩くハイカーのことを『セクション・ハイカー』と呼ぶ。その一方、ワンシーズンで全行程を歩き切るハイカーもいる。彼らは『スルー・ハイカー』と呼ばれる。

ワンシーズンと言っても1年かけて歩くのではなく、だいたい6ヶ月弱で歩く。これは雪が降る期間をできるだけ避けて歩く為だ。

スルー・ハイカー達は毎日30km以上歩き続け、基本的に山でテントを張って生活し、食料が無くなるとヒッチハイクで町に降り、補給が終わるとまた同じ場所に戻って歩き始める。

僕は2015年にPCTをスルーハイクした。今度は更に難易度の高いCDTを、2017年の6月からカナダ国境をスタートし、メキシコ国境までスルー・ハイクしようとしていた。

6月16日、僕はカナダのカルガリーにあるホステルの二段ベッドで目を覚ますと、寝室にはダイニングから大音量で流れるダンスミュージックが鳴り響いていた。眠たい目を擦り、ベッドから気怠く脱出して、ギシギシと軋む梯子を降りる。

「クソうるさいわね。でも、この曲は好きよ」

下段のベッドで寝転んでいたマリアがスマートフォンを触りながら僕に言った。

「そうだね」

「そうそう、誰かが焼いた大量のパンケーキが、キッチンに置いてあったわ」

「いいね。貰ってくるよ」

ダイニングでたむろしている旅行者に挨拶をしながらキッチンへ抜けると、冷めたパンケーキが10枚ほど積まれていた。綺麗に焼けている3枚を抜き取りメイプルシロップをかけ、ダイニングに戻る。パンケーキを口に放り込みながら、CDTの地図とガイドブックをテーブルに広げて眺め、そして溜息をついた。

明日には出発しようと計画しているのに、CDTのスタート地点であるウォータートン国立公園まで、どうやって行けばいいのか分からないでいたからだ。



「もしかして、スケッチかい?」

突然、声を掛けられたのは、そんな時だった。

『スケッチ』とは僕のトレイルネームだ。トレイルネームとは、ハイカー達がお互いを呼び合うニックネームのようなもので、ハイカー同士しか基本的に使わない。僕はPCTを歩いてる時に絵を描いていたので、スケッチと呼ばれるようになった。



驚いて顔を上げると、そこには見覚えのある髭もじゃ顔の男性が満面の笑みを浮かべて立っていた。

「え! ライミーじゃないか!」

僕は思わず叫んだ。なんと目の前にいたのは2年前にPCTで出会ったイギリス人ハイカーのライミーだった。彼は去年CDTをハイクしたのはフェイスブックで知っていた。

「本当に久しぶりだね! でも、どうしてまだカナダにいるの?」

「実は歩き終えた後、カナダにワーキングホリデーで滞在してたんだよ。そして、明日イギリスに帰国するから、このホステルに泊まってたんだ」

僕らは偶然の再会を喜び、PCTの思い出話に花を咲かせた後、カルガリーからウォータートン国立公園までの行き方を尋ねてみた。

「途中までバスで行けるけど、その後はヒッチハイクだね」

予想外の答えに驚いた。僕はてっきり何かしらの交通機関で、国立公園まで移動できると思い込んでいたからだ。



翌日ライミーに別れを告げ、ホステルをチェックアウトしたのは昼過ぎだった。カルガリー市内で5日分の食料を購入し、薄暗くなってきた頃にバス停へと向かう。バスは4時間程かけて国境から70キロ程離れた位置にあるピンチャー・クリークという町に到着した。

町といってもドーナツ店とガソリンスタンドしかない。さすが辺境である。ここから先はヒッチハイクなのだが、こんな場所でクルマなど捕まるのだろうか、もしかしたら成功するまで数時間かかるかもしれない。そう思いながら道路の中央分離帯で親指を立てて、じっとクルマが止まるのを待った。



しかし、そんな不安に反して、たったの30分程で1台のクルマが止まった。急いで駆け寄り「ウォータートン国立公園まで乗せてくれないか?」と男性ドライバーに尋ねた。

「ああ、いいとも!俺はそこで働いているんだ」

まさか国立公園の従業員のクルマとは運が良い。こうして大した苦労もなく、この旅最初のヒッチハイクは無事に終了した。



ウォータートン国立公園のトレイルヘッドにある駐車場から少し進むと、一本のトレイルが伸びていた。脇には木々が生い繁り少し薄暗い。入口付近にある木製の掲示板には、CDTのサインが打ち付けてある。





いよいよ5,000kmのハイキングが始まる。ただひたすらアメリカ大陸を南下し続ける旅。CDTのサインがあるものの本当にこの方向で良いのだろうか?と思いながら、ふらりとトレイルに足を踏み入れた。

旅の1歩目は、いつもなんとなくだ。


河戸良佑/イラストレーター
1986年生まれ、独学で絵を描いていたら、いつの間にかイラストレーターに。
20代は海外をバックパッキングしていたが、最近では海外の長距離ハイキングに興味を持っている。
2015年にパシフィック・クレスト・トレイル、2017年にはコンチネンタル・ディバイト・トレイルを踏破。

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